2023年9月21日

今年は「難病ケアマネジメント元年」 重層支援が求められる“究極のケアマネジメント”を学ぼう=石山麗子

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《 国際医療福祉大学大学院・石山麗子教授 》

介護支援専門員の法定研修のカリキュラムが来年度から新しくなります。【石山麗子】

厚生労働省が示したカリキュラム見直しのポイントは、以下の3点です。このうち3点目、地域共生社会の実現に向けた他法・他制度、世帯全体を含めた支援に関する学習には、「難病ケアマネジメント」が含まれます。

= 介護支援専門員法定研修の見直しのポイント =

(1)高齢者の生活課題の要因などを踏まえた支援の実施に必要な知識や実践上の留意点を継続的に学べるよう、適切なケアマネジメント手法の考え方を科目類型として追加

(2)権利擁護や意思決定支援など、職業倫理についての視点の強化

(3)地域共生社会の実現に向け、介護保険以外の領域も含めて、制度・政策、社会資源などについての近年の動向(地域包括ケアシステム、認知症施策大綱、仕事と介護の両立、ヤングケアラー、科学的介護(LIFE)、意思決定支援など)を踏まえた見直し。

実は「難病ケアマネジメントを法定研修に組み込むべき」いう提案を、2013年度のカリキュラム改定の際に行いました。しかし、当時はより多くの要介護者に対応できる学習内容が優先され、希少性疾患である難病に対応する科目の導入は見送られました。


65歳未満でも介護サービスを利用できる16の「特定疾病」のうち、指定難病に規定されているのは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症など7つあり、半数近くを占めています。このように介護保険制度は、難病の方の利用も前提としているわけですから、ケアマネジャーには当然、難病を理解したケアマネジメントの実践が求められます。


ところが、厚生労働省の難病研究班(※1)の調査結果(※2)では、全国のケアマネジャーの92.5%が難病の研修・教育が必要であると回答している一方で、毎年研修を開催している都道府県は1県だけ、ということが明らかになりました。ケアマネジャーが担当する難病利用者の疾患は、多い順にパーキンソン病、ALSとなっています。


例えば、進行性の神経筋疾患の場合には、病状の進行に伴い、いつ生じるかわからない身体の状態変化に対応すること、心理的サポート、医療的ケア、家族支援などが必要です。ケアマネジャーのうち、難病ケアマネジメントの難しさを感じる人は決して少なくありません。


また、想定されるサービスの範囲は、介護保険だけでなく障害福祉、就労支援、災害時を想定した準備、家族支援など幅広く、多くの制度を横断するものとなります。24時間介護が必要になると、訪問介護だけでいくつもの事業所をつなぎ合わせていくなど、ケアプラン作成やチームマネジメントは複雑で高度になります。


もし、家族に18歳未満のお子さんがいて、親の介護などを担っているとしたら、ヤングケアラーへの配慮も求められます。難病ケアマネジメントはまさに、重層的支援が求められる「究極のケアマネジメント」です。

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これまでは法定研修に組み込まれていませんでしたので、基礎知識を学ぶ機会もないまま、ケアマネジャーは実践を通じ、苦労しながら経験知を積み重ねる必要がありました。このような難病ケアマネジメントをめぐる実態が、厚労省の難病研究班により明らかにされています。


法定研修のカリキュラムを検討する国の会議でも、こうした実態を踏まえて難病ケアマネジメントを学ぶ必要性が認められました。来年度から新たに始まる法定研修に、「地域共生社会の実現に向け、介護保険以外の領域も含めて」行うケアマネジメントの1つとして、難病ケアマネジメントが組み込まれることになっています。


最初の提案から、実に10年の歳月が流れていました。厚生労働省の難病研究班は、法定研修の改定を前に「難病ケアマネジメント元年」と題したセミナーを開催する予定です



※1.研究代表者 小森哲夫 令和2年度~3年度、及び令和4年度~5年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金(難治性疾患政策研究事業)「難病患者の総合的地域支援体制に関する研究」班


※2.石山麗子 原口道子 難病ケアマネジメントにおける居宅介護支援事業所の介護支援専門員の業務に関する実態調査


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