【天野尊明】介護改正、議論ようやく再開 政治劇で異例展開 軽度者外しやケアプラン有料化は安全圏か


9月末の社会保障審議会・介護保険部会で、ようやくにして、次の2027年度の介護保険制度改正に向けた議論が本格的に再開されました。【天野尊明】
「再開」というのはご存じの通り、今回もこれまでと同様に、以前からずっと棚上げにされてきた論点が改めて取り上げられたからです。
例えば、利用者の自己負担の引き上げ。3年前の改正議論でも、2割負担、3割負担の対象者の拡大が検討されましたが、大きな反対を受けて頓挫しています。
あわせて、介護関係者から非常に高い問題意識が示されてきたケアプランの有料化、軽度者外し(*)については、既に何年も議論が平行線を辿ったまま今日に至っています。
* 軽度者外し=要介護1、2の訪問介護と通所介護、特にホームヘルパーの生活援助を市町村の地域支援事業へ移管する案
これらのことについて、今年6月に閣議決定された政府の「骨太の方針」で、「今年末までに結論が得られるよう検討する」と明記されたことを踏まえ、再びこの議論が過熱しているというのが現状です。
介護保険制度の改正には法改正が必要な施策も含まれるため、厚生労働省は年明けから来年度末までの期間を、法案策定や国会審議、必要な準備などに使う計画です。これらに多くの時間を要するため、改正内容の結論は今年末までに得ようとしているわけです。
◆ 政治が弱りきった状況
ここで、過去の介護保険部会での議論を振り返ってみると、今回がいかに異例な状態かが分かります。
例えば前回(3年前)は、2022年3月に鞘当ての会合が開かれた後、5月には緩やかではありますが議論が開始されています。今回は、もちろん2040年や地域共生社会に関する会合は開かれてきたものの、前述した9月末がキックオフ。「ようやく」と書いたのはこのためで、年末まで3ヵ月しかありません。
これは多分に政治状況が関係していると考えられます。昨年来の与党の選挙戦における敗北、石破茂首相の退陣に想像以上の日数を要したこと、その後に自民党の総裁選がフルスペックで行われたことなどで、ある種の政治空白が生まれたことに起因すると言えるでしょう。
さて、このことがどう影響するかと言えばもう明確です。非常に高い可能性として、今回の改正議論で主眼となるのはせいぜい「利用者負担の引き上げ」まででしょう。これらについても、今の政治が弱りきった状況で国民負担を増やす方向に強く踏み込めるはずもなく、思い切った判断はかなりしにくいと考えられます。「ケアプランの有料化」や「軽度者外し」はほぼ見送りの安全圏にあるのではないでしょうか。
もちろん、だからと言って放っておいて良いという話ではまったくありません。我々は安全圏だからこそ、きちんと論理を組み立て、次回以降の真なる議論の本格化に向けた土台づくりをしておかなければなりません。
念のために申し上げておくと、財務省的な考え方をすればすべて優先順位の問題でしかなく、今回俎上に載っているどのテーマも「欲しい」「やりたい」ことに変わりはありません。押し負けて実現されてしまうようでは話になりませんし、そうはならずとも「さほど強い反対もなかった」ということになると、今後の逆風の下ごしらえをするようなものです。
個人的には、ケアマネジャーの成り手がいない状況、かつAIケアプランも思ったより深まらず、制度が複雑化して市民の理解も十分とは言えない状況で、今はケアプランを有料化する段階にはないと考えています。また、軽度者向けサービスを地域支援事業で受け止められるほど、自治体にも事業者にも余裕はないでしょう。そのあたりも、専門の業界団体や事業者、関係者、研究者らが打ち出す意見を収斂していく必要があります。
◆ 新しい政治の潮流に期待
さて最後に、10月4日に行われた自民党総裁選の結果が介護分野に及ぼす影響について触れておきたいと思います。
今回、高市早苗氏が大方の予想を覆して終始、小泉進次郎氏をはじめ他候補を圧倒して当選しました。まもなく開かれる国会で首班指名され、内閣総理大臣となる見通しです。
高市氏は総裁選の公約で、「介護事業者の倒産が過去最多となる中、地域医療・福祉の持続・安定に向けて、物価高・賃上げを反映して診療・介護報酬の見直しを前倒しで行う必要がある」との見解を示し、2027年度を待たずに報酬改定を行うことを検討する姿勢をみせました。
土壇場で総裁選の物語を大きく動かした麻生太郎氏が、財務省に近い立場からどれくらい影響力を及ぼすのかが注目されるところではありますが、少なくとも期中改定に向けた機運がさらに高まるきっかけになることは間違いないでしょう。
また、厚生労働関係では、いわゆる族議員の大物である田村憲久氏や後藤茂之氏らが林芳正氏の陣営に、加藤勝信氏は小泉氏の陣営に入っていました。そうした重鎮が高市政権においてどのような活動をするかは分かりませんが、これまでの路線に限らない新しい政治の潮流が、厚生労働分野に生まれる可能性にも期待したいところです。
いずれにしても私たちは、介護を取り巻く状況を正確に捉え、「ならばどうするのか」を考え実践していく以外にありません。まずは年末まで、介護業界全体でそうした動きを活発にしていきましょう。