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2022.03.22 》

なぜ義務化? いま介護施設・事業所がBCP策定を求められる理由 持つべき”食”の視点とは

コロナ禍が介護業界を激しく揺さぶり、事業環境は劇的に変わった。多くの現場が厳しい状況に追い込まれたが、介護施設・事業所の存在意義、重要性に改めて光が当たるという驚きもあった。【Joint編集部】

介護事業者に社会が期待することも以前より増えた。およそ2年に及ぶ有事を通じ、この分野に更なる成長を求める動きが加速したのは間違いない。象徴的なのがBCP(業務継続計画)の策定。国は全サービスの事業所に義務付け、3年の経過期間を置いて2024年度から完全適用する決断を下した。

《 介護事業所の様子 》

事業者にとって大きなルール変更となる。万が一の時でも必要なサービスを維持できるよう、それぞれが可能な範囲で備える努力をしていかなければならない。自然災害に激甚化の傾向が表れていることも背景要因の1つだ。

BCPを策定するうえで大事な視点はいくつもある。欠かせないものの1つが「食」。これが途絶える事態になれば、施設系や入所系は直ちに窮地に陥ってしまう。通所系や訪問系もやはり相応の準備が欠かせない。「行政の支援が始まるまで(*)自力で業務を続けられるよう、必要な備蓄をしておくこと」。厚生労働省の「BCPガイドライン」にはそう書かれている。

* ガイドラインでは被災後3日が目安とされている。

《 ある介護事業所の食料品備蓄 》

■「策定済み」の事業所はごく僅か

果たして現場の取り組みは進んでいるのか。まだまだ十分ではない、という業界の一般的な認識を裏付ける調査結果がある。民間シンクタンクのMS&ADインターリスク総研が昨夏に実施したものだ。

それによると、「BCPを策定済み」と回答した事業所は24.0%のみ。このうち、感染症と自然災害の両方を作り終えているところは41.3%に留まっている。未策定の事業所のうち、「策定中」と答えたのは47.3%と半数に満たない。まだまだこれから、というところが大半を占めているのが実情だ。サービスごとの違いもあり、施設系や居住系より通所系、訪問系が遅れていると報告されている。

「日々の業務に追われるなか大変なのはよく分かるが、事業所のためにも、職員のためにも、そして何より利用者のために対応を急がなければいけない」

こう話すのは、東洋大学ライフデザイン学部の高野龍昭准教授。BCPを策定する意義はどこにあるのか、どんな視点を持って取り組めばいいのか、「食」の重要性も含めて詳しく解説してもらった。

■「事業者のため、でもある」

  −− なぜBCPを策定しなければいけないのでしょうか?

《 東洋大学ライフデザイン学部・高野龍昭准教授 》

介護サービスは今や欠かせない社会インフラです。それが無くなれば高齢者の状態は一気に悪化します。家族には重い負担がのしかかり、暮らしや経済にも少なからぬ影響が及ぶでしょう。コロナ禍で多くの人がそのことを再認識してくれました。今や介護職が「エッセンシャルワーカー」と呼ばれるようになっています。

そうした社会インフラである以上、やはりそう簡単に途絶えさせるわけにはいきません。水道や電気、公共交通機関などをイメージして下さい。当然やむを得ない時もありますが、どの事業者も、どんな困難が起ころうとも早期に復旧できるよう、事前に計画を練っています。持っているリソースは異なりますが、「エッセンシャルワーカー」と言うのなら、介護事業者もできる範囲で有事への備えをしておく責任があるということです。

  −− そうした努力を求められる時代になった、ということですね。

全て国のため、社会のため、というわけではありません。事業者としての経営の存続、発展という観点からもBCPの策定は重要です。

サービスが長期間に渡って止まってしまうと、事業所は介護報酬を得られずに大きなダメージを受けますよね。会社の経営が行き詰まれば職員も守れません。

確かに、BCP策定や運用のための労力、必要物資の備蓄、シミュレーション、訓練、定期的な検証などコストは小さくないでしょう。ただそれは、有事の際に自分を守るため、生き残るための投資でもあります。災害や未知の感染症は今後も発生するでしょう。BCPの策定は国が義務付けたものですが、事業者は経営リスクを最小化する大切な取り組みとも捉えるべきです。

  −− まだ策定が進んでいないというデータがありますが、現状をどう見ていますか?

いくら重要、重要と言っても現実的にはやっぱり難しいですよね。多くの事業所がノウハウを持っていません。特に規模の大小によって格差が生じています。小さな事業者は手が回らず、ほとんど着手できていないのが実情です。人手不足も極めて深刻ななか、単に「頑張って作れ」と言ってお尻を叩くだけでは酷ではないでしょうか。政府や事業者団体などがもっときめ細かい支援策を講じなければ、やがて取り残される事業者が出てくると懸念しています。

■「事業所の個別性の反映が不可欠」

《 介護事業所の様子 》

  −− BCPの策定にあたりどんな視点が大切になりますか?

全ての事業所が均一のものを作ればいい、という訳ではないことに留意して頂きたい。自分の事業所にとってどんな災害のリスクが高いか、どんな社会資源に頼ることができるか、どんな状態像の利用者がいるか − 。そうした個別性を十分に検討し、実際にワークするBCPを目指す必要があります。どこかでテンプレートを手に入れて済ますだけでは、有事での実効性を担保することはできません。個々の事業所が感染症や災害への危機感を持ち、自分の置かれた状況をしっかり反映したBCPを作ることが大事ではないでしょうか。

  −−「食」という視点の重要性を指摘する声も増えてきました。

命や健康に直結するため欠かせません。栄養が十分に取れなくなると、高齢者は状態が一気に悪化してしまいます。それが長期化することの恐ろしさは、現場の方であれば十分に知っていると思います。「食」と災害の関係で言えば、1週間程度は事業所が孤立しても対応できるような備えが必要でしょう。

利用者の状態像によって飲めるもの、食べられるものが違うことにも気をつけなければいけません。簡単な保存食とお水だけあればいい、という考えでは不十分です。サービスを利用している人の個々の特性に合った備蓄が必要で、定期的な内容の見直しも不可欠となるでしょう。

自分たちが護るのは災害や感染症により脆弱な存在の高齢者、障害者である、ということを前提に考えなければいけません。もちろん対応策に限界はありますし、実践するのはとても難しいことです。ただ、少なくともそうした意識を持ってBCP策定に臨むことが大事ではないでしょうか。

  −− ありがとうございました。

■「行政の備蓄も多くない」

《 ある介護事業所の食料品備蓄 》

実際、有事の際は差し当たり自分達だけで「食」をつながなければいけなくなる可能性は高い。農林水産省が全国の自治体を対象に行った調査の結果がある。

それによると、災害などを想定して要配慮者向けの食品の備蓄を防災計画に位置付けているのは421自治体。全体の3分の1、33.7%にとどまっている。

この421自治体のうち、おかゆを備蓄しているのは約半数の51.4%のみ。摂食嚥下困難者向けの食品を備蓄しているのは、僅か4.5%だったと報告されている。農水省は、「行政の備蓄も多くない。近年は備蓄している自治体も増えてきているが、やはり自らの備えが大事になる」と促している。介護事業者にとっては重要な呼びかけで、摂食嚥下困難者の命、健康を守る準備はとりわけ不可欠と言えそうだ。

■ オーダーメイドで備蓄食を提案

《 介護事業所の様子 》

BCPの取り組みを特に「食」の観点からサポートしているのが、三井物産が運営する介護事業所向けECサイト「このいろ」だ。何を揃えればいいのか、そもそも何から始めればいいのか − 。そんな現場の悩みに応えるべく、事業所のBCP策定・準備を全面的にサポートしている。

高齢者を守る観点から管理栄養士が関与。事業所の状況に応じた食のBCPの整理と備蓄食のプランを、オーダーメイドで提案してもらえる。 

最低限必要な備蓄食(水と主食など)、あるとよい備蓄食(温かい主菜、汁物など)、過去の災害現場で有用だった備蓄食(栄養価が高い物、利便性の高いものなど)が整理されている。摂食嚥下困難者向けのやわらか食なども豊富に揃っており、利用者の状態に合わせて選択可能。また、三井物産が施設長や現場の栄養士と議論して作成した、オリジナルのBCPのチェックリストやマニュアルの無償提供、賞味期限の管理など、運用面の支援も受けられる。

三井物産の「このいろ」はこちら→


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設立 :1947年7月

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