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2025年5月7日

【小濱道博】外国人の訪問介護の解禁は大手偏重 小規模排除で地域介護は守れない

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《 小濱介護経営事務所|小濱道博代表 》

1,制度の整備と活用の乖離


訪問介護の慢性的な人材不足を補う手段として、外国人介護人材の活用が制度的に拡充されつつある。【小濱道博】

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技能実習制度や特定技能制度を通じて、訪問系サービスで外国人が4月より就労可能となったことは一定の前進と評価される一方で、これらの制度が実質的に大規模法人に有利に機能しているという指摘も多い。


とりわけ、単独で営業する小規模な訪問介護事業所にとって、制度活用のハードルは非常に高く、現場の人材確保策として現実的に機能していない状況が浮かび上がっている。


2,要件がもたらす大規模事業所の優位性


現行制度では、外国人の受け入れに際し、事業者に多くの体制整備が義務づけられている。研修体制、OJT計画、キャリアアップ制度、ハラスメント対策、ICT環境の整備などがそれに該当する。


これらは制度上、外国人の保護と介護サービスの質の担保を図るうえで必要不可欠であるが、現実には資本力と人的リソースに余裕がある大規模法人でなければ対応が難しく、小規模事業所には制度の門戸が開かれているとは言い難い。


外国人が訪問系サービスに従事する場合、提供するサービスの質の担保という観点から、初任者研修を終了していることを前提として、介護事業所などでの1年以上の実務経験を有することが原則とされた。これは、利用者の居宅で1対1のサービス提供を行うという訪問系サービスの特性上、ある程度の経験を持った人材でなければ、適切なサービス提供が難しいという考えに基づく。


しかし、この実務経験要件は、特に小規模な訪問介護事業所にとって、外国人の受け入れを著しく困難にする要因となる。


特に、訪問介護のみを単独で運営している小規模事業者の場合、1年以上の実務経験を持つ外国人の確保は非常に困難である。1年間、自らの努力で育成することも現実的ではない。介護施設などを運営している大規模法人であれば、グループ内の異動などで人材を確保できる可能性があるが、小規模事業所にはそのような選択肢がない。

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3,訪問介護特有の構造的な難しさ


研修体制の整備においては、専門の研修担当者を配置し、多岐にわたる研修プログラムを開発・実施する必要がある 。これは、人材育成に十分なリソースを割けない小規模事業所にとって大きなハードルとなる。


また、OJT計画の作成やキャリアアップ計画の策定においても、多職種連携やキャリアパス構築に関する専門的な知識や経験が求められるため、小規模事業所では対応が難しい場合がある。そもそも、OJTに人材を割ける余力はないであろう。 


さらに、ICT環境の整備においては、コミュニケーションアプリや介護記録ソフトなどの導入が必要となる場合がある。これらのICTツールは、業務効率化や情報共有の円滑化に貢献する一方で、導入や運用にコストがかかるため、資金に余裕のない小規模事業所にとっては、導入が困難な場合がある。  


このように、現行制度は、人材、資金、ノウハウの面で余裕のある大規模事業所が有利になるように設計されており、小規模な訪問介護事業所は、制度の活用が難しい状況にある。


小規模な訪問介護事業所が外国人の受け入れに際して直面する困難は、単にリソース不足というだけでなく、訪問介護の特性に根ざした構造的な問題も含む。利用者の居宅において1対1でサービスを提供する、という特性だ。このため、外国人を受け入れる場合、利用者の安全と安心を確保し、質の高いサービスを提供するために、特段の配慮が必要となる。

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4,制度設計の見直しと多様性への視点


今後の制度設計においては、現行の画一的な基準適用から、事業所の規模や体制に応じたより柔軟な要件への転換が求められる。


たとえば、まずは同行訪問を中心とした段階的なOJTからスタートし、一定期間を経て単独訪問を許容する仕組みを、より弾力的に適用することが現実的である。これは、ケアの質を確保しつつ、安全・安心な導入への橋渡しとなり得る。


また、国が推進する事業者グループの活用も有効な手段となるだろう。外国人材の活用を単なる労働力補充とせず、文化的多様性を受け入れるきっかけと捉え、異文化理解・定着支援などを中長期的な視点で推進していくことが、地域包括ケアの理念にもかなう対応である。


5,公平な制度設計と地域介護の持続性のために


訪問介護の外国人の受け入れは、人材不足への対応だけでなく、サービスの多様性やケアの質向上につながる可能性を持つ。


しかし、現行制度が大規模法人に偏重している以上、地域のインフラとして重要な役割を担う小規模事業所が取り残される危険がある。制度設計の見直しと、地域の実情に即した支援策の強化が急務であり、それによってこそ、制度全体の公平性と介護サービスの持続可能性が確保されるといえる。


今回の制度改正のベースとなった国の検討会では、ヒアリングが3事業所に留まっている。小規模な事業者の声を伝える業界団体の意見徴収は不十分と言わざるを得ない。


今回の制度化は、急ぎすぎたのではないかと思う。早期の検証作業と更なる議論を望みたい。


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