広告
広告

Opinion

2017.7.6

生活援助を軽視してはいけない!! 地域包括ケアに矛盾する!!

 


政府は先月、今年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を閣議決定した。いくつかある介護保険制度の論点の中で、「生活援助を中心に訪問介護を行う場合の人員基準の緩和やそれに応じた報酬の設定」が特に注目される。
 
来年度の介護報酬改定に向けた審議を進めている「介護給付費分科会」でも5日、この論点が取り上げられた。今後の大きなテーマになるだろう。5月に成立した改正介護保険法の骨格を議論した「介護保険部会」の報告書においても、生活援助の人員基準の緩和について「介護給付費分科会」で詳しく議論することとされている。
 
生活援助の人員基準の緩和 ー 。具体的に何が想定されているのだろうか? 現段階では私個人の憶測に過ぎないが、担い手の資格要件の緩和を意味するのではないかと考える。
 
現在、介護保険法では、介護福祉士と「その他政令で定める者」が訪問介護を担えるとされている。「その他政令で定める者」とは、各都道府県が指定した事業者が実施する「介護職員初任者研修」を修了し、その交付を受けた者、いわゆるホームヘルパーだ。周知の通り研修を修了するには、おおむね1ヵ月から2ヵ月の期間を要し、費用も12万円から15万円程度はかかる。
 
しかし、生活援助は「掃除」「洗濯」「買物」など、一見、素人でも可能な身の回りの世話なので、何も専門家であるヘルパーでなくてもできると考えられがちだ。実際、2017年4月以降、全保険者で始まった「新しい総合事業」の基準を緩和した「訪問型サービス」においても、1日から2日で済む保険者主催の研修を受ければ従事可能となっている(このようなヘルパーを「セミプロヘルパー」と呼ぶ)。
 
したがって、要介護者を対象とした介護給付においても、総合事業と同様に「セミプロへルパー」でも従事可能とする政令に改めるか否かが、今回の議論の焦点ではないかと考える。
 
人手不足が深刻化する中で、「セミプロヘルパー」でも介護給付の生活援助に対応できるようにすれば、少しでも問題に歯止めをかけられるのではないか? セミプロヘルパーであれば報酬単価を低く設定できるため、保険財政の伸び率を緩和させる効果も見込めるのではないか? といった意見がこれから強まっていくだろう。
 
しかし、そのような方向性は在宅の介護現場の問題をさらに深刻化させてしまい、地域包括ケアシステムの政策動向に大きなマイナスになると考える。
 
独居や夫婦のみで暮らす高齢者が増えている現在、「掃除」「洗濯」「買物」といった生活援助がヘルパーの「プロの目」でなされることにより、利用者の重度化を防いでいるケースは少なくない。自立支援を促し、転倒予防を考慮した「掃除」などは、プロの目を持っていなければ難しいだろう。また、精神疾患を抱えた娘や息子がいたり、本人・家族の人格に問題があったりすると、その対応もヘルパーの重要な職務となる。単に身の回りの世話をしているだけではないのだ。
 
確かに、生活援助の行為そのものは素人でも可能かもしれないが、多様なニーズを抱える要介護者が増えていくとともに、セミプロヘルパーでは対応が難しい事例も多くなっていくだろう。
 
仮にセミプロヘルパーを認めたとしても、報酬単価が低く設定された生活援助に人材が集まるのだろうか? 実際、コンビニやスーパーのアルバイトの時給は1000円を超えることが珍しくない。これに対し、現在の生活援助の時給は1100円から1300円が相場だ。セミプロヘルパーがこれを下回るのであれば、他産業で働いた方が良いと考える人は少なくないだろう。
 
つまり、安易な生活援助における資格要件の緩和、それに伴う報酬単価の引き下げは、人手不足のさらなる加速化を招く。その結果、サービスを展開する訪問介護の事業者が少なくなり、要介護者に必要な支援が行き届かなくなる懸念が強い。
 
在宅介護を促進し、要介護になっても住み慣れた地域で長く暮らしていけるようにする ー 。生活援助の軽視はその理念に逆行しており、地域包括ケアシステムに矛盾している。今後の議論ではそのことに十分注意しなければいけない。
 
 結城康博 淑徳大学総合福祉学部社会福祉学科教授

1969年生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒業。法政大学大学院修了(経済学修士 政治学博士)。介護職。介護福祉士、社会福祉士、ケアマネジャー。新宿区の地域包括支援センターなど現場の仕事に約13年間従事。社会保障審議会・介護保険部会の委員を4年間務める。2007年から現職。介護・福祉関係者にとって大事なのは、「傾聴」を基本とした援助技術の向上と制度・政策への関心を高めること、と教えている。

広告
広告
 
 
 
 
 
広告