【村上久美子】介護職へのカスハラ、根本問題の解消を 処遇改善による社会的地位の向上を急げ


6月4日、国会で1つの改正法(*)が成立しました。これは、カスタマーハラスメントの対策を事業者の雇用管理上の措置義務とすることなどを法制化するものです。【村上久美子】
* 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案
カスハラは近年大きな社会問題となっていますが、現行法上、職場におけるカスハラについての規定はありません。しかし、厚生労働省の実態調査(2023年度)では、接客の頻度が高い職種ほどカスハラを経験した人の割合が多いと報告されています。
カスハラを受けた労働者の心身への影響については、「眠れなくなった(16.7%)」、「会社を休むことが増えた(5.7%)」、「通院や服薬をした(3.8%)」など、メンタル不調に陥っているケースもあることが分かっています。
このような状況から、カスハラ対策の強化を通じて、全ての労働者が安心して活躍できる就業環境の実現を図る必要があることは明白です。介護現場も同様に、カスハラ対策の強化が不可欠であることは言うまでもありません。
◆ 共通認識が得られた根本問題
今回の改正法をめぐっては、5月13日、衆議院厚生労働委員会で参考人質疑が行われ、私もその1人として招致されました。
その際私からは、介護現場で利用者やその家族からのハラスメントが職員を悩ませていることを報告しました。また、NCCUの調査結果をもとに、ハラスメントを受けたときに離職を考えた職員が4割にのぼり、実際に辞めてしまう職員もいる現状を、実例とともに紹介しました。
そのうえで、介護人材が大変不足している中で、防止できる離職は防止していかなければならないとし、この法案の早期成立を期待するという立場を示しました。
委員会での議論の中では、ある議員から介護職の処遇改善への後押しともとれる質疑がありました。
それは、「カスハラは、介護業界から他産業へ人材が流出している理由の1つでもあるが、ハラスメントを行う利用者・家族の意識の中で、介護職の社会的地位が非常に大きな影響を与えていると感じている。国としてどのようなことに取り組んでいけば、介護職の社会的地位の向上につながると思うか」という質問でした。
私の回答はもちろん「処遇(賃金)改善」でしたが、実に、私以外の参考人(4名)も全員「賃金の向上」と回答したのです。
それを受けて議員から、「介護分野の賃金向上が共通意見だったので、取り組んでいきたい」との応答があったとともに、他の議員からも介護職の賃金の低さを問題視する発言があり、国として介護分野の大きな課題について共通認識が持たれていることは明白になりました。
◆ 政労使が一体となって
私は以前から、介護現場でのカスハラについて、「根本的に利用者・家族の潜在意識を変えるために、介護職の社会的地位を向上させることが重要であり、そのためには、処遇改善はもちろん、労働環境の整備や介護従事者の専門性を高めるスキルアップの強化、介護の仕事の重要性や専門性を広く認知させることなど、政労使が一体となって取り組む必要がある」と言い続けてきました。
今回の改正法の成立によって、介護現場のカスハラが減少するとともに、その根源となっている介護職の処遇改善が加速度的に進むことを期待します。