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2025年12月2日

【小濱道博】介護現場の支援策、必要なのは「早い・手厚い・簡潔」な支援 複雑な要件は「申請の壁」になる

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《 小濱介護経営事務所|小濱道博代表 》

今回の補正予算案に盛り込まれた「医療・介護等支援パッケージ」は、現下の危機に対応するための緊急措置である。介護分野には総額で2721億円が割り当てられた。【小濱道博】

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その核となるのは、人材流出を防ぐための緊急的な給与対応であり、来年度に実施される介護報酬の臨時改定を待たずに、幅広い介護従事者(居宅介護支援や訪問看護なども含む)に対して月額1万円の賃上げ支援が実施される


さらに、生産性の向上や職場環境の改善などに取り組む事業所には、月額9千円相当の支援が上乗せされる。この上乗せ支援の要件では、ケアプランデータ連携システムの導入や「生産性向上推進体制加算」の取得なども求められる。


国は介護記録ソフト、見守り機器、インカムなど、業務効率化の効果が確認されているICT機器の導入費用について、国・都道府県が5分の4を負担する手厚い補助を用意しており、この流れを後押しする。


今回の賃上げ支援は、今年12月から来年5月までの半年間とされた。来年6月からは、介護報酬の「処遇改善加算」に引き継がれるだろう。今回、賃上げ支援の対象に含まれた居宅介護支援や訪問看護などは、そのまま処遇改善加算の対象に加えられる可能性が大きい。


今回の補正予算案にはこのほか、訪問介護や通所介護の移動のコスト、介護施設の食事提供のコストなどに焦点を当てた補助金の財源も盛り込まれた。加えて、地域の訪問介護や居宅介護支援の提供体制の確保に向けた補助金の財源も計上されている

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◆ 中小事業者を救済するための戦略的提言


今回の賃上げ支援がそうであるように、生産性向上へのインセンティブ設計は将来的に重要だ。しかし、目の前の経営危機に直面する小規模事業者にとっては厳しいと言わざるを得ない。


ICT導入補助の事業者負担や先行投資、複雑な手続きは、補助金を受けるための大きな「申請の壁」となり、支援が必要な事業者ほど申請を躊躇する要因となる。行政は、この構造的な問題を認識し、即座に以下の戦略的対応を講じるべきだ。


・申請事務の抜本的な簡素化の徹底
「制度ありき」ではなく「介護事業者の救済ありき」の観点に立ち、申請様式で自治体側があらかじめ記載できる項目を増やすなど、事業所の負担軽減を図るべきだ。


・小規模・危機的事業所への「二段階支援」の導入
まず、給与支援と経営継続のための基礎的な財政支援を無条件で提供することを優先すべきだ。そのうえで、経営が安定した段階で、ICT導入や「生産性向上推進体制加算」の取得など、段階的な取り組みを義務付け、そのための伴走支援を強化すべき。


・居宅サービスへの追加支援の検討
移動距離が長い訪問介護、通所介護、居宅介護支援などの事業所は、物価高騰の影響が特に大きい。このため自治体は、地方交付金を活用した燃料代への補助額の嵩上げなど、地域の実情に応じた追加の財政配慮を積極的に検討することが望まれる。

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◆ 経営統計の「盲点」:政策決定の根拠と現場のギャップ


さて、今回の補正予算案による施策の規模は本当に妥当なのか。深刻な経営危機に直面している現場の肌感覚と乖離している — 。多くの関係者がそう捉えているのではないだろうか。


こうした乖離の背景には、行政が政策判断の根拠とするエビデンスの限界が深く関わっていると考えられる。国が11月26日に公表した「経営概況調査」の結果で、全体として収支の極端な悪化が報告されていない(*)ことが、施策の規模を限定する論拠の1つとなっていることは否定できない。

* 昨年度決算の全サービス平均の収支差率は4.7%だった。

しかし、この「経営概況調査」は小規模なサンプル調査である。経営が危機的な状況に瀕し、廃業寸前の小規模事業者は、回答作成の事務負荷に耐えられず、統計から抜け落ちている可能性が極めて高い。これが、統計上の収支差率がそれなりに良く維持されているように見える「盲点」だ。


この「見えない危機」を補完するために導入されたはずの介護経営データベースは、現在もデータ公開どころか、長期にわたるメンテナンスが続いて機能不全に陥っている。このため、政策決定者が真に助けを必要とする事業者の実態をリアルタイムで把握することが妨げられている。


その結果、全体として「制度ありき」で体裁を整えることに施策の重点が置かれ、真に「介護事業者の救済ありき」という観点が欠落しているという強い懸念が残る。


介護サービスの安定的な提供は、地域インフラの維持そのものだ。行政には、統計の「盲点」に潜む真の危機に耳を傾け、中小・小規模事業者が来年度の報酬改定を無事に迎えられるよう、即座に、手厚く、そして簡潔な支援へ、施策を再構築することを求めたい。


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