【田中紘太】ケアマネの賃上げ策、要件クリアと書類作成どう対応? 申請手続きに今から備えよう
◆ ついに居宅ケアマネが対象に
政府が決定した今年度の補正予算案に、介護従事者を対象とした新たな賃上げ策が盛り込まれました。【田中紘太】
今回のスキームは「3階建て」となっており、介護職員は最大で月額1万9千円となる一方、居宅介護支援のケアマネジャーは「1階部分」の月額1万円にとどまるなど、一定の差が設けられました。
しかし、これまでずっと処遇改善の蚊帳の外に置かれてきたケアマネジャーが、ついにその対象に含まれたことは歓迎すべきでしょう。まさに歴史的な一歩であり、大変評価できることだと捉えています。
今回の政府の動きは、先行して実施されている東京都の独自策(*)を意識した「後追い」の側面があることは否めません。自治体の先行事例が国を動かし、全国的な制度へと波及させたという事実も、非常にポジティブに捉えるべきでしょう。
※ ケアマネジャーへの月額1万円の支給など
ただ、手放しで喜んでばかりもいられません。現場の事業者・管理者、特に併設サービスを持たない単独居宅の事業所の皆さまに、ぜひ注意していただきたいことがあります。
それは、今後の申請手続きが「極めてタイト」かつ「不慣れな作業」になる可能性が高いという点です。
◆ 不慣れな「処遇改善加算」への対応
今回の賃上げ策は、単にお金が振り込まれるわけではありません。厚生労働省は既に、介護職員を対象とする既存の「処遇改善加算」に準じた取得要件を設ける意向を示しています。
ここで問題が生じます。訪問介護やデイサービスを併設している法人であれば、事務員が処遇改善加算の書類作成に慣れているでしょう。しかし単独居宅の場合、そもそも処遇改善加算の申請書を見たこともないという事業所も多いのではないでしょうか。
キャリアパス要件を満たす、職場環境等要件を満たす、そして処遇改善計画書を作成する——。これらは、初めて取り組むには骨の折れる作業です。
しかも今回は、政府が補助金を介護現場へなるべく早く届けようとしていることから、厚労省や自治体には異例のスピード感が求められています。申請手続きのピークは、ちょうど年度末の繁忙期と重なる見通しです。
年度末といえば、ただでさえ決算や通常の業務で多忙を極める時期です。そこに、未経験の申請業務への対応が飛び込んでくる。準備不足のままその時を迎えれば、現場が混乱に陥ることは想像に難くありません。
◆ 今すぐ他サービスの要件を予習せよ
では、どうすればよいのか。国から要綱が出るのを待っていては手遅れになる可能性があります。私が強く推奨するのは、「今のうちから他サービスの処遇改善加算の要件を予習しておくこと」です。
具体的には、訪問介護や通所介護ですでに運用されている「職場環境等要件」を確認してください。
職員の資質の向上、健康管理、キャリアアップの支援、働きがいの醸成、生産性の向上といった幅広い項目があります。このうち、自事業所がすでに取り組んでいることは何か、新たに対応が必要なことは何か——。これらを洗い出しておくだけでも、いざ申請が始まった際の初動スピードが劇的に変わるでしょう。
将来的に居宅介護支援に類似の加算が導入されることを見据えれば、こうした職場環境の改善、生産性の向上に向けた取り組みは絶対に避けて通れません。業務の棚卸しや課題の見える化、テクノロジーの活用、業務の効率化などが、これから一段と求められていくことは確実です。
◆ 来年度改定への試金石として
今回の月額1万円はあくまでも一時的な支援で、当然ゴールではありません。目下の最大の焦点は来年度の臨時改定。これが恒久措置として介護報酬に組み込まれ、そこから十分に拡大されていくかが重要です。
そのためにも、今回の賃上げ策を全国の居宅介護支援事業所がしっかりと申請し、実績を示すことが必要です。「面倒だから申請しない」という事業所が多いと、「効果が期待できない」という誤ったメッセージを政治・行政に送ることになりかねません。
せっかく掴んだこのチャンスを、事務作業の不備で逃すのはもったいない。皆で情報を共有しながら、今から万全の準備を進めていきましょう。











