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2022年8月26日

【斉藤正行】どうなる通所介護の未来 時代の変化に合った新しい“カタチ”とは

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《 全国介護事業者連盟・斉藤正行理事長 》

厚生労働省の統計(介護給付費等実態統計)の最新データによる通所介護の事業所数が明らかになりました。事業所数の推移の分析と、直近の通所介護事業を取り巻く政府による動向などを整理し、これからの通所介護事業の未来を考察していきたいと思います。【斉藤正行】

■ 転機は2015年度改定


通所介護事業所、地域密着型通所介護事業所の総数は、今年4月時点で全国に4万3392事業所。総数は2016年に4万3000事業所を超えてから6年間、横ばいに近い状態が続いています。


ただ、地域密着型通所介護は2016年の2万3763事業所をピークに6年連続で減少し、今年は1万8947事業所となっています。一方で、通常規模型・大規模型の通所介護は増加し続けています。


この傾向は、間違いなく、2015年度の介護報酬改定による影響が大きいと思います。


通所介護はあらゆる区分において基本報酬が切り下げられ、とりわけ地域密着型(小規模)については約9%の基本報酬のマイナス改定となり、同時に利用定員18名以下が地域密着型サービスへ2016年から移行されるなど、非常に大きな見直しとなりました。


これにより地域密着型通所介護の経営環境が厳しくなり、事業所の統廃合が進んだことによって事業所数の減少が続いています。更には、地域密着型サービスへとサービス分類が移行され、市区町村が指定権者となったことにより、一部地域においては、計画的な事業所の新規開設が行えないケースも生じています。


他方で、通常規模型・大規模型については、基本報酬はマイナス改定となったものの、下げ幅が限定的であり、規模の経済を活かした効率経営を行うことによって収益性の確保が可能なことからも、着実に事業所数は増加しています。そもそも要介護高齢者の数は年々増加していることから、通所介護のニーズは拡大傾向にあるため、従来は地域密着型を展開していた大手・中堅の通所介護事業者は、通常規模型・大規模型にシフトチェンジして新規開設を行う傾向も見受けられます。


■ 先を見据えてビジネスモデル再考を


このような状況も踏まえたうえで、更に、これからの通所介護事業に影響を及ぼす政府や関係省庁の動向をいくつかお伝えしながら、未来を考察していきたいと思います。


まず1つは、財務省の審議会(財政制度等審議会・財政制度分科会)でまとめられた軽度者改革の提言です。訪問介護の生活援助とともに、通所介護の要介護1と2の利用者を介護保険給付から総合事業へ移管するよう促す内容です。すでに要支援1と2の利用者は総合事業への移管が完了しており、「いよいよ次は要介護1と2の利用者か」と通所介護事業者は戦々恐々としていることと思います。


しかしながら、本件については、あくまで財務省が提言しているのみの状況であり、政府や厚生労働省が本格的な議論を進めている状況には現時点ではありませんので、次期介護報酬改定や法改正で実現する可能性は極めて低いと思います。


ただし、中長期で考えれば軽度者改革の議論が進んでいく可能性は十分あり得えます。5年から10年程度先を見据えるならば、介護保険外サービスの確立による新たな収入源の確保や、要介護3以上の中重度者への対応強化など、通所介護事業のビジネスモデルの見直しを検討していかなければならないと思います。


また、昨年4月に行われた2021年度介護報酬改定での見直し項目をしっかりと分析し、次期介護報酬改定を読み解いた対応も大変重要となってきます。


例えば、自立支援・重度化防止への対応や、「LIFE」を中核とした科学的介護への取り組み、アウトカム評価などは、次期介護報酬改定において、いっそう評価・拡充されることは確実視されています。多くの事業所では表層的な加算への対応のみに留まっているケースが散見されますが、より本質的な取り組みに向けた準備をいよいよ進めていくことが重要であると思います。


そしてもう1つ、昨年度の国の調査・研究事業(老人保健健康増進等事業)において、「在宅生活継続にあたり通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護が果たす役割に関する調査研究事業」が行われ、その報告書の中身から読み解けることも多いです。コロナ禍の中で果たした通所介護の幅広い機能と役割が、要介護高齢者の在宅生活の継続に不可欠であるとの前向きな調査結果が示されており、改めて通所介護の価値が見直されていると表現しても過言ではないと思います。


加えて、本調査の中で注目すべきは、通所介護における訪問機能のニーズ調査です。


コロナ禍において、通所介護事業所の職員が利用者に訪問サービスを提供した場合も報酬を算定できる、という特例ルールが設けられました。その延長線で、訪問に関する質問項目が複数設定されており、この設問項目の設定の仕方から、将来的な訪問サービスの組み合わせの可能性を厚生労働省が模索している、と読み取ることもできます。実際に、4割の事業所から「介護報酬の算定対象になるなら訪問サービスを提供してみたい」との回答も得られており、通所介護の多機能化の新しい未来となり得る可能性も秘めていると思います。


今後も要介護高齢者が増加し続ける人口動態の中、通所介護事業は在宅介護サービスにおける3大機能の1つである「通い」の中核サービスであることからも、必要不可欠な事業であることは疑う余地がありません。他方で、制度改正、環境変化が大きくなることも確かであり、時代のニーズと変化に合わせた新しい通所介護のカタチを見出していくことが重要であると思います。

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