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Interview

2017.1.4

外国人は介護の現場を救うのか? 技能実習の解禁が業界に与えるインパクト

 


今月17日に閉会した臨時国会では、「外国人技能実習制度」の見直しに向けた法律が成立した。政府は来年、制度の対象とする職種に介護を加える方針だ。一定のルールを設けたうえで、施設などに実習生の受け入れを認めるとしている。
 
技能実習制度はもともと、途上国などの若者に仕事のノウハウを身に付けてもらう仕組みとしてスタートした。政府によると、日本が「人づくり」を後押しする国際協力のスキームだという。ただ実際には、外国から労働力を獲得する手段として使われるケースが少なくない。劣悪な環境で長時間の業務を強いられるなど、実習生が不当に扱われるケースもあると内外から批判されてきた。
 
介護が新たに対象となる背景にも、やはり深刻な人手不足があることは否めない。実際に外国人が来るようになると、業界はどのような影響を受けるのか。現場はどう変わるのか。マンパワーは確保されるのか。この分野の第一人者で現場にも精通する淑徳大学の結城康博教授を訪ね、技能実習の解禁がもたらすインパクトについて聞いてきた。(聞き手・編集 Joint編集部 青木太志)
 


「処遇改善の動きにブレーキがかかってしまう」

 
  ーー 介護の現場に実習生を受け入れることが決まりました。どのようにみていますか?
 
まず最初に言っておきたいのですが、外国人は介護の現場の人手不足を解消する切り札にはなりません。短期間で非常に多くの実習生が入ってくるかのような、やや過大な見通しが喧伝されているように感じています。今後、30万人近い介護職員が足りないですよね。外国人は多くてもその1割程度ではないでしょうか。
 
  ーー 国の推計によると、このままいけば2025年には約38万人の介護職員が不足する見込みです。
 
ですから、そんなにたくさんは来ませんよね。いわゆる「日本語の壁」もありますし、今は他の国を選択する方も少なくないですから。つまり、今後も引き続き日本人の確保を最優先に考えなければいけない、ということですよね。日本人こそが人手不足を解消する切り札。これは忘れてはいけない前提です。
 
  ーー 実習生の受け入れには賛成ですか?
 
私は反対です。メリットよりデメリットの方が大きいのではないでしょうか。
 
  ーー と言いますと?
 
現場に多くの課題が生じます。例えばサービスの質。日本語能力試験の「N4」程度が要件になる見込みですが、チームの中で十分にコミュニケーションがとれるレベルではありません。まず意思の疎通に苦労するでしょう。日本独特の文化や風習、習慣、考え方などの理解が浅い方もいるはずです。外国人ですから仕方ないのですが、表情や仕草から重要なニーズを汲み取れなかったり、日本人なら当たり前の配慮ができなかったり...。きめ細かいケアは期待できませんよね。
 
  ーー 高齢者が相手ですからね。なかなか難しいかもしれません。
 
そうなると、周りの日本人にかかる負担は重くなります。すべて最初から教えていくんですから。ご承知のように現場はすでにかなり忙しい。人手不足を解消するどころか、さらに追い込んでしまう事態につながりかねません。実習生の指導にあたる職員を追加で配置できるよう、人件費などを支援すべきです。そうでなければもたない。制度をうまく運用していきたいのなら、政府は十分な施策を用意しなければいけないでしょう。
 
  ーー 慣れてくれるまでは大変そうですね。
 
日本人の処遇にも悪影響が出かねません。すごく心配しています。政府は来年4月から、介護職員の収入が増えるように報酬の加算を拡充しますよね。繰り返しになりますが、日本人の介護職員はこれからもっと必要になるんです。賃上げは続けていかねばなりません。そこへ実習生が来たらどうでしょうか。経験の浅い外国人にもできる仕事だ。そんなイメージが広がってしまえば、処遇改善の動きにブレーキがかかってしまいます。人手不足の解消はさらに難しくなるでしょう。
 
  ーー 本当にそうなれば本末転倒ですよね。
 
それほど多くのマンパワーを得られるわけでもないのに、想定されるデメリットは決して小さくない。私が反対している理由です。
 

「多くの人が消去法で賛成にまわった」

 
  ーー 厚労省の有識者会議などでは、受け入れに前向きな業界の関係者もいました。

そうですね。差し迫った状況があるようです。すでに人手不足が非常に深刻な地域では、施設の人員基準を満たすだけでもかなり大変だと聞きました。働ける年齢層の人口が少ない地域、現在は田舎の過疎地などが中心ですよね。そうしたところでは、他に有力な手段が見つかりません。少々コミュニケーションに不安がある実習生だったとしても、来てくれるのであればありがたいと感じるでしょう。入所されている高齢者のことを考えると、施設の運営はなんとしても続けなければいけませんから。
 
  ーー 切迫しているのでやむを得ない、ということでしょうか?
 
すでに限界を超えている地域もあるんです。今後は都市部などにも広がっていくでしょう。関係者の危機感は非常に強いですよね。受け入れを支持した人にも切実な理由がある。そのことは指摘しておきます。技能実習制度に課題があることは、みんなある程度わかっていると思いますよ。でも他に道はない。労働市場で勝てないんですから。理想と現実は違うということですかね。多くの人が消去法で賛成にまわった。今回はそういう面も多分にあったでしょう。
 

「月額5万円の賃上げで見る目が変わる」

 
  ーー それでも反対されている?
 
皆さんの言い分もわかりますけどね。やはりデメリットの方が心配です。日本人の介護職員の処遇を改善し、参入してくる人がもっと増えるようにしていく。技能実習制度を拡大する前に、そうした正攻法に力を入れるべきではないでしょうか。
 
  ーー 来年度から月1万円の賃上げが実施されます。
 
それでは不十分ですよ。ただし、そう遠くはないと考えているんです。私の提案は月額でプラス5万円。平均の年収を370万円くらいまでもっていけば、若い人も見る目を変えると思います。日本の平均給与は昨年で420万円程度です。370万円は月収30万円強。どうですか? かなり安定した仕事ですよ。他の対人サービス業より収入が高くなりますが、介護は責任が重く精神的にも体力的にも大変です。社会的な意義が大きい一方で、自分ではとてもやりたくないと感じる人だって少なくない仕事ですから、理解を得られるのではないでしょうか。
 
  ーー プラス1万円で1000億円弱の財源が必要だと言われています。
 
そうすると、プラス5万円なら5000億円弱になりますよね。それでこの問題が大きく前進するわけです。そんなに無茶苦茶なことでしょうか。政府の来年度の予算案は約97.5兆円で、国債費を除くと74兆円くらいですよね。5000億円はその0.7%。1%以下です。できないはずないじゃないですか。
 
  ーー 財源は他の分野から持ってこれると?
 
国の支出全体をもう一度見直すんです。無駄な公共事業はありませんか? 日本はこれから人口が減っていき、消滅する地域も少なくないと指摘されています。そうした大きな変化も念頭に置いたうえで、合理的、効率的、戦略的に投資していくべきでしょう。現状をみると、必ずしもそうなっていないと言わざるを得ません。
 
  ーー 来年度予算案の公共事業費は約6兆円(5兆9763億)です。
 
はい。だからうまくやりくりすれば5000億円は捻出できるんです。これは別に難しい話ではありません。もちろん、公共事業の予算のカットには痛みが伴います。仕事や生活のことを考え直さなければいけなくなる人もいるでしょう。それでも決断しないといけない。介護はそれだけ重要です。社会の根幹に関わる死活問題です。人間の死の尊厳を守り抜き、介護離職を無くして経済を安定させなければいけません。そのために必要な予算を確保するか否か。これは政治の意思次第なんです。
 
  ーー 税金の使い道を工夫しろ、ということでしょうか?
 
そうですね。公共事業だけを悪者にするつもりはなかったのですが...。介護の世界にも改善すべきところはありますよね。不用な給付があるのなら、できるだけ減らさなければいけません。サービスの体制を中・長期的に考えると、必要な機能を集約してコンパクト化した効率的な地域で暮らしてもらう、という移住の議論も必要だと感じます。また、消費税率のさらなる引き上げも選択肢になるでしょう。将来のビジョンと広い視野を持って、予算全体を改めて検証して欲しいんです。
 

「外国人の受け入れは正面から論ずべき」

 
  ーー 技能実習がスタートしても、そうした議論が続くことになりそうですね。
 
外国人の受け入れに関しては、より良い手法をめぐる議論をもっと深めていくべきではないでしょうか。日本では現在、約20万人の実習生が製造業や建設業、農業などに従事しています。こうした分野はすでに、彼らの力がないと成り立たなくなっているんですね。今後も超高齢化、少子化は続いていきます。産業の活力を維持するために、外国人は引き続き重要な存在と言えるでしょう。まずはそうした実態を直視しないといけません。
 
  ーー 大変なのは介護だけではないんですね。
 
技能実習制度は本来、日本の技術を外国人に学んでもらうための仕組みです。でも実態は違う。マンパワーを補填するために使われているんです。本音と建前が大きくかけ離れた状態を、いつまでも放置し続けていいのでしょうか。日本へ働きに来る外国人の権利のことも、もう少し真剣に考えなければいけません。しっかりとした基準・ルールをつくり、本人が望めば日本での定住にもつなげられる移民のような形も、逃げずに正面から論ずべきだと考えています。


結城康博
淑徳大学総合福祉学部社会福祉学科教授。1969年生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒業。法政大学大学院修了(経済学修士 政治学博士)。介護職。介護福祉士、社会福祉士、ケアマネジャー。新宿区の地域包括支援センターなど現場の仕事に約13年間従事。社会保障審議会・介護保険部会の委員を4年間務める。2007年から現職。介護・福祉関係者にとって大事なのは、「傾聴」を基本とした援助技術の向上と制度・政策への関心を高めること、と教えている。


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