2023年2月6日

【小濱道博】介護人材の不足、問題は低賃金だけじゃない 現場が考えるべき要因と対策

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《 小濱介護経営事務所:小濱道博代表 》

介護業界の慢性的な人材不足が加速している。【小濱道博】

介護を必要とする高齢者は増加していき、2040年には介護職員が69万人も不測すると見込まれる。地方に所在する介護施設では、職員の確保が絶望的な状況となり、やむを得ず、届出定員数を減らして確保できる職員数に合わせざるを得ないケースも出始めている。


先日お会いした特別養護老人ホームの事務長は、入所待ちの高齢者がゼロで、空床対策がままならないと話していた。厨房職員の確保ができず、2名の管理栄養士が厨房に入りっぱなしのため、栄養関係の加算が算定できない状態のところもある。


都市部でも人材確保は年々厳しさを増している。看護師などの専門職は、ハローワークや無料の求人サイトに登録しても応募が入ることはほとんど無い。

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結果、有料の求人オプションに頼らざるを得ない。その紹介料は、1人あたり数十万円から数百万円にも及ぶ。事業者にとってはかなり苦しいが、もはや人材確保は派遣や有料の求人サイトなどを通さないと難しい時代になっている。地方では、その活用すら厳しい環境にある。


人材不足は介護業界だけにとどまらない日本全体の問題だ。その根底にあるのが、出生率の低下であり労働人口の減少である。


年代別の人口は逆三角形で表される。年齢が下がるにつれて人口が減少していく。高齢者が定年などによってリタイアする一方、学校を卒業して仕事に就く若者は年々減っている。その結果、日本国内の労働人口は減少の一途となっており、改善の見込みが無い。

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◆ 教育研修やハラスメント対策にも力点を


介護職員は給与が安いというイメージがある。ただ、政府は処遇改善加算などを充実させてきており、これにより処遇環境は改善に向かいつつある。大手事業者の給与水準は、既に一般企業並みに改善されている。


それでも定着率が上昇しない理由は、業界の職員気質も一因であろう。人材不足による多忙を理由として、業務改善がなかなか進まない事業所が多い。福祉学校の卒業生を受け入れて、その翌日から現場に出してすぐ“一人前扱い”のところも未だにある。これでは、実務経験の無い新卒者は辞めてしまう。


一般企業は、新卒の社員を1年がかりでOJTなどで育成してから戦力とする。介護業界も同様であるべきだ。一時的な処遇改善で賃金を高くしても、その効果は一瞬で翌月からは既得権に変わる。必要以上に賃上げを行う余裕があるのであれば、その資金は教育研修に充てるべきだ。


職員のスキルがレベルアップすることで、事業所全体のケアの質が向上する。利用者満足度が高まり、これに比例して職員満足度も高まる。ひいては定着率の向上につながる。


介護職員が安心して働くことができるよう、ハラスメント対策など職場環境・労働環境の改善を図ることも必要である。2021年度の介護報酬改定では、全ての事業者に一定のハラスメント対策をとることが義務付けられた。利用者やその家族らのカスタマーハラスメントも重要な問題で、決して軽視すべきではない。これは介護職の離職の大きな要因となっている。

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◆ 中途半端なICT化では逆効果も


経営陣はもともと、現場の状況を常に細かく把握することが難しい。更に最近は、コロナ禍で感染対策に思考を注がざるを得ない“有事”が続いている。なかなか目が行き届かないのが実情ではないか。


一例として、ICT化が逆に職員の離職につながるケースがある。新たに導入した介護記録ソフトを、現場レベルで正しく活用できていない事業所も多く見かける。いまだに紙ベースで記録を作成し、その後で介護記録ソフトに手入力する“二度手間”のケースも少なくない。


介護記録ソフトは本来、こうした“二度手間”をタブレットなどで一段階で完結させる業務効率化の機器だ。ICT化は、実際に職員が「楽になった」「入れて良かった」と感じないと全く意味が無い。


こうした問題の原因は、事業所内に業務マニュアルなどが整備されていないことに行き着く。担当者の移動や退職で十分な引き継ぎがされず、後任者も正しい業務手順を把握できない状況に陥り、その手順が誤りであるという認識も無いまま時間が進んでしまう − 。そんなことも起こりがちだ。


組織内に潜在する問題は、運営指導(実地指導)などで指摘されない限りは表面化しない。このため、かなり恐ろしい状況となっている介護事業所が多く存在している可能性もある。これらは、職員にストレスと組織への不信感を与え、連鎖的な退職にもつながってしまう。


コロナ禍は、クラスターの発生など介護現場に多くの脅威を与えてきた。しかし、介護現場にとっての本当の脅威は、その裏側で内部体制が時間の経過とともに劣化していく、崩れていくことなのかもしれない。これらを踏まえて職員に選ばれる環境を作る事業者こそが、サービスの質を更に向上させ、介護事業をより発展させていく、今後の有力なプレイヤーとなるだろう。


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