2023年3月1日

【高野龍昭】LIFEを活用しない施設・事業所は取り残される 法案にみる介護データ活用の政府の“本気度”

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《 東洋大学 高野龍昭准教授 》

◆ 介護保険法改正案が国会へ


去る2月10日、政府から全世代型の社会保障制度の構築に向けた法案(全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案)が国会に提出されました。【高野龍昭】

これは、関連する11の法案を一括審議する「束ね法案」です。このひとつに介護保険法の改正案が含まれており、今国会での成立が見込まれています。


この介護保険法改正案は、社会保障審議会・介護保険部会の昨年12月の意見書を基にまとめられたものです。2024年度以降に順次施行されることになります。


◆ データ利活用でどう変わるか


法案のなかで私が関心を持っている点は、地域支援事業の新たなメニューとして「介護情報基盤の整備」に関する事業を創設する、という内容が盛り込まれたことです。ただし、現時点ではこれ以上の詳細が示されておらず、具体的にどういった事業になるかはまだ見通せません。

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そこで私が情報を収集してみたところ、次のようなことが分かりました。


まず法律の条文に、「被保険者、介護サービス事業者、その他の関係者が被保険者に係る情報を共有し、活用することを促進する」と新たに規定されます。施行は改正法の公布後4年以内。つまり2024年度からではなく、2027年度の施行が見込まれるものです。


システムの詳細については、厚生労働省内の検討会の意見などを踏まえて決められるようです。そこでの検討の方向性は、介護情報が自治体・利用者・介護事業所などに散らばっている現状を見直し、それらの情報を共有することで自立支援・重度化防止の取り組みを推進できるよう、介護情報基盤(システム)を整備するというものになっています。


現時点では、要介護認定情報や介護レセプト情報は政府や自治体が有し、利用者個々のLIFE(科学的介護情報システム)情報は介護サービス事業所・施設が保有しつつ、LIFEのシステムに蓄積されています(*)。これらのデータを連結させて分析することはできません。


* 要介護認定情報=利用者の要介護認定等基準時間やその推移など。介護レセプト情報=給付管理データをもとにした介護サービスの利用量・費用など。利用者個々のLIFE情報=ADLや栄養、認知機能、疾患や薬剤など。


それを、利用者の確認・同意・匿名化を前提として、関係するステークホルダーの間で必要な情報を共有・利活用できるようにしていく、というのが「介護情報基盤の整備」の事業ということのようです。

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私はこのことから、政府・厚労省のデータヘルス改革への本気度がうかがえると感じています。


このシステムが数年後にうまく稼働することになれば、高齢者介護に関するビッグデータが集積されることで介護サービスの標準化が促進され、自立支援・重度化防止のためにどんな施策を政府・自治体が講じればよいのか、客観化されるようになるでしょう。


また施設・事業所では、「ADLの改善率」「排せつ機能の改善率」「BPSDの改善率」「褥瘡の発生率」「肺炎の発生率」といった項目ごとに「介護サービスの質の評価」が行われ、それを政府・自治体が把握することもできるようになるでしょう。そうした事業は既に欧米のいくつかの国で先行しています。


◆ LIFEにしっかりと取り組むべき


施設・事業所・介護従事者の立場でこれを考えてみると、次のようなことを意味するのではないでしょうか。


“今のうちにLIFEにしっかり取り組めるようにしておかなければ、「介護情報基盤の整備」のシステムが本格化する頃には、データヘルス改革の流れにすっかり取り残される事態に陥ってしまう”


LIFEを利活用していない事業所は、おそらく前述した介護情報の共有・利活用システムに加わることができず、いずれ始まる「介護サービスの質の評価」の対象にもならないのではないか、と懸念されます。将来的には、その「質の評価」に応じて介護報酬の傾斜配分を行う、といった議論が進められることは確実です。LIFEを利活用できない事業者は、その傾斜配分によるインセンティブを得ることもできないでしょう。

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LIFEは、フィードバックデータの不十分さや情報収集・データ提出の手間の問題などから、実践現場での取り組みが十分には進んでいない現状にあります。しかし、今回の法改正からうかがえる政府のデータヘルス改革の本気度を見る限り、そのまま放置し続けると、いずれ事業者の経営的な問題になって跳ね返ってくると考えられます。


もちろん、そのためには、LIFEのシステム上の改善も必要ですが、事業者・実践者がこれに真剣に向き合うこともやはり必要です。その誘導策が2024年度の介護報酬改定で講じられることも確実視されます。


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