目指すは「多国籍エキスパート集団」 文化の違いを力に変える特養が照らす明日の介護


多国籍の介護職員を貴重な“人財”として尊重し、多様な文化や価値観を原動力に質の高いサービスを提供する − 。
千葉県佐倉市の特別養護老人ホーム「ちとせ小町(社会福祉法人千歳会)」は、こうした理念のもと、外国人職員の育成と活躍の場づくりに力を注いでいる。今年5月には、法人内の優良実践を表彰する「C1グランプリ」で見事グランプリに輝いた。【Joint編集部】
◆「国籍の壁を越えて、共に成長する」
「私たちが目指しているのは、国籍や年齢を問わず、お互いを認め合いながら成長できる良いチームを作ることです」。現場を率いる南曲豪施設長はこう語る。
現在、「ちとせ小町」にはフィリピン、ベトナム、モンゴル、ネパール、ミャンマーの出身者ら10人の外国人職員が勤務。こうした職員構成を強みにすべく、「多国籍介護エキスパート集団」としての組織づくりを掲げている。

その実現に向けて力を入れているのが、外国人職員向けの独自研修だ。語学力や理解度に応じて2クラスに分け、月1回、日本語、介護技術、マナー、文化・慣習、緊急時対応、専門用語の理解などを丁寧に指導。研修の企画から教材の作成、講師までをすべて、主任・リーダーら施設内の中堅職員が担っている。
「日本語の専門用語は本当に難しい。最初は全然分からなくて大変でした」「でも、研修で“これはこういう意味だよ”と何度も教えてくれたことが、大きなヘルプになった」。研修を受けた外国人職員の1人は、こう振り返る。
また、日常のケアや業務を通して自然な言語習得を促す「現場型の学び」も重視。コミュニケーション力の向上により、日々のOJTも円滑に進むようになったという。
◆ 関係性の良さが定着率に表れる
定着率の高さも「ちとせ小町」の自慢だ。昨年度の介護職員の離職率は5.7%。全国平均の13.1%と比べ、顕著に低い水準を維持している。
その背景には、「1人の職員として外国人とも対等に向き合う」という姿勢の徹底がある。南曲施設長は、「外国籍の職員だからといって、仕事を限定したり特別扱いをしたりしない。研修を経て職場に慣れた後は、同じ介護職員として、日本人と変わらず責任ある役割を担ってもらっている」と語る。
施設では、例えば事故・虐待の防止委員会や各種イベントの企画・運営など、様々な会議に外国人職員もメンバーとして参加。当初は控えめだった職員も、今では「発言するのも慣れた」「ちゃんと聞いてくれている」と意見交換に加わるようになった。

異なるバックグラウンドを持つ職員同士が、日常的に支え合い、学び合う環境が根付きつつある。「皆が優しくて、間違っても怒らずにゆっくり教えてくれる」「ご利用者さまとの会話を通じて、日本語も上達できるのが嬉しい」。そう語る職員たちの言葉には、職場への信頼と愛着がにじむ。
南曲施設長にマネジメントで重視していることを聞くと、こう答えた。「どんな立場の職員でも、感じたことを言い合える関係性をつくること、“任せる”“期待する”ことを意識しています。上に立つ人間がそういう姿勢を貫くことで、現場全体にも自然と伝わっていくと思っています」
◆ 夢は“みんなが入れる施設”をつくること
文化や価値観の違いは、ともすれば壁になりうる。しかし、「ちとせ小町」ではこれを「気づきの種」としてうまく活かしている。
たとえば、ある職員が母国ベトナムのお菓子を施設に持ち込み、高齢者と一緒に味わう機会を設けた。「80代、90代の方々にとって初めての体験でした。異文化交流が新しい刺激になったようです」と南曲施設長。日々のケアの中でも、外国人職員がもたらす“異なる視点”が、利用者とのコミュニケーションを豊かにしているという。
インタビューの最後、外国人職員たちはそれぞれの将来の夢を語ってくれた。

「もっと日本語を上達させて、介護福祉士を取ってリーダーになりたい」「おばあちゃん、おじいちゃんが好きなので、できるだけ長く介護現場で働きたい」「いつか“みんなが入れる施設”を作って、国籍や障害に関係なく誰もが安心できる場所にしたい」。
どれも自分の利害だけでなく、周囲の人や社会に対する思い、責任に通じていた。
国境を越えて出会った人々が、高齢者や障害者へのケアを共に学び、お互いを理解し合おうと努めながら、質の高いサービスを追求していく。その姿は、今の日本の介護現場が持つ確かな可能性と希望を伝えてくれている。