2024年1月30日

訪問介護の基本報酬引き下げ ヘルパー協会・境野会長が憤慨 「悔しくて切ない。我々はもう不要なの?」

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《 日本ホームヘルパー協会・境野みね子会長 》

来年度の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられることについて、日本ホームヘルパー協会の境野みね子会長に受け止めを聞いた。【Joint編集部】

境野会長はインタビューの中で、基本報酬の引き下げが明らかになった時のことを、「唖然とした。頭が真っ白になって声が出なかった」と振り返った。


続けて、「経営状態が悪化し、持ちこたえられない事業所が増えるのではないか。憤慨している。あまりに酷い」と怒りをあらわにした。また、次のようにやるせない胸中を吐露した。


「国の考えていることが分からない。地域で高齢者を支える訪問介護事業所を潰そうとしているのかな…。我々はいらないと言われているのかな…。悔しいし切ない」


直近の「経営実態調査」で訪問介護の利益率が高かった(*)ことについては、「集合住宅に併設されている事業所とそうでない地域の事業所とでは、運営モデルが全く違う。経営状態をもっとはっきり分けて見るべき」と問題を提起。「実態をよりきめ細かく把握できるよう、国にはデータの取り方、その分析の仕方を改めて考え直してほしい」と主張した。インタビュー要旨は下記の通り。

* 厚労省が昨年11月に公表した「経営実態調査」の結果によると、訪問介護の利益率は7.8%。全サービス平均の2.4%を大きく上回っていた。また、同一建物減算を算定している事業所とそうでない事業所とを分けて訪問介護の利益率をみると、算定ありが9.9%、算定なしが6.7%となっている。

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日本ホームヘルパー協会・境野みね子会長インタビュー要旨


◆「不信感を強くした」

《 日本ホームヘルパー協会・境野みね子会長 》

最初に基本報酬の引き下げを知った時は、とにかく唖然としました。頭が真っ白になって声が出なかったです。


昨今の物価高騰や他産業の賃上げの進展などで、訪問介護の経営環境は一段と厳しくなっています。その中で、まさかの基本報酬の引き下げ…。追い打ちをかけるような判断です。


今後、経営が悪化して持ちこたえられない事業者が更に増えるのではないでしょうか。小規模なところは特に苦しいと思います。


今の受け止めを表現するとすれば、やはり「怒り」でしょうか。我々は憤慨しています。日本ホームヘルパー協会の会員様からも、強い抗議の声が非常に多く寄せられています。


高齢者をできるだけ長く在宅で支えていく − 。これが国の方針だったはずです。であれば、訪問介護をもっと手厚くサポートしなければいけません。あまりに酷く、本当に悔しいです。


私には国の考えていることがよく分かりません。地域で高齢者を支える訪問介護事業所を潰そうとしているのかな…。我々はいらないと言われているのかな…。そんな不信感を強くしました。


在宅介護を懸命に支えている人の意欲をくじく改定ではないでしょうか。やりきれず、切ないです。これではみんなの心が荒んでしまいます。

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◆「小規模事業所の支援が必要」


国の「経営実態調査」の結果で訪問介護の利益率が高かったそうですが、本当に事業者の実情を捉えきれているのでしょうか。


集合住宅に併設されている事業所とそうでない地域の事業所とでは、運営モデルが全く異なります。経営状態をもっとはっきり分けてみるべきです。実態をよりきめ細かく把握できるよう、国にはデータの取り方、その分析の仕方を改めて考え直して頂きたい。


例えばサービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホームなどにサービスを提供する事業所は、移動時間が短くロスはほとんどありません。こうした事業所と、30分以上の移動時間をかけて地域の個々のご自宅へ訪問する純然たる訪問介護とを区別して、それぞれの経営状況をしっかり把握する調査が必要ではないでしょうか。


地域の事業者の経営が厳しくなれば、要支援者や生活援助、困難事例などを受け入れるところが更に減るでしょう。やむにやまれず高い単位数のサービスを優先せざるを得ない、という事業所が増えるのは好ましくないはずです。


通所介護の基本報酬は、スケールメリットなどを考慮して小規模な事業所ほど高くなる設計になっています。同様の考え方は、訪問介護にも必要ではないでしょうか。地域の小規模な事業所の支援策が不可欠だと考えています。

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◆ 加算を拡充すると言っても…


処遇改善加算の一本化・拡充でホームヘルパーの賃上げは実現される − 。国は審議会などでそう説明しています。


ただ、そもそも事業所の経営自体が非常に厳しいのが現実です。職員のために、研修会のために、職場環境改善のために色々とお金を使いたいのに、我慢に我慢を重ねながら運営しているところが沢山あります。基本報酬が下がれば、賃上げ以外の処遇改善を進める余裕は更になくなってしまうでしょう。


加えて、処遇改善加算で上積みする前の基本給を下げざるを得ない事業所も出てくるでしょう。今の深刻なヘルパー不足が緩和へ向かうような賃上げが実現されるとは、とても思えません。


確かに処遇改善加算の一本化・拡充は評価できますが、それは基本報酬を下げる理由になりません。なぜ、せっかくの加算拡充の効果を減らす手をセットにするのか…。理解に苦しみます。


最後に改めて強調させて頂きます。在宅の高齢者が尊厳を持って暮らしていくために、訪問介護は絶対に欠かせない極めて重要なサービスです。我々は今後も、プロとしての誇りを持ってこの素晴らしい仕事を続けてまいります。


ぜひ皆様も、今回の報酬改定にめげずに仕事を続けて頂きたい。そして、みんなで一緒に基本報酬の引き上げが必要、更なる処遇改善が必要と強く訴えていきましょう。


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