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2025年8月5日

【結城康博】最低賃金の大幅引き上げは介護業界にとって悲劇 人材流出の加速を招く

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《 淑徳大学総合福祉学部 結城康博教授 》

厚生労働省の審議会は4日、今年度の最低賃金について、全国平均の時給で63円引き上げるとする目安を示した。引き上げ幅は過去最大。この目安通りに引き上げられれば、全国平均は1118円となる。【結城康博】


これは介護業界にとって悲劇としか言えない。非常勤を中心として事業所・施設に人材が来なくなってしまう。あるいは、既に働いている人材が他業界に流出するリスクが高まってしまう。

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◆ 既に鮮明な給与格差


もちろん、全ての都道府県の最低賃金が1千円を超えることになる今回の動きは、一般的な労働者にとって朗報と言える。むしろ、目下の止まらない物価高の状況を考慮すると、まだ不十分と言わざるを得ない。全国平均で1200円程度まで上がらないと、日々の生活は苦しいままではないだろうか。


だが、介護事業者の立場からみると話はまったく違ってくる。まず、現状でも他産業と比較して劣勢に立たされていることは明白だ。


連合が今年5月に公表した春闘の回答集計結果によると、有期・短時間・契約などの労働者の時給は、前年を大きく上回る1231円(単純平均65.02円増)に至っている。月例賃金についても、賃上げ額は1万6749円、5.32%のベースアップと前年を大きく上回った。


これは、報酬改定で処遇改善加算が拡充された昨年度の介護職員の賃上げ(*)より高い水準だ。しかも、今年度は報酬改定がないため介護職員の十分な賃上げは期待できない。

* 2024年度の「介護従事者処遇状況等調査」によると、処遇改善加算を取っている事業所の介護職員の平均給与額は+1万3960円(+4.3%)

「連合」と聞くと大企業を連想する人も多いだろう。しかし、加盟企業の中には組合員数が100人未満の中小企業も含まれている。そうした中小企業に限った賃上げをみると、今年度も高水準が続く状況となっている。

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◆ 毎年1回の報酬改定を


最低賃金がこのまま引き上げられていけば、通常の企業は人件費の増加分を商品の値上げなどで価格に転嫁し、それぞれ適切に対応していくことになるだろう。


言うまでもなく、介護事業者はルールが異なる。公定価格という枠組みに縛られ、自由に価格転嫁をすることができない。最低賃金の上昇に伴い、事業所内の平均賃金も押し上げられることになるが、それを補う収益の増加は見込めないのが実情だ。


このため、経営がより厳しくなって専門職の賃上げも頭打ちになる。結果として、他業界との給与格差が一段と際立つことになりかねない。


数年に一度の報酬改定はスピードが遅く、往々にしてその規模も不十分だ。当然の帰結として介護業界は他業界に取り残され、一層不利な状況に追い込まれることになる。

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今回の最低賃金の引き上げは、こうした事態を加速させる恐れがある。本来、春闘での大幅な賃上げを国策として進めたり、最低賃金を大きく引き上げたりするのであれば、それと連動して報酬改定も迅速に行うべきだ。今の状況を踏まえると、報酬改定は毎年1回必ず実施しなければおかしいのではないか。


現行の原則3年に1回のサイクルでは、もはや対応できないことは明らかだ。今後、労働市場で介護業界が更に取り残される事態を防ぐためにも、例えば処遇改善加算の加算率だけでも、毎年1回のペースで改定するシステムを整備すべきと考える。それは、公定価格を所管する政府としての最低限の責任ではないだろうか。


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