wiseman-2025.9-sp01-banner01
2025年9月9日

【結城康博】石破首相が退陣 賃上げの報酬改定に暗雲 介護保険は政局の荒波の中へ

このエントリーをはてなブックマークに追加
《 淑徳大学総合福祉学部 結城康博教授 》

7日夜、追い込まれた石破茂首相が辞任会見を開き、国のトップの交代が確実となった。【結城康博】

ricoh-2025.9-sp02-banner01

今後、自民党の総裁選を経て新しい首相が誕生する。その下で、2026年度の介護報酬の臨時改定、2027年度の制度改正・報酬改定は適切に実施されるのか。政局は極めて不安定であり、介護政策の行方も混沌としている点について考えてみたい。


◆ 新たな連立政権の誕生か


新たな首相が決まった後、このまま自公連立の少数与党で政権運営を続けるのか、それとも新たな3党連立の政権が誕生するのかによって、介護政策の方向性は大きく変わるだろう。


仮に3党連立が実現する場合、政権に加わる可能性があるのは、日本維新の会か国民民主党に限られる。現時点では、国民民主の参加による「自公国」よりも、維新の参加による「自公維」のほうが現実的とみられる。


そうなれば、維新が参院選で訴えた社会保険料の負担軽減という政策色が強まるだろう。今後の報酬改定・制度改正が、介護現場にとって厳しい内容になってしまう懸念も強まる。


もっとも、介護職の処遇改善については一定の前進がみられるに違いない。ただ、給付費の抑制も同時に重んじられる流れの中で、報酬の大幅なプラス改定などは期待できないと考える。


なお、仮にこのまま自公連立の少数与党のままで進んでいっても、状況はさほど良くならないかもしれない。国会が与野党の協議・交渉で重要政策を決めていく運びとなるため、優先度・関心度が高くない介護分野に光が当たらない懸念がある。

canly-article-2025.8-lead-sp-banner01

◆ 介護崩壊を食い止めよ


今年6月に閣議決定された「骨太の方針2025」では、介護職員の処遇改善を中心とする臨時の介護報酬改定の実施が示唆され、「経営の安定、離職防止、人材確保がしっかり図られるよう、コストカット型からの転換を明確に図る」などと記載された。


私は、既存の「処遇改善加算」の拡充が高い確率で実施されると予測している。これほど問題になっている他産業との賃金格差の開きを、どのような政権も完全に無視することはできないだろう。


しかし、その規模については大きな期待を持てないでいる。財源の確保をはじめとする様々な課題・障壁を考慮すると、月1万円程度のベースアップを基本とした賃上げにとどまるのではないだろうか。また、「処遇改善加算」以外の報酬の引き上げも困難だろうと考える。


本来であれば、2024年度の報酬改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられたことを踏まえ、来年度の臨時改定で少なくともその基本報酬を元に戻す措置が期待される。しかし、現実的にはそれも難しいと予測せざるを得ない。


当然、それでいいはずがない。新たな政権にはぜひ、“介護崩壊”を止めることの社会的な意義・重要性を考慮した思い切った判断をして頂きたい。

canly-article-2025.8-lead-sp-banner01

◆ 規制緩和・人員基準緩和に懸念


いずれにしても、首相が交代することで介護政策の優先度はさらに低下するのではないかと懸念している。


石破首相個人の考え方を紐解くと、多くの著書や報道から「リベラル的」な要素を持っていることがうかがえる。その意味で、福祉施策の充実も1つの理念として内包していたと考えられる。


確かに、石破首相の就任後に福祉施策が充実したかと問われれば、現場の視点から見て物足りないと言わざるを得ない。ただ、石破首相は国会答弁などで介護現場の窮状に繰り返し理解を示していたし、前述の「骨太の方針2025」の記載にも一定の積極性が感じられた。


今後、同様にリベラルな姿勢を持つ首相が誕生するかどうかは不透明だ。場合によっては、政局の流れ次第で介護施策が厳しい方向へ傾く可能性も否定できない。


もし、リベラル色の薄い首相が新たに誕生すれば、介護施策は「規制緩和」や「競争原理の推進」といった方向へ振れるのではないか。


例えば、各種事業の参入障壁の緩和、生産性向上・ICT化による人員配置基準の緩和などが想定される。特に、人手不足が深刻化している現状を踏まえると、人員配置基準の緩和が一段と進められる可能性が高いだろう。


当然、人員配置基準の緩和が安易に行われれば副作用が生じる。労働環境は一層厳しくなり、結果として介護現場の人手不足がさらに深刻化しかねない。一部の限られた地域を除き、多くの介護現場では規制緩和や競争原理の加速によって労働環境が悪化し、その結果、安定した介護サービスの提供が難しくなるだろう。


状況は混沌としている。首相の交代によって、今後の報酬改定や制度改正が一段と厳しい方向へ向かう可能性があるため、情勢をよく見極めて声をあげなければならない。介護保険の行方はまさに政局次第なのである。


ricoh-2025.9-pc-side01-banner01
Access Ranking
人気記事
介護ニュースJoint