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2025年6月10日

【天野尊明】公定価格の引き上げ、見え隠れする財務省の影響力 骨太原案に異例の明記も具体策が不安

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《 介護人材政策研究会・天野尊明代表理事 》

6月6日に開催された経済財政諮問会議で、「経済財政運営と改革の基本方針2025」の原案が示されました。これは俗に「骨太の方針」と呼ばれ、政府が今後行っていく政策の基本骨格となるものです。【天野尊明】

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極めて重要なものであるだけに、介護業界でも内容に大きな注目が集まります。焦点となるのはやはり賃上げです。今回の原案にはどのように書かれているのか。当コラムでは、そのことについて解説していきます。


◆ 来年度期中改定の公算高まる


まず、現政権が賃上げを政策の要としていることはご存知の通りです。その中で、今回も「賃上げこそが成長戦略の要」と掲げ、引き続き最重要視していることが分かります。


介護分野については、「医療・介護・保育・福祉等の人材確保に向けて、保険料負担の抑制努力を継続しつつ、公定価格の引き上げを始めとする処遇改善を進める」と記載されました。


ここでいう「公定価格の引き上げ」は、自然に考えれば介護報酬の引き上げにより処遇改善を行う旨が書かれていると捉えられます。それが明記されたことは、大いに歓迎すべきです。「骨太の方針」の原案にここまではっきり記されるのは異例。「2025年末までに結論」と書かれていることから、何らかの形で来年4月に介護報酬の期中改定が実施される公算が高まった、と言っても過言ではないでしょう。

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◆ 本当に政府は変わったのか? その本気度は?


しかし同時に、「保険料負担の抑制努力」という文言が釘を刺していることをお感じになると思います。これは財務省の審議会が、「診療報酬・介護報酬を1%引き上げると(略)現役世代等の保険料負担が3000億円程度増加する」と指摘していたことを踏襲しており、今回の原案作成でも、財務省が相当の影響力を持ったことが窺えます。


留意すべきポイントは他にもあります。今回の原案には、「持続可能な社会保障制度を構築するための改革を継続する」「これまでの処遇改善などの実態を把握・検証する」との考えも記されています。こうした記載の裏側にも、やはり財政規律を重視する財務省の影響力が働いています。


これらを読むと、政府の姿勢はあまり変わっていないのではないかという懸念が生じます。従来通り、「保険料の上昇を招かない範囲内で、処遇改善加算の拡充による賃上げを軸として想定しつつ、まずは実態調査を実施してみよう」といったスタンスだと受け止めることもできるでしょう。介護報酬の引き上げ、介護職の賃上げが実際に十分に行われるかどうかは、やはり予断を許さないと言わざるを得ません。

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例えば、基本報酬の引き上げは事実上行われず、処遇改善加算の拡充による調整にとどまるシナリオもあり得ます。処遇改善加算の拡充についても、財務省が一律の対応で介護職の賃上げを進めることに慎重な立場をとっているため、介護現場を好転させる内容になるかは不透明です。


仮にそれなりの財源が投下され、賃上げの促進が図られたとしても、他にしわ寄せがいく可能性も否定できません。前回の改定では、厳しい状況が指摘されていた訪問介護の基本報酬が引き下げられており、もはや何が起きても不思議ではないでしょう。


◆ 未来を変えるために


肝心なのは具体的な施策に他なりません。今回の原案では、政府の施策の大まかな方向性が示されたわけですが、それをどう実施していくのかには十分な検討余地が残されています。今後の動向を注視しなければいけません。


1人でも多くの介護関係者が、政府・与党に限らず、各所へ問題意識を届け続けることでしか、業界の未来は変えられません。来月には参院選も予定されています。ぜひ皆さまの声を、それぞれの形で発信していただくことを願ってやみません。


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