2024年3月21日

デイ協会・森理事長、通所介護の報酬改定は「嵐の前の静けさ。3つの視点で大波に備えよ」

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《 日本デイサービス協会・森剛士理事長 》

来年度の介護報酬改定をめぐっては、訪問介護の基本報酬の引き下げが強烈なショックを与えた。その波紋は業界の中だけにとどまらず広がっている。【Joint編集部】

一方、通所介護の議論は今のところそれほど盛り上がっていない。「今回は小幅な改定だ」。こう評する関係者も少なくない。本当にそうなのか、日本デイサービス協会の森剛士理事長に尋ねた。


森理事長は基本報酬の見直しに言及。「介護施設などに原資の配分が偏っている。必死の経営努力の成果を、『施設ほど大変ではない』と判断されたと感じる」と不満をあらわにした。


そのうえで、「通所介護も物価高騰、他産業の賃上げなどの影響を強く受けており、経営環境は極めて厳しい。このままいけば存続できなくなる事業所が急速に増えていく」と危機感を強めた。


報酬改定の具体策については、「さほど大きな変化はなかった。嵐の前の静けさだ。大波は必ず来る。今後、我々は5年、10年のうちにドラスティックな改革に直面することになる」との見解を表明。「カギは生産性向上、自立支援・重度化防止、リスクマネジメントだ。利用者・家族に支持され、選ばれる事業所を作らなければいけない。国に問題を提起することは大切だが、それだけしかしない事業者は決して生き残れない」と語った。


インタビュー要旨は下記の通り。

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日本デイサービス協会・森剛士理事長インタビュー要旨


◆ 原資の配分に「勘ぐってしまう」


基本報酬の見直しにはもちろん不満を持っています。何か政治的な力が働いているのかな、と勘ぐってしまうほど介護施設などに原資の配分が偏っています。ここまで差をつけられるのか、という徒労感も湧いてきました。


国の経営実態調査には、個々の経営者の能力が十分に反映されていません。必死の経営努力の成果なのに、「通所介護は施設ほど大変ではない」と評価されたと虚しく感じます。


通所介護も物価高騰、他産業の賃上げなどの影響を強く受けており、経営環境は極めて厳しいです。今回の基本報酬の引き上げ、処遇改善加算の拡充は、やはり不十分と言わざるを得ません。このままいけば、存続できなくなる事業所が急速に増えていくでしょう。


◆「業界の構図も変動する」


とはいえ、決定された以上は切り替えるしかありません。重要なのは常にどうプラスに捉えるかです。


今回の具体策をみましたが、通所介護にとってさほど大きな変化とは言えませんよね。この先、全体で1.5%を超える介護報酬の引き上げなんてなかなかないでしょうし、そういう意味では平和な改定と言えるのかもしれません。


これは嵐の前の静けさです。国は既に多くの伏線というか、メッセージを発しています。財務省が繰り返し警鐘を鳴らしているように、社会保障の財政や現役世代の負担増などの問題も決して軽視できません。大波は必ず来ます。


今後、我々は5年、10年のうちにドラスティックな改革に直面することになるはずです。業界の構図にも、事業者の大規模化などよりダイナミックな変動が生じるでしょう。市場が成熟していけば、多数乱立の事業者が集約されていくのは当然の流れです。その中で競争に勝つか負けるか、という単純な話だと認識しています。

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◆ 通所経営の3つのキーワード


これを言うと元も子もないかもしれませんが、私は目の前の報酬改定の内容にそこまで注目していません。5年先、10年先はどうなっていくのか − 。より大局的な視点からの経営を心がけています。


今後のデイサービス運営のカギは3つだと考えます。生産性向上、自立支援・重度化防止、リスクマネジメントです。


自立支援・重度化防止は、高齢者がしっかり元気になっているかというアウトカムが更に重要になるでしょう。そのためには一定のリスクテイクが必要ですが、現場で事故が増えていたら話になりません。より安全に、しかも効率的な体制で成果を出すことが求められていきます。


何よりも、利用者・家族に支持され、選ばれる事業所にならなければいけません。例えば医療の場合、患者さんはより良い病院、手術のうまい先生などを探しますよね。


今後、通所介護も自立支援・重度化防止の力、スマートなサービス提供体制などをみられるようになるでしょう。それは国が求めることでもあります。レスパイト機能は発揮して当たり前で、問われるのはその先のサービスの品質です。純粋な市場原理で淘汰される事業所も、これから更に増えるでしょう。

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◆ 訪問介護の報酬減の意味


私は訪問介護の基本報酬の引き下げにも、何か重要な意味があると捉えるようにしています。その判断を支持するわけではありませんが、業界は更なる変革を促されていると受け取りました。


今後の財政、高齢者の急増、働く世代の急減などを考慮したうえで、“介護現場は今のままではいけない”という問題意識がベースにあると思います。それは私も同意見です。できるだけ持続可能性の高い制度、体制を作る努力を重ねなければいけません。


今回はプラス改定で、処遇改善加算も一本化・拡充されて、なんとか無事でよかった − 。


こんな風に終わってしまえば、業界はいつまでたっても変わりません。状況はそこまで甘くないはずで、国は何か変革を促す手を打ってくると思っていました。それが訪問介護の基本報酬で本当に良かったのか、は私も疑問なのですが…。

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◆「向こう3年間が勝負」


重要なのは、通所介護を含む他のサービスも変革を促されている点は同じだ、ということです。今後、我々は死にものぐるいで経営の質、サービスの質を磨かないといけません。そうでなければ、存在価値すら問う厳しい目を社会から向けられるようになりかねません。


大きな変化がない向こう3年間が勝負。繰り返しになりますが、私は生産性向上、自立支援・重度化防止、リスクマネジメントがカギだと考えます。人材不足は確かに深刻ですが、事業者は経営力を高めることに全力を傾けるしかありません。人材確保も経営力の1つで、既に事業の成否をかけた競争が激化しています。


もちろん、国に問題を提起するのは大切なことですが、それだけの事業者は決して生き残れないでしょう。他力本願ではなく、まずは自分たちがどう道を切り開くのか。利用者から支持され、地域から、社会から存在価値を認められる事業所を作ることが最優先です。国の施策に過度に期待せず、市場原理でしっかり勝っていくという気概が欠かせません。


我々協会としても、デイサービスの存在価値を高める取り組みに引き続き注力していきます。通所介護の事業所が中心となって、自立支援・重度化防止のシステムがうまく機能している地域を増やしたいです。当然、必要な施策の提言なども続けていくつもりです。


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