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2023年11月27日

瀕死の訪問介護、時給3千円論も 協会が報酬改定で望むこと 伝えたいヘルパーの大きな魅力

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《 境野みね子さん(左)と結城康博さん(右)》

厳しい人材不足にあえぐ介護業界の中でも、特に深刻なサービスの話をしたい。こう言えば誰もがすぐに分かる。訪問介護のことだ。【Joint編集部】

昨年度の有効求人倍率は15.53倍。ホームヘルパーの4人に1人は65歳を超えた。これから一体どうなるのか − 。今の地域の状況を知る関係者にこう問うと、多くが曇った憂慮の表情を浮かべる。


国は来年度の介護報酬改定に向けた議論を進めている。今はまさに佳境だ。ここでどんな手を打てばいいか考えるため、千葉県市川市へ向かった。


訪問介護や居宅介護支援、通所介護などを運営する株式会社愛ネット。代表取締役の境野みね子さんが、日本ホームヘルパー協会の会長を務めている。


インタビュアーは、この分野に詳しい淑徳大学・総合福祉学部の結城康博教授に頼んだ。愛ネットの常務取締役の佐々木ゆうこさんにも加わってもらい、今の現場の課題、肌感覚などを詳しく教えてもらった。

《 左から佐々木さん、境野さん、結城さん 》

◆ 時代は大きく変わった

結城:こんにちは。ご無沙汰しております。今日はよろしくお願いします。

境野:ありがとうございます。よろしくお願いします。

結城:まずは改めて、訪問介護の人手不足の状況をどうみているか教えて下さい。

境野:極めて深刻な状況です。サービスの需要に供給が追いついていません。ケアマネジャーや地域包括支援センターなどに利用者さんの受け入れを頼まれても、ヘルパーがいなくて応じられないことが増えました。


特に利用者の希望する時間、混み合う時間に訪問するのが難しくなっています。朝、夕などの人手が足りず、食事を待って頂くことも多々あるのが実情です。

結城:10年前と今を比べると、どこが大きく変わりましたか?

《 撮影:介護ニュースJoint 》

境野:地域によって状況が大きく異なることも考慮しなければいけませんが、やはり新たに入ってきてくれる人が大幅に減ったことではないでしょうか。昔はまだ応募があったのですが、今はもう本当に少なくなってしまいました。

佐々木:弊社では例えば、専門学校との連携や実習生の受け入れ、SNSの活用など様々な手を打っていますが、なかなか十分な人材を確保できません。先日、新たなサービス提供責任者を迎え入れることができたのですが、土日・祝日は弊社でお子さんを預かるという条件でようやく入ってもらえたんです。当然、そうした経費も事業所の持ち出しで賄っています。

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結城:なるほど。厳しさが増した要因は色々と考えられますが、周囲の環境変化も大きいのではないでしょうか。例えば飲食店やスーパー、ショッピングモールなどの給与は、以前よりだいぶ上がりました。こうしたライバルは、働く環境が良いところも多いですよね。

境野:相対的にみて処遇が悪くなった、というのは間違いありません。また、皆さんが希望する働き方も変わりました。以前は“主婦の仕事”という側面が強く、直行直帰のスタイルが支持されやすい傾向にあったのですが、今は共働きが多いですよね。


ヘルパーは拘束時間と労働時間が必ずしも一致しない面があり、例えばスーパーなどと比べると収入も安定しません。その辺りも不利に働くようになりました。

《 撮影:介護ニュースJoint 》

◆ 人材確保は可能なのか

結城:賃上げ、労働環境の改善を進められず、他産業に遅れを取ったことが大きかったですね。特に訪問介護は、これまで基本報酬を何度も下げられるなど冷遇されてきた経緯があります。トータルでプラスとなった前回(2021年度)の介護報酬改定も、上げ幅はわずか1〜2単位だけでした。


厚生労働省はこの間、医療・介護連携やリハビリ、機能訓練、科学的介護などを重視してきました。もちろんそれは大切なことですが、一方で利用者の生活を支える訪問介護を軽視しました。財政が厳しい中でそうせざるを得なかった、という側面もあるのかもしれません。


国が“介護保険の医療保険化”を進めた結果、本来なら地域包括ケアシステムの要となるべきサービスが崩壊寸前の状況に追い込まれた。私は歴史をそう捉えています。来年度の介護報酬改定では軌道修正を図るべきと考えますが、境野さんはどんなことを期待していますか?

境野:とにかく基本報酬を上げて頂きたい。人手不足や物価高騰などでコストが大きく膨らんでいます。今のままでは事業運営が成り立たず、サービスを維持することすら難しくなってしまいます。


もちろん、処遇改善加算の拡充や一本化も必要でしょう。ただ、まずは基本報酬を上げないと状況は好転しないと思います。

《 撮影:介護ニュースJoint 》

佐々木:あわせて、ヘルパーの土日・祝日の手当も導入して頂きたい。在宅の介護ニーズは365日で、例えばお盆もお正月も変わりません。


我々の事業所では時給を大幅に高くして入ってもらっていますが、それも全て事業所の持ち出しです。新人や若者には「祝日も入って」と言いにくく、サービス提供責任者らに負担が集中している現実もあります。やはり土日・祝日の介護報酬を増やすべきではないでしょうか。

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結城:土日・祝日の評価は重要ですね。思い切って言うと、私は身体介護と生活援助の基本報酬を大幅に引き上げ、ヘルパーの時給を3000円にすべきだと考えます。


そんなの絶対無理、と笑う人に伺いたい。どうすれば飲食や小売など他産業との競争に勝って十分な人材を確保できるのか。今後も賃上げのトレンドが続く場合、それくらい出さないと訪問介護の現場に来て頂くのは難しいのではないでしょうか。

《 撮影:介護ニュースJoint 》

佐々木:日頃から採用活動に取り組んでいますが、私もそれくらいの条件で募集できたらいいなといつも思っていました。ヘルパーは本当に大変な仕事です。この夏はみんな、汗だくになりながら地域を走り回りました。もちろん、必ずしも清潔でない現場だってあります。


これは残念なことではありますが、利用者さんも全員いい人ばかりというわけではありません。心無いハラスメントを受けることもある一方で、誰かが支援に入らなければいけない実情もあります。本当に大変な仕事なんです。3000円だと看護師さんや薬剤師さんより高そうですが、それくらい言わないと他産業には勝てない気もします。

結城:そうですね。確かに学歴で言えば看護師や薬剤師の方が上かもしれません。ただ給与は本来、労働市場の需要と供給で決まるべきです。


看護師より高いのはおかしいとか、もうそんな悠長なことを言っている状況ではありません。高齢者の命・尊厳を守ること、介護離職を防ぐことを何より優先して考えて頂きたいです。

境野:賃上げに加えて、ヘルパーの魅力をもっと知って頂くことにも力を入れるべきです。確かに大変な仕事ではありますが、良いところも沢山あることをもっと伝えたいです。

《 撮影:介護ニュースJoint 》

◆ 自由度が高く個性が生きる仕事

結城:そうですね! 境野さんが考えるヘルパーの魅力とは何でしょうか。

境野:やりがいの大きさです。いつまでも自分の家で、住み慣れた地域で生活したいと願う多くの高齢者を支援できる、それを本当に実現できることが大きな魅力だと思います。


誰だって最期まで自宅で暮らしたいものでしょう。本人の持てる力を活かしながら希望を一緒に叶えていく仕事ですから、本当に意義が大きいと思っています。


あとは、介護のプロフェッショナルになれるところも重要ですね。それぞれの状態や環境などにあわせて、100人いたら100通りの支援を展開します。困難事例とどう向き合うかも含め、オールマイティに介護を担っていく点も魅力ではないでしょうか。

佐々木:在宅は施設と違い、利用者さんの住環境や経済状況、介護用品などがひとりひとり全く異なります。その人に合った最適な方法で支えていく創意工夫が必要で、そこにすごく面白みがあるんです。機転を利かせて主体的に判断すべきことが多く、自分の強み、キャラクターを活かせる余地も大きい。すごく個性が輝きやすく、みんなが主役になれる側面があって、そこは魅力として強く実感しています。


あとは副業でできること、全国どこでもフリーランスやギグワークのように働けることも魅力ですよね。本業で得られない満足感を、ヘルパーの副業で得ている方も少なくありません。「待ってたよ」と言ってくれる利用者さんは沢山います。働き方が多様化する社会全体の流れもありますので、こうした自由な働き方には将来性もあるように思います。

《 撮影:介護ニュースJoint 》

結城:魅力は沢山ありますね。国には是非、こうして地域の要介護者を支えている事業所に財源を重点配分して頂きたい。

現在、大手企業を中心に利用者選びのクリームスキミングが横行しています。大規模化は重要ですが、地域包括ケアシステムの理念にそぐわない影響が出がちな側面も考慮すべきです。集合住宅に併設されている事業所とそうでない事業所を、別々に評価することを検討すべき時期ではないでしょうか。


最後になりますが、境野さんからぜひ全国のヘルパーに何か呼びかけたいことはありますか?

境野:はい。ありがとうございます。


訪問介護は大変な面もありますが、本当に魅力的な仕事です。自分の個性を活かし、あらゆる状態の高齢者・障害者をその環境に応じてトータルで支える究極の専門職です。やりがいは非常に大きく、これからは更に増していくでしょう。


皆さんも一緒に、介護のプロフェッショナルとして地域の主役になりませんか? 共に働ける仲間が1人でも増えることを願っています。

結城:ありがとうございました。


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