2024年3月15日

【結城康博】小規模な訪問介護事業所に「加算を取れ」は酷 体制が弱く余裕がない

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《 淑徳大学総合福祉学部 結城康博教授 》

来年度の介護報酬改定をめぐり、訪問介護の基本報酬の引き下げが業界に大きな衝撃を与えている。【結城康博】

まさか訪問介護がこうなるとは…。他の介護分野の関係者からも驚きの声を聞く。


そもそも、経営実態調査の利益率が総じて良好だったとはいえ、厳しい状況の訪問介護事業所は多い。厚労省は「処遇改善加算」や「特定事業所加算」などの取得を促しているようだが、一部の事業所にとって上位区分の取得はかなり難しいのではないだろうか。


◆ ケアに追われながら事務も…


加算を取得すれば基本報酬の引き下げ分を挽回できる − 。いわば「頑張ったらご褒美をあげましょう」という方式は、小規模な訪問介護事業所にとって酷である。加算を実際に取得するためには、一定レベルの事務機能が必要となるためだ。

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一般的に、大手の事業所では専任の事務員が配置されるなど体制が整っている。しかし、地域密着の小規模な事業所の体制は非常に脆弱だ。


訪問介護事業所の従業員数をみると、19人以下が最も多く37.4%を占めている。こうした事業所は、ほとんど専任の事務員を配置できていない。経営者である所長などが、ケアに入りながら加算取得の煩雑な事務をこなすことが多い。中核の職員にも重い負担がかかり、上位区分の加算の取得はかなり大変だ。


例えば、新たな処遇改善加算の「加算I」「加算II」を取得するためには、非常に多くの「職場環境等要件」を満たさなければならない(区分ごとに2つ以上)。生産性向上の取り組みは最低3つ必要で、業務改善の体制構築や課題の見える化などは必須とされている。

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一定の経過措置、小規模な事業所への配慮もあるが、限られた人員体制で、利用者のケアに追われながら要件を満たすのは困難だ。実際、対応できないところは少なくないだろう。


テクノロジーの導入や研修の受講支援、労働環境の改善なども、事業所の基礎体力が低下すれば前に進まない。加算の要件の意義は分かるが、変わりに基本報酬を大幅に下げるのはやはり酷としか言いようがない。


◆ 集合住宅の事業所がより有利に


訪問介護事業所を大きく分けると、


(1)地域住民を対象に一軒一軒お宅を回る事業所


(2)サ高住など集合住宅の入居者を主に対象とする事業所


の2種類になる。

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当然、(2)の方が事務員の配置など基礎体力は盤石である。このような事業所は組織化されており、加算取得の対策も練っていくだろう。


一方、(1)の事業所には余裕がほとんどない。しかも、一般的に在宅介護を支えているのはこちらの事業所である。クリームスキミングをせず、地域で大活躍しているヘルパーも少なくない。


来年度の介護報酬改定では「同一建物減算」が強化され、新たに12%減算が創設された。しかし、より大幅な減算に踏み込むべきだったのではないだろうか。(2)の事業所には、いわゆる「囲い込み」の過剰サービスの問題もある。訪問介護の基本報酬を引き下げるより、そちらで給付費の抑制を図った方が良かったのではないだろうか。


このままでは集合住宅併設の事業所が生き残り、地域密着の事業所は減少していくだろう。今回の介護報酬改定では、これらをしっかり差別化した丁寧な施策を講じて欲しかった。


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