【天野尊明】介護の賃上げ、最終攻防へ 来年度「期中改定」はどこまで届くか
(1)来年度本予算案の議論は大詰め
つい先日、新たな経済対策とその裏付けとなる補正予算案が閣議決定されたばかりですが、来年度本予算案のとりまとめに向けた審議も急ピッチで進められており、大詰めを迎えています。【天野尊明】
介護分野で最も注目を集めているのは、臨時で行われることになった介護報酬改定でしょう。
一般的には「期中改定」ということができる来年度改定の見込みについては、以前のコラムで触れたように、処遇改善加算の「3年目財源」を措置することが前提となっています。そして、その効果を前倒すものという位置づけである補正予算案の賃上げ策(介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業)の内容が、つまりは改定の方向性そのものであることは言うまでもありません。
今回の補助金では、今年12月から来年5月までの半年分が措置されることになっています。つまり来年6月からは、処遇改善加算の3年目財源という形で、期中改定による運用に移行されることが想定されるのもご理解の通りです。
(2)「1.9万円相当補助金」と「処遇改善加算の3年目財源」の関係性
補正予算案の賃上げ策の詳細については、小濱道博氏のコラムでも触れられていますのでここでは割愛します。
重要なのは、やはり「3階建て」の構成になっていることでしょう。このうち1階(介護従事者に対する幅広い賃上げ支援)と3階(介護職員の職場環境改善に取り組む事業者への支援)は、処遇改善加算の取得などの要件はあるものの、言ってみれば既定路線のものに過ぎません。「要件なしで支給するわけにはいかないが、できるだけ取得してほしい」というメッセージが示されています。
今回、明確な意図をもって新たに付加されたと言えるのは2階(生産性向上や協働化に取り組む事業者の介護職員に対して賃上げ支援を上乗せ)です。
要件は既報の通りで、これまで厚生労働省として浸透に苦慮してきたものを入れ込んでいます。このあたりはかなり高い可能性で、今後の処遇改善(加算)における重点として扱われていくことになると考えられます。事業者の皆さまは、そうしたことを踏まえて対応していくべきでしょう。
(3)財務省と厚生労働省のせめぎ合いの結果「3階建て」に
一方で、「そもそも『3階建て』などと手間ばかり増やさず、すっきり賃上げ財源を措置すべきだ」という声も多く上がっており、現下の厳しい状況を鑑みれば、これにも一理あると感じざるを得ません。
しかし、厚生労働省に限ったことではなく、各府省庁が財務省と予算折衝をする際には、その要求の根拠を示すことが厳しく求められます。
もちろん今回は、「骨太方針2025」や高市早苗首相の所信表明演説などで前もって介護分野の賃上げが掲げられていたため、何らかを措置することは確定していました。
それでも、財務省としては限られた予算内で「いくらでもどうぞ」というわけにはいきません。どういう名目でどれくらい財源を付けるかの設計図として、「3階建て」に落ち着いたということは容易に想像できますし、その大団円として、補正予算案が閣議決定される前日の11月27日には、財務省の宇波弘貴主計局長が厚生労働省の伊原和人事務次官や黒田秀郎老健局長らとともに、高市早苗首相に面会しています。
(4)「期中改定」はどこまで届くか
そうした背景を踏まえると、これまでより高い最大1.9万円相当という額面を引き出すために、厚生労働省としてかなりの工夫と努力をしたということは、事実として受け止めなければなりません。しかし当然、これで十分ということには全くならず、この額では他産業を上回る賃金はおろか、賃上げ率でさえ春闘に届くかどうか、という厳しいラインであると言わざるを得ません。
このため、期中改定でこのまま1.9万円が加算に移行されるのか、さらなる上乗せが可能なのかが焦点になります。
現政権は、世間の見方とは異なり、かなり財務省と緊密な関係にありますから、目減りする可能性さえ噂されています。厚生労働省の審議会では上乗せを求める声が強くあげられていますが、例えば前述の「3階」部分が、ワンショットの「補助金限り」という扱いとなる可能性も十分にあります。
(5)おわりに…現政権と財務省の距離感
最後に、前回のコラムで次の介護保険制度改正に関する見込みについて触れ、「利用者負担の引き上げ(2割負担対象者の拡大)」や「軽度者外しの見送り」は概ね違っていなかったものの、「ケアプランの有料化」については大きく見込みを誤りました。率直に、お詫び申し上げたいと思います。
この件について、あれこれ書いても言い訳がましくなるので詳細には触れませんが、この読み違いの要因には、①現政権と財務省との緊密性、②「囲い込み」への強いアレルギーが既成事実(口実)になったこと、③現政権への支持率の高さ ― があると考えています。
特に①については、
▷ そもそも現政権における社会保障政策の基盤とも言える自民党と日本維新の会の連立合意文書に、OTC類似薬の薬剤自己負担の見直しをはじめとする社会保障改革による保険料率引き下げなど、財務省肝いりの施策が多分に含まれていること
▷ 政権運営の上で自民党としても、そのネジを巻く日本維新の会へ一定以上の配慮をせざるを得ないこと
▷ 高市早苗首相の秘書官には財務省のエース中のエースが登用されていること
などから明らかでしたが、その深さを見誤ったというところです。
こうした背景の中で迎える来年度の期中改定です。業界から見れば手厚いものであって当然という思いもありますが、決して楽観視はできない状況にあります。
冒頭に申し上げた通り、改定議論は間もなく決着の段階にありますが、最後の最後まで、業界として声を届けていく必要があります。今日の政治・行政は、想像以上にSNS上の声に影響を受けると感じています。
ぜひ、引き続き皆さまからも発信をお願いできましたら幸いです。











