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2024年3月21日

【転換点】居宅介護支援の報酬改定、ケアマネ年収500万円も現実味 カギは生産性向上の経営マネジメント

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《 東洋大学 高野龍昭教授 》

1.増収のチャンスになり得る


新年度の介護報酬改定で、ケアマネジメント(居宅介護支援)の基本報酬はわずか1%弱というプラス改定にとどまりました。相変わらず処遇改善加算の対象サービスにも組み込まれないということを含め、現場からは落胆の声も聞かれます。【高野龍昭】


しかし、今回の改定に込められた「政府のメッセージ」を読み取ったうえで一定の対応を取れば、居宅介護支援は大幅な増収のチャンスとなります。最近まで「万年赤字」と揶揄されてきたこの事業のターニング・ポイントとなるかもしれません。

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2.介護報酬改定の概要


(1)基本報酬の改定


居宅介護支援・介護予防支援の基本報酬は、介護報酬全体の改定率(+1.59%)と比較しても低水準にとどまり、このプラス幅では給与水準の改善すら難しいと考える事業者・実務者が多いかもしれません(図1)。


介護予防支援も、地域包括支援センターが実施する場合は同様に1%弱のプラス改定にとどまっています。


ただし、新年度からの制度改正によって、居宅介護支援事業所が介護予防支援事業の指定を受けることが可能となりますが、その際の基本報酬はやや高めに設定されます。現行の制度・報酬のもとで、地域包括支援センターから委託を受けて居宅介護支援事業所が介護予防支援を実施する場合、1件あたりの委託料の単価は3500円程度のケースが多いと思いますが、それと比較すると実質的には35%程度の大幅な引き上げとなります。

《 高野龍昭教授作成 》

(2)人員・運営基準、報酬の算定基準の改定


居宅介護支援・介護予防支援の運営基準や介護報酬の算定基準についても、いくつかの見直しが講じられます。最も重要なポイントは、介護支援専門員1人あたりの取り扱い件数の上限の見直しです(図2)。

《 高野龍昭教授作成 》

逓減制緩和を受けない居宅介護支援費(Ⅰ)を算定する場合、介護支援専門員1人あたりの取り扱い件数は、現行では「40件未満」ですが、改定後は「45件未満」に引き上げられます。


また、逓減制緩和を受ける居宅介護支援費(Ⅱ)を算定する場合は、現行の「45件未満」の取り扱い件数が、改定後は「50件未満」に引き上げられます。


同時に、逓減制緩和の要件も見直されます。現行では「ICT機器等の活用」もしくは「事務職員の配置」のいずれかを導入していることが要件ですが、改定後は「ケアプランデータ連携システムの導入」と「事務職員の配置」の両方を行っていることが要件となります。

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加えて、介護予防支援の利用者数の取り扱い件数は、現行では「要支援者2件を要介護者1件」(2分の1換算)として算定していますが、改定後には「要支援者3件を要介護者1件」(3分の1換算)と算定することになります。


これらの見直しについて、多くの介護支援専門員からは「こんなに多くの利用者を担当することはできない」「今でさえこんなに忙しいのに、これ以上は働けない」「ケアプランデータ連携システムは周囲の介護サービス事業所が導入してくれないので、逓減制緩和は要件を満たせない(記事後半に解釈説明)」という声があがっています。


確かに、多忙を極め、人手不足のケアマネジメントの現場にとっては、「今以上に多くの利用者を担当する」という対応は難しいと言ってよいのかも知れません。

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(3)事業収入の試算


では、こうした課題について、現実的な経営の観点から検討してみたいと思います。


まず、現行の報酬・運営基準による事業収入と改定後の事業収入について、介護支援専門員1人あたりの事業収入をそれぞれ試算し、比較してみます。


この試算の前提として、介護支援専門員1人あたりの取り扱い件数の上限まで担当することとします。そのうえで、要介護1〜2と要介護3〜4の利用者数は、全国の居宅介護支援の利用者の比率(およそ6:4)を想定し、要支援1〜2については、要介護者5件分を担当することとしています。また、各種の加算は組み入れず、1単位を10円で計算しています(図3・図4)。

《 高野龍昭教授作成 》
《 高野龍昭教授作成 》

現行のものと改定後のものを比較してみましょう(図5)。


現行・改定後ともに居宅介護支援費(Ⅰ)を算定し、介護支援専門員1人あたりの取り扱い件数の上限まで担当する場合には、1月あたりの事業収入は45万3180円から55万2480円へと9万9300円増え、増収率は21.9%となります。


現行・改定後ともに居宅介護支援費(Ⅱ)を算定する場合には、事業収入は51万3420円から61万3280円へと9万9860円増、増収率は19.4%となります。


現行で居宅介護支援費(Ⅰ)を算定している事業所が改定後に(II)を算定するケースでは、事業収入は45万3180円から61万3280円へと16万3280円も増え、増収率は35.3%となります。

《 高野龍昭教授作成 》

3.求められる生産性向上の経営感覚


(1)大幅な増収と給与改善が可能に


前述の試算は机上のものに過ぎません。しかし、各々の介護支援専門員が「取り扱い件数の上限まで担当する」ことを前提とすれば、今回の改定は30%以上の大幅な増収・増益の可能性を秘めているということになります。今回は特定事業所加算の改定率が+3%程度となっていますから、それと合わせれば更なる増収も見込めます。


(Ⅱ)の報酬を最大限算定できれば、介護支援専門員1人あたりの年間の事業収入は740万円程度が見込めます。居宅介護支援の人件費率は75%程度ですから、単純計算で「介護支援専門員年収500万円」の水準も達成可能となります。

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(2)生産性向上とサービスの質・労働条件の担保


しかし、現行の介護報酬体系のもとで居宅介護支援費(Ⅱ)を算定している(逓減制緩和を受ける)事業所は、約10%にとどまっています


この「逓減制緩和」の措置は、生産性向上を図る仕組みを事業所に求めていることに他なりません。この意味で、「生産性向上を図る居宅介護事業所」にインセンティブが導入されたと理解する必要があります。同時に、このことが「介護支援専門員の人材不足」の解決に向けた政策的メッセージだと受けとめる必要もあります。


なお、最新の解釈通知(リンクP71〜72)では、逓減制緩和の要件のひとつである「ケアプランデータ連携システムの導入」について、「システムの利用申請をして、クライアントソフトをインストールしていれば、この要件を満たす」「他の居宅サービス事業者とのデータ連携の実績は問わない」と示されています。このことは、逓減制緩和の「後押し」にもなります。


ただし、やみくもに介護支援専門員の取り扱い件数を増やそうとすれば、ケアマネジメントの質を低下させ、単に多忙化を強いるだけになりかねません。この意味では、居宅介護支援事業所に「経営マネジメント」を求めているということも、もうひとつの政策的メッセージと言って良いのではないでしょうか。


私の現場実践経験のなかでも、最近の居宅介護支援事業所・介護支援専門員や保険者へのヒアリング調査のなかでも、居宅介護支援事業所は、事業者・管理者のマネジメントの力量とガバナンスの仕組みに「弱み」があるケースが多いと実感しています。


「そろばん勘定」をしっかりとしながら、ケアマネジメントの質を落とさず、介護支援専門員が活き活きと働けるような環境を作る − 。


そんなしっかりとした経営マネジメントが求められているという点も、今回の改定の政策的メッセージだと言って良いでしょう。


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