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2025年11月7日

介護保険に救われた当事者の決意 家族の会が負担増・給付縮小に反対し続ける理由

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《 認知症の人と家族の会・和田誠代表理事 》

「次の世代に、この素晴らしい介護保険制度をそのままの形で手渡したい」。


「認知症の人と家族の会」の和田誠代表理事は、国の審議会などの重要な場で利用者・家族の立場から率直に意見を言い続けている。【Joint編集部】

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その源流には、実父の介護を5年ほど遠距離で担った当事者としての経験があった。「介護保険があったから仕事を続けられ、父をしっかり看取ることができた」。制度への感謝、サービスの大切さの確かな実感が、どんな場面でも臆せず声を上げる使命感を支えている。


和田代表理事は今、介護保険の「給付と負担」のあり方をめぐる議論の渦中にいる。弱い立場に追い込まれやすい利用者・家族の立場をとる者として、2027年度に控える次の制度改正とどう向き合うのか。「話を聞かせてほしい」と取材を申し込んだら、快く引き受けてくれた。


  −− 利用者・家族の立場として、審議会などで積極的に発言されています。

《 認知症の人と家族の会・和田誠代表理事 》

実は私は、介護サービスを提供する側の人間でもあるんです。今は訪問介護事業所の所長として、福井県の介護現場に従事しています。ですから、介護業界の実情はそれなりに理解しているつもりです。


ただ、審議会などでは「認知症の人と家族の会」の代表理事として、介護サービスの利用者・家族の声を国に届けています。この立場で発言する責任は重い。与えられた役割の意味をかみしめながら、一言一言に重みを込めて臨んでいるつもりです。


  −− 主体的に取り組む原動力は、どこにあるのでしょうか?


活動の原点には、福井県の実家に暮らす父を東京から約5年にわたって支え続けた経験があります。


介護保険があったからこそ、仕事を続けて生活を維持することができた。父と向き合い、最期に看取ることができた。「本当にありがたい制度だ」と、心の底から痛感しました。


だからこそ、審議会などの場では、たとえ他の方と異なる主張であったとしても、言うべきことははっきり言わせていただいています。


  −−「給付と負担」をめぐる議論が本格化しています。何を重視して発言しているのでしょうか?


最近は、現役世代の保険料負担を軽減すべきだという世論が大きくなっていますよね。もちろん、それはとても大事な視点です。


でもそのために、給付の縮小を安易に認めてしまったらどうなるのか。「必要な時にサービスを使えない社会」に戻ってしまうのではないでしょうか。


決して制度を後退させてはいけない。それが介護保険に救われた者の信念です。この制度を築いた世代への敬意を胸に、次の世代へと良い形のまま引き継ぐ責務を果たしたいんです。


それが最大の願いであり、私に課された使命だと思っています。

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  −− 次の制度改正に向けた論点に、利用者負担の引き上げがあがっています。これに強く反対しているようですが、その理由は?


介護は医療と異なり、長い期間、日常的にサービスを使い続けるものです。つまり、利用者負担も長期にわたり積み重なっていきます。


2割負担の対象者を拡大すれば、サービスの利用控えが起きて必要なサービスが届かない結果、高齢者の重度化の加速を招きかねません。足元の厳しい物価高騰も踏まえると、今の負担割合を断固維持すべきだと思います。


もちろん、制度の持続可能性の確保に向けたきめ細かな制度設計を全て否定するつもりはありません。ただやはり、利用者・家族を追い詰める拙速な負担の増大は認められません。


  −− 居宅介護支援のケアマネジメントで利用者負担を徴収することの是非も、大きな争点となっています。


実施すれば様々な問題が発生すると思います。多くの関係者がそう思っているのではないでしょうか。


そもそも、相談支援に料金を課すのはことの本質に反すると考えます。


また、お金のやり取りがあると利用者・家族に忖度しすぎたケアプランが増えたり、カスタマーハラスメントを助長したりする恐れも拭えません。ケアマネジャーと利用者の双方に悪影響が大きいため、我々も明確に反対していきます。

《 認知症の人と家族の会・和田誠代表理事 》

  −− 要介護1・2の高齢者に対する訪問介護と通所介護を、市町村の地域支援事業に移管する案も論点と位置付けられています。


ぜひ冷静になっていただきたい。それを断行したら、本当に大変なことになると思います。


そもそも、総合事業は多くの地域でうまくいっていません。自治体は対応に苦慮し、事業者は十分な収入を得られず、利用者は受け皿を失っています。


地域の住民やボランティアの力に依存する発想は、現実からずれていると言わざるを得ません。介護職の仕事を地域の善意に置き換えることには、どうしても限界があります。要介護1・2の高齢者にはより専門的な対応が必要で、これをさらに縮小させたら介護離職も急増するでしょう。

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  −− 増大する給付費を賄う財源は、どのように確保すればいいのでしょうか?


現行で概ね5割の公費を拡大すべきです。現役世代が保険料の負担に苦しんでいること、高齢者の生活に余裕がないことなどを踏まえると、それが最良の道ではないでしょうか。制度の理念を守り、サービスを維持するための追加的な財源の手当てを求めます。


最近、介護保険の持続可能性を高めるために、公費の投入をさらに拡大すべきという声が少しずつ増えてきました。これは重要な動きだと受け止めています。


この流れを一時的なものとせず、国民的な議論へとさらに大きく育てていきたいです。必要な費用を社会全体で支える。介護保険の原点に立ち返り、制度を将来世代へ引き継ぐための判断をすべきではないでしょうか。


私たちは近く、利用者負担の安易な引き上げなど給付の縮小に反対する署名活動を始めます。前回は10万超の賛同が集まりました。ぜひ力を貸してください。これからも、利用者・家族の切実な声を社会に届け、共に考え、共に支える輪を広げていきたいと思っています。


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