【結城康博】外国人の確保・定着の優先を 介護福祉士国試の経過措置、苦渋の決断でも延長すべき


業界内で意見が分かれている。やむを得ない苦渋の決断となるが、より現実的な道を選択せざるを得ない。【結城康博】
今回は外国人介護職員の確保・定着をめぐる話だ。
大学や専門学校などに通って介護福祉士の国家資格を目指す場合、2017年度から、専門性の担保に向けて国家試験の合格が義務付けられた。
ただ現在は、外国人にも配慮して設けられた経過措置の期間中。2026年度の卒業生までは、たとえ国家試験が不合格であっても、5年間は介護福祉士として登録できるようになっている。また、卒業後5年間、介護などの仕事に継続的に従事していれば、引き続き介護福祉士として活躍することが認められている。
◆ 厳しい日本の状況
問題は、この経過措置を今後も継続するかどうか。外国人介護職員を多く抱えている施設などを中心に、政府の判断に注目が集まっている。私は、外国人の力に頼らなければ立ち行かない日本の介護現場の実情を鑑みて、経過措置を更に3年間延長すべきと考える。
当然のことだが、経過措置の延長を主張する理由は、外国人介護職員の確保・定着のためである。このまま経過措置が終わると、養成校ルートで働いてくれる外国人が減少してしまうと危惧している。
現在、日本は国際的な競争で不利な状況にあると言わざるを得ない。
例えば、私が毎年視察に訪れているドイツの介護現場も、日本と同様に外国人が貴重な戦力となっている。東南アジアの方々にとっては、円安の影響もあり、欧米諸国で働いたほうが、少なくとも賃金面では大きなメリットがある。
現地で実際に話を聞くと、日本の厳しい現状を改めて痛感させられる。今後も日本経済の低迷が続けば、来日してくれる外国人は減少してしまうのではないだろうか。
◆ 反論は分かるが…
経過措置の継続に反対する意見として、介護福祉士資格の専門性が担保されなくなるという懸念があることも承知している。正直なところ、私も理想を言えば、経過措置は撤廃し、国家試験の合格を必須とすべきと考えている。
しかし、果たして今の介護現場に、介護福祉士資格の専門性について議論する余裕があるのだろうか。人手不足が危険水域に至っている一方で、要介護者が増え続けている足元の危機はもはや説明するまでもない。ここで、大学や専門学校などで学んだ外国人が活躍するハードルを上げてしまえば、状況はより深刻になるのではないか。
また、全国の養成校(大学や専門学校など)にとっても外国人は死活的に重要だ。留学生の占める割合が高く、既に運営継続の生命線となっているのが実情である。

仮にこのまま経過措置が撤廃されれば、留学生の数は減少していくと予測される。そうなれば、養成校の経営はますます厳しくなり、その衰退が一気に加速してしまう。介護福祉士の養成が実務経験ルートに偏る結果を招き、若い新卒介護福祉士の輩出は一段と難しくなるだろう。
◆ まずは経過措置の延長を
そのため、差し当たり経過措置を3年間継続し、様子を見るのが現実的な策ではないだろうか。また、今年度から介護福祉士国家試験に「パート合格制」が導入されることから、その動向も注視しながら、経過措置の撤廃について引き続き検討していくべきと考える。
ただし、養成校を卒業して国家試験に合格していない介護職員(外国人も日本人も)に対し、継続して受験を促していくことは欠かせない。専門性を担保するために、一定の研修を義務付けることも必要と考える。
繰り返しになるが、今回はやむを得ず経過措置を継続したとしても、いずれは撤廃を検討していく必要がある。その際は、卒業と同時に国家試験に合格できなかった人について、当面の間、介護現場で働けるようにする救済措置をあわせて検討することも一案だろう。
いずれにしても、現時点では経過措置の延長を優先すべきである。