【高瀬比左子】効率化の先に何を残すか 介護の未来を支える「働く人の居場所」
◆ 生産性向上の時代に、介護現場から「居場所」が消えていないか
新年度が始まる春は、介護の現場でも、少し特別な季節です。新しい出会いがある一方で、異動や配置換え、新人の受け入れ、業務の見直しなど、現場にはいつも以上に緊張感が流れます。【高瀬比左子】
そんな時期だからこそ、私は毎年あらためて考えたくなります。私たちはいま、どんな現場をつくろうとしているのだろう、と。
◆ 生産性向上が避けて通れない時代になった
介護の世界ではいま、人材確保、定着促進、生産性向上が同時に問われています。
人が足りないなかで、質を落とさず、どう持続可能な現場をつくるか。その問いに、介護現場は真正面から向き合う時代に入ったのだと思います。
ただ、ここで大切にしたいのは、「生産性向上」という言葉を、単なる効率化や時短だけで受け取らないことです。
厚労省のガイドラインでも、介護における生産性向上は「介護の価値を高めること」とされています。業務改善やテクノロジー活用によって生まれた時間を、利用者さんと向き合う時間や、より質の高いケアにつなげていくこと。それが本来の意味だと、私は受け止めています。
◆ 離職率は改善しても、採用はさらに難しくなっている
実際、現場は「辞める人が多い」だけでなく、「採れない」ことにも苦しんでいます。
介護労働安定センターの最新調査では、介護職員の離職率は12.4%と過去最低を更新しました。現場の努力が少しずつ実を結んでいることは、希望でもあります。
けれど同時に、採用率は14.3%と過去最低でした。辞めにくくなっても、新しく人が入ってこない。この厳しさは、いまの介護現場のリアルだと思います。
しかも、その差は事業所によって大きく分かれています。離職率10%未満の事業所が53.6%ある一方で、20%を超える事業所も24.1%あります。
つまり、介護の仕事そのものが一律に続けにくいのではなく、続けられる職場と、そうでない職場の差がはっきり出ているということです。だからこそ私は、制度や処遇だけでなく、職場の空気や関係性にもっと目を向けたいのです。
◆ 定着のカギは「人間関係」と「働き方の柔軟さ」
過去の調査結果を見ても、離職率の低下や定着促進の理由として上位に挙がるのは「人間関係」や「柔軟な働き方」です。現場の職員も、ハラスメントのない良好な関係性を重視しています。定着を支えるのは賃金だけでなく、人間関係の良さと働き方の柔軟さであることが裏付けられています。
私はこれまで、未来をつくるkaigoカフェの活動を通して、たくさんの介護職の方と話してきました。そこで何度も感じてきたのは、利用者さんとの関係以上に、職員同士の関係に悩んでいる人が少なくないということです。
忙しい。余裕がない。言いたいことが言えない。弱音を吐きにくい。そうした小さな息苦しさが積み重なると、人は仕事そのものではなく、「この場所に居続けること」に疲れてしまいます。
だから私は、介護現場に必要なのは、ただ人手を増やすことだけではなく、「ここにいていい」と思える居場所をどうつくるか、という視点ではないかと思っています。
◆「話せる職場」は、感覚ではなくマネジメントの課題
もちろん、居場所づくりは感覚論ではありません。1on1や定期ミーティングの実施、感謝や承認の文化づくり、安心して意見を言える心理的安全性の確保、役割分担の明確化、研修機会の整備などが、実務的な打ち手としては挙げられます。
仲良しであることが大事なのではなく、違和感や困りごとを持ち寄り、率直に話せる関係性があること。それが、結果として新人の定着や、チームの安定につながっていくのだと思います。
現場の人間関係というと、つい相性の問題にされがちです。でも本当は、話す機会をどうつくるか、誰が声を上げやすい空気をつくるか、情報共有をどう仕組みにするかという、れっきとした運営の課題でもあります。
介護の仕事は、正解がひとつではないからこそ、対話できることそのものが、現場を支える力になるのだと思います。
◆ AIやICTは「人の時間を取り戻す」ために使いたい
では、生産性向上のためのICTやAIは、どう位置づければいいのでしょうか。私は、それらを「人を減らす道具」ではなく、「人の時間を取り戻す道具」として使いたいと思っています。
厚労省も、計画書やサービス担当者会議の議事録などの原案作成に生成AIを活用することが、業務効率化に資すると示しています。現場で使える記録ソフトやAIの導入が進めば、書類や調整にかかっていた時間を減らし、その分を利用者さんとの対話や職員同士の振り返りに回せる可能性があります。
実際に、介護ニュースJointで紹介されていたシフト自動作成AIの事例では、以前3日ほどかかっていたシフト作成が、半日足らずで終えられるようになり、作業時間は3分の1以下に短縮されました。加算取得に必要な配置確認もしやすくなり、担当者の不安軽減にもつながったそうです。
こうした変化は、単に業務を減らすだけではありません。職員の負担を減らし、対立や属人化を抑え、現場に少し余白を取り戻すことにもつながります。
◆ 働く人の居場所から、介護の未来は始まる
その意味で、これからの介護現場に必要なのは、「効率化か、人か」という二者択一ではないのだと思います。
効率化を進めながら、人が安心して働ける土台も同時につくること。利用者さんの「その人らしさ」を支えるために、まず支える側がすり減りすぎないこと。
新年度のスタートにあたり、私はあらためて、そんな当たり前のようで難しいことを大事にしたいと思っています。
介護の未来は、数字だけではつくれません。もちろん、データを見ることも、制度を理解することも、現場改善を進めることも大切です。でも最後に現場を支えるのは、「ここにいていい」と思える実感なのではないでしょうか。
働く人が安心して言葉を交わせること。迷いや弱さを抱えたままでも、チームの一員でいられること。そんな居場所のある現場から、介護の未来は少しずつ育っていくのだと思います。









