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Interview

2016.12.26

介護保険制度改正、利用者の視点でどうみるか 家族の会が抱える「強い危機感」

 


3年に1度のサイクルで行われる介護保険制度の改正が迫っている。来年の通常国会における審議に向けて、国は実現を目指す内容を大筋で固めた。
 
軽度者の生活援助は原則として自費にすべき ー 。地域支援事業に移すサービスを増やすべき ー 。財務省などが訴えていたこうした改革は、業界の抵抗もあって採用を見送られることになった。一方で、利用者の自己負担を今より重くするという。現役並みに所得のある人を3割とするほか、介護の出費が家計を圧迫し過ぎないように設けている「高額介護サービス費」も見直し、ひと月の上限額を一部で引き上げるとした。加えて、2018年度に控える次の介護報酬改定への反映も視野に入れつつ、給付を抑制する施策を引き続き協議していく方針も示されている。
 
こうした中身をどのように捉えているのか。社会保障審議会・介護保険部会の委員として議論に参加し、利用者の立場で発言してきた「認知症の人と家族の会」の花俣ふみ代常任理事に聞いた。家族の会の役員をボランティアで務めながら、訪問介護のサービス提供責任者やケアマネジャーとして現場に関わり続けており、高齢者に寄り添ってきた経験は非常に豊富だ。
 
花俣常任理事は、今後の制度の行方に「強い危機感を持っている」と吐露した。サービスの縮小や負担増が続いていき、「制度がなかった昔の時代にどんどん戻ってしまう」と懸念しているという。(聞き手・編集 Joint編集部 青木太志)
 
 

「国は青写真を変えるつもりはない」

 
  ーー 審議会での一連の議論を振り返っていかがですか?
 
当初はかなり思い切った改革を求める声も出ていたので、一体どうなることかと思っていたのですが...。我々と同じような意見を持っている委員もいて、少し安心した面もあったんです。財務省などが主張していたことも、最終的にはほとんど見送られることになりました。強引にすべて実施されるようなことはなかったですから、一定の理解を得ることはできたのかもしれません。
 
  ーー 見直しの中身はそれなりに評価できると?
 
いえ、評価まではできません。そんなに楽観的ではないです。今回に限っては思ったよりひどくならなかった、というだけの話ですね。我々は今も強い危機感を持っています。
 
  ーー 今後のことですね?
 
国の「青写真」は何も変わっていないというか...。給付を縮小していく流れですよね。そこに向かっていることは間違いない。今後も検討を続けていく方針がはっきりと示されています。訪問介護の生活援助などがターゲットになるでしょう。そうした流れを転換させるまでには至っていません。今回でちょっと足踏みしたのかな、という印象は持ちましたけどね。必ずしも予定通りにはいっていないな、というか。でもやっぱり、国は青写真を変えるつもりはないんだろうと受け止めています。
 

「新しい総合事業は机上の空論」

 
  ーー 生活援助は引き続き焦点になりそうですね。人員基準を緩和して報酬を下げる。そんな案が浮上しています。
 
生活援助ってとても大事なサービスですよね。生活援助より身体介護の方が重要性が高い? 本当にそうでしょうか? 私は2つを分けて考えること自体に違和感を覚えます。からだの衰えた高齢者は、ちょっとしたことがきっかけで急速に重度化してしまうことも多いですよね。在宅で自立した生活を支えていくためには、生活援助も身体介護も同じように必要なケースがほとんどです。仮に報酬をもっと下げてしまえば、生活援助から手を引く事業所がさらに増えるかもしれません。本当に大丈夫なんでしょうか。
 
  ーー 要介護1、2も地域支援事業の「新しい総合事業」に移す構想がありますね。
 
掃除や洗濯なら誰にでも任せられる、という感覚なんだと思います。でも現実はかなり難しいと思いますよ。今の要支援1、2だけであっても、うまくいかないところが続出するでしょう。
 
  ーー 市町村に大きな負担がかかると言われています。
 
それもそうですね。地域の担い手をどう確保するかも大きな課題です。中高年や元気な高齢者に活躍してもらうと言ったって、そんなに大勢の人が現場に来てくれるでしょうか? 皆それぞれの生活がありますからね。知らない高齢者のために、しかも安い賃金で働いてくれる人ってそんなにたくさんいますか?
 
  ーー 元気なうちはなるべく稼いでおこう、という方も少なくないはずです。

そうですよね。仮にボランティアがそれなりに集まったとしても、主力として期待するのは無理があります。当たり前の話ですけど、1人の人間を支えていくというのはとても責任の重い仕事なんですね。要支援・要介護の高齢者の生活を、それぞれが余っている時間だけを使ってうまくサポートするなんて、本当に成り立つんでしょうか。無責任な結果を招きかねません。そもそもの構想自体が間違っている。机上の空論。言い過ぎだと叱られそうですが、現時点ではそう思っています。
 
  ーー 審議会の議論の中でも、地域支援事業はきちっとした検証が必要だとおっしゃっていましたね。
 
はい。もしうまくいかないとなると、それは家族に重い負担がかかるということなんです。「介護の社会化」。そもそもの理念とは相容れません。それどころか、制度がなかった昔の時代にどんどん戻ってしまいます。今の流れってそうですよね。逆戻りです。「介護離職ゼロ」という目標にもまったく合っていません。政府はどう説明するつもりなんでしょうか。
 
  ーー 生活援助は自立支援につながっていない、という指摘も出ています。
 
制度がスタートした時に、保険料を負担してもらうことへの理解を得なければいけなかったという事情もあり、国はややサービスを気前よく展開し過ぎたのかもしれません。今思えば大盤振る舞いだったというか...。その副作用として、利用者や事業者の中である種の誤解が生まれてしまいました。一部の利用者が、ヘルパーを家政婦のように使っているという実態もあると認識しています。
 
  ーー そうおっしゃる方って多いですよね。
 
ただし、たとえ一部にそういうケースがあることが事実だったとしても、給付を思い切ってやめてしまえというのは乱暴です。その主張は受け入れられません。必要なサービスまで切られてしまうからです。より大きな問題が生じますよね。早く重度化する人が増えてしまうでしょう。ムダを無くしたいというのであれば、適切なケアマネジメントの推進やより丁寧な説明、保険者機能の強化などで対応すべきです。
 

「社会保障の枠の中だけで財源を論じるのは限界」

 
  ーー 利用者の自己負担の引き上げも決まりました。
 
「応能負担」の考え方を前提にして、所得の低い人を対象から外したことは理解できます。ただ、介護は長期間にわたって利用し続けるものですよね。いくら現役並みに所得があるといっても、3割をずっと払っていくのは楽ではないでしょう。「高額介護サービス費」の見直しも、ひと月の負担が最大で7200円増える内容です。これは一般的な所得の世帯が対象ですから、厳しいと感じる人だっているはず...。我々は反対の立場をとりました。
 
  ーー 財政がかなり逼迫しているので、制度の持続性のために必要。そうした意見も多いですよね。
 
お金が無いのは分かるんですけど、無理やりとても狭い枠の中で話をしているなと感じます。あえて社会保障制度だけを見てやりくりを考えていますよね。だからこういう流れになってしまう。もっと広い視野を持ち、国の予算の全体を議論すべきではないでしょうか。社会保障制度だけに範囲を限定し、今年は何億円も増えたから何億円は減らさなければいけないなんて言われても、やっぱり釈然としないんですよね。はいそうですか、なら仕方ないですね、なんて言えません。我々は利用者の立場から発言しているんですよ。
 
  ーー 財源は他の分野から持ってこれるはずだと?
 
もっと詰めるべきところがあるはずです。ムダに使われているお金は本当にありませんか? 根本的なところから考え直すべきです。本質的な議論をしないまま、給付は縮小していきます、負担は増やしますなんて迫られても、我々は「No」と言い続けます。高齢者の生活がどんどん苦しくなってしまう。税金の使い道をもっと工夫して欲しいんです。そうでなければもたない。政府への不信感が増幅し、若い世代の不安が増すばかりです。社会保障制度の枠の中だけでやりくりを考える手法は、もはや限界に達しているのではないでしょうか。
 
  ーー 現場の介護職に伝えたいことは?
 
今の状況でも現場を支え続けている方は、本当に偉いなと思っています。あえて何かを言うとしたら、業界の外の人にもより関心を持ってもらうようにしないといけないのではないでしょうか。現状をみると、我々の危機感が十分に共有されているとは言い難いですよね。改革の行方を社会がもっと注視するようになれば、潮目が変わっていくのかもしれません。日本で生きる多くの人にとって、介護ってやっぱり切実な問題になりますからね。


花俣ふみ代
認知症の人と家族の会常任理事。埼玉県支部代表。介護支援専門員。サービス提供責任者。社会保障審議会・介護保険部会や成年後見制度利用促進委員会などの委員を歴任。家族の会の活動をボランティアで牽引しつつ、介護の現場に12年にわたって従事。認知症の2人の親を介護した経験も持つ。趣味は読書。介護の仕事に力を注ぐのは、「この世で自分に与えられた役割」だから。


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