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2025年12月5日

【結城康博】厚労省の迷走ぶりが心配… 介護の利用者負担引上げ案は現場を混乱させるだけ

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《 淑徳大学総合福祉学部 結城康博教授 》

今月1日の審議会(社会保障審議会・介護保険部会)で、厚生労働省は介護サービスの利用者負担を引き上げる場合の所得基準の4案を提示した。2割負担の対象者を、現行の単身世帯で「年収280万円以上」から、最大で「年収230万円以上」へ拡大してはどうかという。【結城康博】

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あわせて、利用者の新たな負担増を当面の間は月7千円に抑える「配慮措置」も提案した。この「配慮措置」については、自己申告制で金融資産が少ない利用者を1割負担に戻す選択肢も検討していくそうだ。


厚労省は迷走しているのではないか。正直、私はいずれも非効率な案だと感じる。


◆ 覚悟がない厚労省案


はじめに述べておくが、私は2割負担の対象者の拡大には反対だ。現状を維持すべきと主張し続けている。高齢者の家計を考えれば、非常に厳しい結果を招くと言わざるを得ないためだ。


もちろん財政当局は違う。一貫して「原則2割負担に」などと提言し続けている。これに反対する世論も強まっておらず、現状、高齢者に負担増を求める声は少なくないと言えるのではないだろうか。


このため私は、厚労省から非常に厳しい案が提示されるのではないかと心配していたのだが、蓋を開けてみればそうではなかった。まだ最終的に決まってはいないものの、何とも中途半端な案が出てきたことに驚愕している。


実際、給付費を抑制する効果を十分に考えるのであれば、後期高齢者医療制度と同様に「年収200万円以上」まで拡大する案が妥当であろう。それくらい拡大しなければ、財政効果の観点で、批判を浴びながらあえて負担増を求める意味がない。


厚労省の資料によると、仮に「年収230万円以上」に拡大したとしても、「配慮措置」の影響も加味した財政効果は、年間でわずか210億円〜220億円(推計)しか生じないという。


正直、給付費の抑制がこれしか期待できないのであれば、この案は割に合わないのではないだろうか。介護現場のシャドーコストや世論の反発を考えると、実施を回避すべきと言わざるを得ない。

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◆ 金融資産の勘案は失策となる


まして、金融資産などを勘案する「配慮措置」の選択肢は、本当に実施すれば「失策」以外の何物でもない。これは、介護施設の「補足給付」の仕組みを参考に、利用者の自己申告制で預貯金などが少なければ1割負担へ戻す仕組みだ。


私は約10年前、審議会の委員として「補足給付」をめぐる議論に関わった経緯がある。当時は賛否両論が渦巻く中、あくまでも対象者が限定的であることなどを理由に、金融資産を勘案することで決着したと記憶している。


だが、今回のように1割負担か2割負担かの線引きを判断するためにこの仕組みを導入すると、意味合いは全く異なってくる。対象者は非常に多く、介護保険制度の公正性・平等性が著しく損なわれてしまうのではないだろうか。

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◆ 迷走せずに行政学の全うを!


利用者の自己負担をどうするか、最終的には今の自維政権による政治決着に委ねられるであろう。ただ厚労省には、議論のたたき台を提起する行政責任者としての気概をみせてほしい。厚労省の官僚も、一線の行政マンとしての自負はあると思うからである。


繰り返すが、私は2割負担の対象者の拡大には反対だ。ただし、政策立案者は「やるならやる!」、あるいは「やらないならやらない!」が基本姿勢ではないか。もっと正面から分かりやすい見直し案を示すべきだ。中途半端な改正は財政的な非効率を招くほか、何より現場の負担・不満を一段と大きくする結果を招いてしまう。


今の状況を総合的に考えて、利用者の自己負担を引き上げるべきか否か。決着の時期は近い。介護現場の関係者もぜひ、様々な問題点を主張するなど積極的に声をあげてほしい。


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