2024年2月21日

訪問介護の報酬引き下げ|やさしい手・香取氏「まるで優越的地位の濫用。要求が増えて対価は下がる」

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《 株式会社やさしい手・香取幹代表取締役社長 》

「本当はもっと、若い人にとって働きやすい環境の整備や生産性を高めるシステムの構築などに投資したかった。でもそれも困難になった」


株式会社やさしい手の香取幹代表取締役社長はこう話し、うつむいて唇をかんだ。訪問介護の基本報酬が引き下げられたことについて、インタビューに応じて考えを明らかにした。【Joint編集部】

「訪問介護の業界に多大な影響が出るだろう。事業所の収入が大きく減り、経営はより厳しくなる。行き詰まるところが増え、地域のサービス提供量が更に低下する傾向があらわれるのではないか」と指摘。「場合によっては深刻な社会問題として顕在化する可能性もある」と懸念を示した。


続けて、「加算などで一定の賃上げを実現しても、事業所の経営体力が弱まればトータルの処遇改善は進まない。事業所という基盤が失われ、処遇改善の対象となる介護人材も消失していく」と問題を提起。「事業者の苦しむ姿は、介護保険制度の下で働くことへの不安を強める。他分野へ移ろうと思う職員が増えてしまう」とも述べた。


また香取氏は、介護保険の業界の構図を「国が発注者、保険者が元請け、事業者が孫請けのよう」と例えた。そのうえで、次のように不満をあらわにした。


「発注者の要求、現場の仕事はどんどん増えるが、報酬はどんどん下がっていく。一般的な取り引きで価格交渉をする場合、発注者は費用の低減に向けた条件の緩和など運用方法の簡素化もセットで提案する。介護保険にはそうした配慮がないのではないか。まるで優越的地位の濫用だ。国は好ましくない状況を自ら作り、しかもそれに気付いていない」

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株式会社やさしい手・香取幹代表取締役社長インタビュー要旨

《 株式会社やさしい手・香取幹代表取締役社長 》

◆「大きなショックを受けた」


全体としてプラス改定になったので安心していましたが、最初に基本報酬の引き下げを知った時は大きなショックを受けました。とても残念に思いました。


事業所にとっては大幅な減収となります。おのずと経営はより厳しくなっていくでしょう。


訪問介護の業界に多大な影響が出ると考えます。行き詰まる事業所が増え、地域のサービス提供量が更に低下する傾向があらわれるのではないでしょうか。場合によっては深刻な社会問題として顕在化する可能性もあります。


加算の拡充などで一定の賃上げを実現しても、事業所の経営体力が弱まればトータルの処遇改善は進みません。事業者の苦しむ姿は、介護保険制度の下で働くことへの不安を強めます。違う分野へ移ろうと思う職員も増えてしまうでしょう。そもそも、事業所が存続できなければ働く場所さえ失われ、処遇改善の対象となる介護人材が消失していきます。

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◆「報酬は減らされる一方」


とりわけ、若い方々の制度への信頼はより低下すると言わざるを得ません。中長期的に報酬が一向に増えない、または下がっていく業界に将来性を見出だせる人がいるでしょうか。これからもっと若い方々に魅力を感じてもらわなければならないはずですが…。これでは人材難を解消していけません。


介護業界は国が発注者、保険者が元請け、事業者が孫請けという構図です。国はその地位を使い、我々がやらなければならないこと、サービス運営の必須条件などをどんどん増やしてきました。事業者・介護職員は常にこうあらねばならぬ、という教育を行ってきました。


いままでそれに対し、我々を含む多くの現場の関係者は極めて真面目に応えてきました。取り組みの意義、重要性は理解しているつもりです。しかし、報酬はどんどん減らされていきます。職員の社会的な地位、評価も全く上がりません。


一般的な取り引きで価格交渉をする場合、発注者は費用の低減に向けた条件の緩和やICTの活用といった運用方法の簡素化もセットで提案します。しかし、介護保険では運営基準の緩和やサービス提供方法の見直しといった配慮はなく、テクノロジーも導入せずに価格(介護報酬)を下げてしまいます。


これはまるで優越的地位の濫用です。国は好ましくない状況を自ら作り、しかもそれに気付いていないようです。事業者・職員の「割に合わない」という声は、これから更に強くなっていくでしょう。ここに人材不足の大きな要因の1つがあると思います。

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◆「規制緩和が頼みの綱」


本当はもっと、若い人にとって働きやすい環境の整備や生産性を高めるシステムの構築などに、より多く投資をしていきたいと考えていました。でもそれも困難になりました。


とはいえ、我々は投げ出さず前向きに取り組んでいかなければなりません。持てるリソースを使って、ICTの導入・利活用に引き続き最大限の努力をしていこうと考えています。


ICTをうまく使うことで、長期的に全体のコストの低下や職員の負担軽減を進めることができます。ただ、若い方々が納得してくれるようなスマートなクラウド環境などを構築するためには、やはり多大な費用がかかります。一般的な訪問介護の事業所がそれを実現し、採算を合わせるのは難しいでしょう。


今回の介護報酬改定で良かった点としては、管理者の兼務範囲の拡大やテレワークの容認といった運営基準の見直しがあげられます。


今は規制緩和が頼みの綱です。まだ詳細は明らかにされていませんが、国にはぜひ思い切った判断をして頂きたい。


我々は現在、管理者の兼務やテレワークなどでより効率的な体制を作る検討を進めています。もしそれが実現しなければ、一段と厳しい状況に陥ることになりかねません。紙をベースとした手続きの撤廃など、事務負担の軽減に向けた更なる規制緩和にも大いに期待しています。


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