2022年7月19日

【高野龍昭】要介護2以下の訪問介護・通所介護を総合事業へ移す案、国の「真の狙い」とは

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東洋大学 高野龍昭准教授

■ 繰り返し議論されてきた「総合事業の範囲拡大」

参議院選挙も終わり、いよいよ社会保障審議会・介護保険部会での2024年度制度改正に向けた議論が本格化します。【高野龍昭】

とりわけ、要介護1、2の訪問介護(生活援助)・通所介護などを保険給付から外し、「介護予防・日常生活支援総合事業」に移行するか否かという議論は、最も注目されるポイントのひとつです。

この点は最近の財務省の審議会でも指摘されており(註)、激しい議論が予測されます。

総合事業は、2012年度改正の際に市町村の任意事業として導入され、2015年度改正で必須事業となりました(2017年4月までに各市町村で開始)。さらに、その範囲を要介護2までの訪問介護(生活援助)などに拡大することについては、2018年度改正、そして2021年度改正をめぐる議論でも焦点となってきた経過があります。

これについて、多くの介護実践現場のみなさんは「総合事業では報酬単価が切り下げられる」という観点から反対をしているようですが、「総合事業への移行」の「本質的なねらい」はそこではありません。私は、この見直し議論の賛否にあたっては、まずその「ねらい」の理解をしておくことが必要だと思っています。

それは、端的に言えば、介護保険の介護給付・予防給付などの「保険給付費」と、総合事業などの「事業費」の予算(経費)の根本的な性格の違いです。

■ 福祉・医療関係の予算(経費)の2つの性格

そもそも、社会福祉・医療などに関連する予算(経費)の性格は2つに大別されます。ひとつは「義務的経費」、もうひとつは「裁量的経費」です。

1. 義務的経費

医療保険の保険給付費、生活保護の扶助費、そして介護保険の保険給付費などは「義務的経費」として取り扱われます。

この義務的経費は、予算(基本的には年度単位)を事前に組むものの、給付や扶助などの必要性があれば、また、その受給の権利がある人から定められた範囲の申請があれば、たとえ予算の範囲を超えても、その費用を必ず確保をする義務が政府・自治体に課せられているものです。つまり、義務的経費である場合、「予算切れ」を理由に給付などが止められることはありません。利用者本位という意味では、極めて優れた仕組みです。

逆に言えば、この義務的経費については、行政が費用をいかにコントロールしようとしても、給付などの必要性がある人、その申請の権利のある人が増えれば、経費は際限なく拡大する可能性があります。

2. 裁量的経費

老人福祉制度によるサービスの費用や医療保険による健診などの保健事業費、そして介護保険の総合事業の事業費などは「裁量的経費」として取り扱われます。

この裁量的経費は、予算を事前に組み、その範囲内で事業などを実施することが基本とされているものです。予算以上の経費がかかる場合、予算切れを理由に事業を実施しない、新たな予算(補正予算など)による対応をしないという政府・自治体の裁量が認められているものです。さらに言えば、市民や被保険者の(量的・財政的な)ニーズには応えられなくても、制度的にはそれが許されるものです。

逆に言えば、この義務的経費は、財政状況の許す範囲で予算を組み、そのうえで費用の伸びを抑制したり、事業の規模をコントロールしたりすることが容易になるものです。これは、財政規律を重視する際には優れた仕組みであると言えます。

■「総合事業の拡大」の財政的な「本質」

 

つまり、要支援1、2の訪問介護と通所介護が保険給付(義務的経費)から総合事業(裁量的経費)へ移行され、更には要介護1、2についても保険給付(義務的経費)のサービスの一部を新たに総合事業(裁量的経費)へと移行しようと検討するのは、「際限なく膨張する保険給付(義務的経費)の伸びを抑えるために、その一部を総合事業(裁量的経費)に移行し、財政的事情の許す範囲(上限)内で事業費を予算化することで、それをコントロールする」ものと読み取れる、ということです。

実際、厚労省が定める総合事業のガイドラインでは、その予算増について、「後期高齢者の人口増加率の範囲内での増率しか認めない」という原則も組み込まれています。

介護保険の財政をめぐっては、高齢者(あるいは、介護保険の実質的なユーザーである後期高齢者)の人口増の幅を超える給付費の増加が問題視されています。これに対処するためには、保険給付が段階的に総合事業に移行されていけば、一定の対応が可能になっていくわけです。ここに総合事業の財政面での「本質的なねらい」があると私は考えています。

他方で、総合事業の事業費が膨らみ過ぎているという指摘もあります。これは、前述のガイドラインで「”一定の特殊事情”がある場合には、個別の判断により事業費が上限を超えても認める」と規定されているためであり、それを受けて、厚労省が市町村などとの個別協議で柔軟に予算増を認めてきた経緯があります。

ここについては、財務省の審議会などの指摘を受け、今年6月、厚労省がガイドラインを見直して、今後の予算増に規制を設ける仕掛けをすでに講じています。

 

つまり、「保険給付から総合事業への移行」は、伸びの急激な介護保険財政に「タガをはめる」意味をもつわけです。この意味をしっかりと理解したうえで、制度改正の議論を注視する必要があると言えるでしょう。

(註)財政制度等審議会(2022年5月25日)『歴史の転換点における財政運営』p66

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