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Interview

2017.6.28

当事者とともに考える認知症と運転 免許取り消しで目指す地域社会へ向かえるか!?

 


認知症の高齢者がさらに増える今後に向けて、より良い方策をみんなで一緒に考えていこう ー 。その極めてシンプルなメッセージには、当事者だからこそ持ち得た冷静で強い問題意識が込められている。
 
高齢のドライバーによる事故が続発したことを受けて、政府は対策に力を入れて取り組むようになった。目玉の1つが道路交通法の改正だ。75歳以上を対象に認知症のチェックを強化する内容で、今年の3月12日から施行されている。改正法では運転免許の更新時に加え、信号無視や一時不停止、逆走といった違反をした際にも認知機能を調べる検査が義務付けられた。そこで「認知症の恐れ」と判定されると、医療機関などで医師に診てもらわなければいけない。正式に認知症だと診断された人は、免許の取り消し・停止の処分を受けることになる。実際に処分されたケースも出始めた。
 
警察庁によると、運転免許を持つ高齢者はこれからさらに増えていく。2015年で478万人だった75歳以上の免許保持者は、3年後の2020年の時点で600万人を上回るという。75歳以上のドライバー10万人あたりの死亡事故の発生件数は8.9件。75歳未満の2.3倍にあたる水準だ。認知症の高齢者の増加もまだまだ続いていく。子どもが犠牲になるような悲劇が起きてしまったこともあり、事故を防ぐために何らかの手を打つべきという認識は広くコンセンサスを得ている。
 
とはいえ、マイカーが生活の欠かせないインフラ、あるいはライフラインとなっている人は大勢いる。急に運転ができなくなってしまうと、なんとか維持している自立した暮らしを続けられなくなる人も少なくない。外出の機会が減って閉じこもりがちになり、認知症の症状が一気に悪化してしまうケースも生じ得る。認知症の人に開かれた優しい地域社会を作っていく ー 。免許を取り消して運転をやめさせるという手段は、そうした基本コンセプトと相容れない側面を持っているのではないだろうか?
 
国の規制に疑問を投げかける人たちがいる。当事者に会って話を聞いてきた。「日本認知症ワーキンググループ(JDWG)」で共同代表を務める藤田和子さんと、そのメンバーの丹野智文さん。2人とも認知症の本人で、認知症と向き合いながら日々の活動を前向きに続けている。(聞き手・編集 Joint編集部 青木太志 北村俊輔)
 

「一面的イメージが植え付けられてしまった」

《 左:藤田さん 中央:丹野さん 》

  ーー 改正道交法が施行されて3ヵ月が過ぎました。認知症の当事者として、今回の規制の強化を今どのように捉えていますか?
 

  丹野智文さん 
日々の生活を送っていくうえで、車の運転が非常に大きな意味を持つ人ってやっぱりかなり多いんです。仕事や通院、買い物はもちろん、地域コミュニティとのつながりを保つためにも大事ですよね。自分の認知症の症状に気付き始めた人が、それを懸命に隠そうとするという逆効果が生じてしまう ー 。私はそれを心配しています。当事者どうしでオープンに話し合ったり、周囲が理解したうえで接したりできた方がうまくいくのですが…。何度も事故が起きましたからやむを得ない面もありますが、「認知症の人の運転は非常に危険だ」という一面的なイメージが社会に深く植え付けられてしまったことを考えると、やっぱりどこかやるせない気持ちになるんです。

 

  藤田和子さん 
実際に認知症になると、やっぱりかなり混乱するんですよね。私も最初、どうしたらいいか分からずにすごく困りました。仕方のない面もあるかと思いますが、「認知症なんだからできないでしょ」って言われていつもの行動に制限をかけられるようになると、どんどん自信が無くなっていってしまうんです。人に迷惑をかけてしまうのではないか ー 。そんな恐れや申し訳なさ、劣等感もあるので、「自分はできないんだ」「何もしない方がいいんだ」って言い聞かせるようになっていくんです。そうやって過ごしていると、本当に何もできなくなっちゃうんですね。本来なら自分でできることを続けていく中で、認知症との付き合い方を学んでいくことが重要なのに…。
 
  ーー 規制の強化は乱暴な判断だったと?
 
  丹野智文さん 
もう認知症の人には運転させないようにしよう、という前提で議論が進められたような気がしています。一言で認知症と言っても、住んでいる地域やその土地の交通事情、生活していくうえでの運転の必要度の高さなど、個々の状況は千差万別ですよね。そういったことをもっときめ細かく配慮していただきたかった。高齢者全般に起きうる問題と認知症固有の問題が、しっかり整理されているのかなという疑問も持ちました。

 

  藤田和子さん 
例えば、他では運転しないけど農道だけは運転したいという人だっています。認知症になればリスクが高まる。それは分かります。ただルールづくりのプロセスで、認知症の人が運転できるとしたらどこまでなのか、どういう条件を設ければ認められるのか、という話は出てきませんでした。

 

  丹野智文さん 
認知症だからできない。あぶない。そういう大雑把な考え方は、正しい理解を広めていこうという今の時代の流れに逆行していませんか? 政府の「新オレンジプラン」にも、「認知症の人が認知症とともによりよく生きていける環境の整備」が掲げられています。本当は我々の意見にもっと耳を傾けて欲しかったのですが…。
 

「皆さんと一緒に考えていきたい」

 
  ーー 今後への提案もしていますよね?

  丹野智文さん 
その人がきちんと運転できるか否かは、実際に試してみないと分からないのではないでしょうか。実地試験のようなものを行い、それぞれ個別にチェックしていく仕組みを作るべきだと提案(*)しました。専門の教官が同乗し、本人の運転がどれくらい危険なのか審査する形が望ましいと思います。仮に免許を返納する結果になるとしても、本人が自分の運転の危険さを客観的に理解できるプロセスに大きな意味があるんですね。

 

* 日本認知症ワーキンググループでは、メンバー(本人)の声を「運転免許に関するJDWG提案」としてまとめ、警察庁や厚労省へ提出。これからの時代や地域社会にあった運転(免許)のあり方について、警察や関係者とともに話し合いを継続中。

 

  藤田和子さん 
高齢者にとって更新までの期間の3年間って少し長いんです。年齢が高くなるにつれて、実地試験による更新のスパンをもっと短くしてもいいのではないでしょうか。ほかにも例えば、若い人だってメガネのように条件が付く場合がありますよね。認知症の人に関して、更新期間を短くするとか、運転エリアを制限するなど、条件をつけて免許を認められないか、検討してみてはどうでしょうか。

 

  丹野智文さん 
海外では実際に、実地試験をクリアした初期のアルツハイマー病の人などを対象として、場所や時間を限定した免許を出している例があるんですよ。超高齢社会の日本でも、検討してみる価値はあるんじゃないでしょうか。もちろん、何が何でも運転させろと言っているわけではありません。私たちも危険な人はやめなければいけないと思っていますし、当事者として「無理だと分かったら自主返納を」と呼びかけてきました。実際に免許を失った人を支える輪を広げていく活動もしています。

 

  藤田和子さん 
認知症になっても誰もが当たり前に生活していける権利。それと社会の安全を両立させるにはどうしたらいいのか。皆さんと一緒に考えていきたいんです。認知症になったらすぐ免許を返納しろ。それだけで終わらせてしまうのではなく、多様な状況の人たちがそれぞれより良く暮らしていける方向でじっくりと丁寧に議論していき、現実的な方策を具体的に提案していきませんか? 各地域のレベルでも、「そこで暮らす認知症の人たち」を置いてけぼりにして対策の検討が進まないよう、オープンな話し合いの場を設けて頂きたいと思います。そうした土壌が形成され固まっていけば、免許の自主返納も自然と進んでいくのではないでしょうか。


  藤田和子さん 
鳥取市出身。55歳。看護師をしていた2007年に、45歳でアルツハイマー型認知症と診断された。2010年に「若年性認知症問題にとりくむ会・クローバー(鳥取)」を立ち上げ(現副理事長)、2011年から2013年には「鳥取市差別のない人権尊重の社会づくり協議会」の委員を務めた。2014年から日本認知症ワーキンググループ共同代表。2017年に著書『認知症になってもだいじょうぶ! そんな社会を創っていこうよ』を刊行。
 
  丹野智文さん 
仙台市出身。43歳。自動車の販売店でトップセールスマンだったが、2013年、39歳でアルツハイマー型認知症と診断された。今も同じ職場(自動車の販売店)で、仕事内容を変更し働いている。2014年から認知症ワーキンググループに参加。2015年に「おれんじドア(認知症の本人による、本人のための物忘れ総合相談窓口)」を設立。

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