週休3日×副業容認 選択の自由さが介護現場に人をつなぐ チャーム・ケアが挑む多様性の人材戦略


週休2日と3日、どっちがいいですか? そもそもこの選択肢があることが、多くの介護スタッフに前向きに受け止められているようだ。【Joint編集部】
有料老人ホームなどを運営するチャーム・ケア・コーポレーションが導入した「選択的週休3日制」が、現場で着実な成果を上げている。全国100ヵ所を超えるホームの多くで導入済み(*)。今年6月1日時点で、介護スタッフ(他の専門職などは除く)の約4割が週休3日制を選んでいる。
* 選択的週休3日制は、新規で入居者数の少ないホームや小規模なホームなどを除く、一定の要件を満たしているホームで導入している。
自由度が高く働きやすい環境の整備、人材の確保・定着を目指すこのチャレンジは、有力な人材戦略の一手として業界に一石を投じている。同社の人事部長の山田智和氏、近畿圏介護事業部の森本敏文氏に話を聞いた。
◆ 週休3日制は1日10時間勤務
「人材確保が一段と難しくなるなか、単に給与水準の引き上げに努めるだけでなく、より多様な働き方を認める、介護スタッフの選択肢を広げる必要があると考えました」
チャーム・ケア・コーポレーションは昨年7月から選択的週休3日制を導入。今では要件を満たす多くのホームで運用している。
制度の特徴は、週休3日制でも年間の労働時間や処遇などに違いがない点にある。週休2日制のスタッフは1日8時間勤務、週休3日制のスタッフは1日10時間勤務。給与や手当など他の条件は全く同じとなっている。
「処遇に差がないことで、個々の生活状況や考え方に応じて制度を選びやすい環境になっています」
◆ 応募者が増加 連休取得も
制度導入後、正社員の応募数が前年度比で約2割増加し、採用数も伸びた。「求人の際も“週休3日制あり”とPRしており、採用の間口を広げる武器になっています」。週休3日制を希望して応募してきた人は、採用者全体の約4割にのぼっているという。
週休3日制を選んだスタッフの間では、特に夜勤の負担が「格段に減った」と好評だ。通常の夜勤は夕方から翌朝までの16時間勤務だが、週休3日制では夜8時台〜10時台に勤務を始めるシフトを導入(*)。夕食など忙しさのピークを過ぎた時間帯から入れるようになっている。
* 週休3日制は1日の労働時間が10時間のため
「もう週休2日制の夜勤には戻れない、という声もあるほどです。ご利用者様からも、夜勤スタッフの表情が柔らかくなったという声をいただいています」
休日の柔軟な取得もメリットの一つだ。連休を活かして旅行や自己研鑽に充てるスタッフも多く、首都圏のホームでは10連休を取って海外旅行に行ったスタッフもいる。
◆ 副業も容認 あえて自由度を高める
週休3日制を選んだスタッフに限って副業も認めている。届け出制で運用し、実際に副業を行っているスタッフは約1割。別の介護現場でスポットワークをするスタッフが多い。
「他の介護サービスや障害福祉の事業所など、異なる現場を経験したいという声は以前からありました。副業を通じてスキルを磨いたり、自分のキャリアを改めて考えたりして、モチベーションを維持してもらえればと思っています」
スタッフの活動に制限をかけず、あえて自由に認めることでエンゲージメントを高める戦略だ。“外の世界”を経験した結果、今の職場の良さを再確認するスタッフもいる。制度導入後も離職率は下がっており、人材の流出にはつながっていないという。
◆ 定着のカギは丁寧な対話
もちろん課題もある。例えば、週休3日制では夜勤明け日が休日扱いになるが、週休2日制では出勤日としてカウントされる。こうした違いを見て、不公平感を覚えるスタッフもいる。
「働き方の違いによって分断が生じたり、相互の不満が強まったりしないよう、丁寧にバランスを取る努力が不可欠です」
処遇の公平性の確保に加えて、シフト作成の工夫にも取り組んでいる。ホーム長がスタッフときめ細かい調整・対話を行うことで、十分に納得感のある運用を実現することがポイントで、ホーム長の能力も重要な要素になるという。
「うまく運用できているホームでは、現場でのコミュニケーションが良好で無理なくシフトを回せています。会社として上から一方的なルールを押し付けるのではなく、現場の考え方や思いに寄り添って柔軟に運用することが重要だと思います」
週休2日制と3日制が混在するハイブリッド型の職場では、どうしてもシフト管理が複雑で難しくなる。AIによるシフトの自動作成ツールを導入するなど、現場の負担軽減を図る配慮も欠かせないとした。
「マネジメントの大変さが増すことは否定できません。ただ、それでも続ける価値があると考えています」
選択的週休3日制はスタッフ本位の仕組み。個々の職員の生活やキャリアを全人的な立場で後押しすることが、結果として人材の確保・定着に結びついていく。生き残りをかけた人材争奪戦が激化するなか、いかに選ばれる職場を作れるか。問われているのは、スマートな制度や仕組みではなく向き合う姿勢なのかもしれない。