【結城康博】介護報酬改定、毎年実施に転換を 3年に1度は時代錯誤 食事や処遇を守れない


介護関係10団体が8日に公表した調査結果で、昨今の物価高騰などが介護現場に深刻な影響を与えていることが明らかになった。介護施設の食事、さらに介護職の処遇は危機的な状況になっていると言わざるを得ない。【結城康博】
これまでのデフレ下では見えにくかった問題を、昨今のインフレが顕在化させた。そこで解決策として、介護施設の食費や介護職の処遇については介護報酬改定を毎年実施し、適正水準を常に保てるようにすることを提唱したい。
1.厳しい食材費の高騰
関係団体の調査結果によると、今年1月の介護施設の給食関係費は平均367万8000円で、一昨年の同じ時期と比べて34万2000円も増加していた。
介護施設では価格転嫁が難しい。例えば特養に入居する低所得者。経済状況に応じた負担限度額が設けられており、国が定める「基準額(1445円)」との差を補助(補足給付)で埋める形となっている。このため施設側は、給食コストが増えても自己負担を引き上げることはできない。国の「基準額」が上がらなければ、どうしても持ち出しが増えてしまう構造になっている。
全国老人福祉施設協議会による別の調査結果では、実際に特養の給食費の赤字が膨らんで「極めて厳しい状況」だと指摘されている。また、給食をアウトソーシングしている施設の多くが委託先から値上げ要求を受け、対応に苦慮している現状も報告されている。
2.看過できない食の質の低下
こうしたデータを踏まえ、私は、首都圏を中心に複数の特養やデイサービスなどの関係者にヒアリングを行った。
そこで聞かれたのが、昨今の物価高騰によって介護施設の食事が「かなり貧相になっている」という声だった。おかずや副菜などの品数が、以前より明らかに少なくなったという。
分かりやすいのが、正月、誕生会、節分といった季節食・イベント食だ。従来は少し豪華なメニューを出していたが、最近は日常とほぼ変わらない内容になったとのことだった。
デイサービスでも昼食、お茶菓子などが以前より貧相になっているという話を聞いた。食材費の高騰、人件費の上昇などを受けて、どの現場でも食費は切りつめるしかないのが実情だ。
もちろん、有料老人ホームなどを含めて自己負担の引き上げで対応している事業所は少なからずある。しかし、公的側面の強い介護保険サービスの事業者には、一部の高所得者を除いて価格転嫁は現実的に難しいというところが少なくない。
言うまでもなく食事は極めて重要だ。高齢者にとっても大きな楽しみの1つで、生活の質や自立支援・重度化防止の観点からも十分な内容が求められる。今、多くの現場でその維持が困難になりつつある。
3.他産業との給与格差も広がるばかり
この問題はもはや繰り返し説明するまでもない。
関係団体の今回の調査結果によると、今年度の賃上げ率の平均は正社員の介護職で2.15%。全産業平均(春闘)の5.37%を大きく下回っている。医療・介護・福祉以外の他産業への離職者も加速度的に増えている、というかなり深刻な状況も明らかにされた。
介護報酬は3年に1度しか改定されない。全産業の賃上げ傾向はもちろん良いことだが、この状況が続けば介護職はただ取り残されるだけだ。物価高騰のスピードにもついていけず、事業者はさらなる窮地に追い込まれてしまう。
さしあたり食費と介護職の処遇の部分だけでも構わない。物価や賃金などの動向に応じて、毎年1回の改定に改めるべきではないだろうか。例えば、物価高騰に備える基金などを制度に新たに設けることで、必要に応じて柔軟に支出できる仕組みを作るのはどうだろうか。より機動的に動けるようにしないと、インフレ下では現場が弱っていく一方ではないか。
とにかく早急な対応が欠かせない。デフレ経済から脱却した日本社会において、3年に1度の介護報酬改定のサイクルは時代錯誤と言わざるを得ない。