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2023年11月13日

【山口宰】介護人材確保のために賃上げとセットですべきこと

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《 社会福祉法人光朔会オリンピア・山口宰常務理事 》

介護サービス事業所の増加や生産年齢人口の減少によって、人材不足がますます深刻化している介護業界 − 。このたび政府の新たな経済対策で、介護職の賃金を平均で月6000円引き上げる方針が決定されたことを受け、介護職の処遇に関する議論が高まっています。そこで今回は、モチベーションに関する研究をもとに、効果的な処遇改善のあり方について考えてみたいと思います。【山口宰】

◆ 介護の仕事を辞める理由


介護労働安定センターの調査結果によると、「労働条件の悩み、不安、不満等」の項目では、「人手が足りない」(52.1%)に次いで「仕事内容のわりに賃金が低い」(41.4%)との回答が多くなっています。


しかし、「直前の介護関係の仕事をやめた理由」としては、「職場の人間関係に問題があったため」(27.5%)、「法人や施設・事業所の理念や運営の在り方に不満があったため」(22.8%)、「他に良い仕事・職場があったため」(19.0%)が上位を占めていて、「収入が少なかったため」(18.6%)、「自分の将来の見込みが立たなかったため」(18.0%)という回答はそれらの次となっています。


また、「直前職の仕事内容」は「介護関係の仕事」(38.7%)が最も高く、「介護・福祉・医療関係以外の仕事」(31.0%)を上回っています。


これらのことから、「賃金の低さ」を感じながらも、人間関係が良好で、共感できる理念・運営の施設や事業所においては、介護士のみなさんが仕事を続けている様子を見て取ることができます。


もちろん、賃金が上昇している他産業への人材流出を防いだり、逆に他産業からの流入を呼び込んだりするために、賃金を上げることは不可欠です。しかし、賃上げの議論にばかり気を取られて、職場の人間関係や事業所の理念・運営などその他の要素から目を背けてしまうと、人材不足の問題を解決することはできません。

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◆ ハーズバーグの二要因理論


このような議論を行ううえで参考になるのが、アメリカの臨床心理学者、F.ハーズバーグの提唱したモチベーション理論、「二要因理論」です。


1959年、ハーズバーグは、203人のエンジニアと会計担当者に対して、「仕事上どんなことによって幸福や満足を感じたか」「どんなことによって不幸や不満を感じたか」という調査を行いました。その結果、ある特定の要因が仕事の満足感や不満につながっているのではなく、満足を生み出す要因と、不満を生み出す要因はまったく別のものであるということが明らかになりました。


そしてハーズバーグは、満足をもたらす要因を「動機づけ要因」、不満足をもたらす要因を「衛生要因」と名づけ、下記のように分類しました。

【動機づけ要因】
「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進」「成長」など


・満たされると満足感がもたらされ、モチベーションの向上につながるが、満たされなくても不満は生じない。


・仕事そのものから生まれる満足感をもたらし、より高い業績へと動機づける要因となる。


【衛生要因】
「会社の方針と管理」「監督」「監督者との関係」「労働条件」「給与」「同僚との関係」「個人生活」など


・これらが不十分であると不満足を引き起こすが、改善されても満足感やモチベーションの向上にはつながらない。


・人間の職場環境に関するものであり、仕事の不満を予防する働きを持つ。

◆ 二要因理論を介護現場に生かすには


この二要因理論に基づくと、「動機づけ要因」と「衛生要因」の状態によって、4つの組み合わせが考えられます。

【動機づけ要因:高+衛生要因:高】


・従業員のモチベーションが高く、不満が少ない理想的な状態。


【動機づけ要因:低+衛生要因:高】


・従業員の不満は少ないが、モチベーションは高くない。仕事を給料としか見ていない。


【動機づけ要因:高+衛生要因:低】


・従業員のモチベーションは高いが、不満が多い。仕事はエキサイティングでやりがいがあるが、給与や労働条件が水準に達していない状況。


【動機づけ要因:低+衛生要因:低】


・従業員のモチベーションが低く、不満が多い最悪の状況。

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ハーズバーグは、従業員の満足度を高めるためには、まず「衛生要因」によってもたらされる、仕事への不満を解消することが重要だと指摘しています。施設や事業所が今どのような状況に置かれているのかを適切に把握していなければ、せっかくコストをかけて対策を講じても効果が薄れてしまう可能性があります。


また、「二要因理論」には、文化による影響が存在することも指摘されています。日本で実施された研究によると、「衛生要因」が組み合わさったときに給与が大きな影響をもたらすことや、同僚との非公式な対人関係が「動機づけ要因」として働いていることなども明らかになっています。


今後予定されている処遇改善をより効果的なものにするために、賃金を引き上げるだけではなく、他の「衛生要因」を取り除いた上で、「動機づけ要因」を充実させていくことが求められると言えるでしょう。


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