【高野龍昭】社会保障国民会議が始動。2027年度介護報酬改定へ「逆風」のシナリオ
1.はじめに
社会保障国民会議の第1回会議が2月26日に開催されました。その国民会議の場で高市総理は「夏前には『中間とりまとめ』を示す」と意欲を見せています。【高野龍昭】
「中間とりまとめ」が「夏前」に示されるということは、これが毎年夏にとりまとめられる「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」に直接的な影響を及ぼすことを意味します。そして、それらが社会保障審議会介護給付費分科会での年末に向けた議論のバックボーンを成すことを意味します。
つまり、国民会議での議論は、2027年度の介護報酬などの改定に密接にコミットすることになるのです。むろん、それだけでなく、第11期(2030〜2032年度)以降の介護保険制度の改革の基盤となるはずです。
この意味で、介護保険制度のステークホルダーはこの国民会議の動向に注目しておく必要があります。
2.国民会議での議論の方向性
(1)与野党の政策方針に則った議論
この国民会議の設置の趣旨として、「国民の受益と負担に深く関わる『給付付き税額控除』や『食料品の消費税率ゼロ』を含めた『社会保障と税の一体改革』について検討を進める」ことが示されています。このことは、低所得者や現役世代の負担軽減を図ることを国民会議での論点の中核に据える考えを示唆しています。
実際、国民会議で高市総理は「税・社会保険料負担、それから物価高に苦しむ中所得者、低所得者の方々の負担を緩和したい」という意向を強調しており、その前提のなかで社会保障と分配のあり方を検討しようとしていることがわかります。
先の総選挙、そして昨夏の参議院選挙をみても、与野党を含めて多くの政党が消費税の減税と社会保険料の負担軽減を公約に掲げたわけですから、この前提が揺らぐことはないはずです。
一方で、この前提は、介護保険制度にとって大変な「逆風」が吹くことを表しています。
(2)消費税減税と社会保険料軽減と社会保障
消費税法第1条第2項には「消費税の収入については(中略)年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする」と明記され、その歳入である年間約25兆円(2024年度決算額)が社会保障の主要財源となっています。
したがって、この消費税を減税しようとすれば、社会保障の財源全体をシュリンクさせる方向性を検討するほかありません。実際、社会保障の代替財源を検討することは国民会議の議論の俎上に載せられていません。新たな国債発行による代替財源の確保は、現政権の政治姿勢からは考えにくい選択肢となります。
また、社会保険料の負担の軽減を図るためには、社会保険の保険給付の伸び(自然増など)だけでなく、給付総額そのものの削減を検討することも必要となります。
社会保険料のうち、現役世代にとって最も重い負担となっているのは年金保険料です。しかし、年金保険制度は長期保険のシステムで運営されており、その負担軽減を図ることは、現役世代が将来受給する老齢年金を減額させることに直結するため、政策的に手をつけることは難しいでしょう。
また、労災保険や雇用保険の保険料負担は、金額的にはさほど大きくありません。その分、医療保険の保険料・介護保険の保険料を抑えることに議論が集中するはずです。
こうして考えると、国民会議での議論は、そのまま医療保険と介護保険の給付の抑制・削減の圧力へと向かうことになるはずです。そして、それは高齢者の負担(患者負担・利用者負担)を高める議論にもつながるでしょう。社会保障をめぐる現役世代・若年層の不満から拡大している「世代間対立」を緩衝するために、医療保険・介護保険の社会保険料負担を見直すことは、最も即効性のある対策ともなります。
(3)介護保険の給付と負担のあり方が焦点のひとつに
その医療保険と介護保険を比較してみると、医療保険の給付は高齢者(65歳以上)分が全体の約60%を占める一方、介護保険の給付は高齢者(65歳以上)分が約98%(いずれも2023年度分)を占めています。
この意味では、現役世代の社会保険料負担の軽減について、介護保険料の軽減に対する「風当たり」は相対的に強くなり、介護保険の給付の抑制・削減の圧力も強まるはずです。高齢者の利用者負担を高めるベクトルも一層強まることは間違いありません。
社会保険料の負担軽減については、2015年以降の介護保険制度で、低所得者の第1号保険料(第1〜3段階)の負担軽減を目的として特例的に公費を投入する手法が採られています。現役世代の社会保険料軽減にはこうした仕組みも検討できるかもしれません。
しかし、現状では、その公費の財源は消費税の増税分(2014年の5%から8%へ、2019年の8%から10%への税率の引き上げ分)が充てられています。今回、消費税そのものを減税することが議論されるなか、そうした政策の実現可能性は低いと言わざるを得ません。
3.2027年度の介護報酬改定への影響
いずれにしても、社会保障国民会議の議論は、介護保険制度にとって厳しいものになるというシナリオしか見えてきません。
2027年度の介護報酬改定についても、物価高騰対策や処遇改善施策のしっかりした政策的な「手当て」の必然性があるとはいえ、間違っても「すべてのサービス種別で基本報酬が過去最高レベルのプラス改定」というような状況にはならないでしょう。
高市政権の財政方針は「責任ある積極財政」です。この「積極財政」だけに目を奪われ、夢物語のような介護報酬のプラス改定を予測する関係者も少なくありませんが、私の分析は異なります。
もちろん「責任ある」報酬アップ、すなわち、賃上げ重視の政策の責任を果たすための処遇改善関連の報酬(加算)、あるいはすべての分野での横断的な国策となっている生産性向上・DX推進などの責任を果たすための報酬(加算)のアップは、確実に見込めるでしょう。
しかし、特段のアウトカムを求めることのない基本報酬や、人員の加配に対して単に費用を充てているような加算に対し、「積極財政」の対象とする方向性はさほど見込めないと考えることが自然です。
4.消費税減税・社会保険料抑制の「負の側面」
その一方で、社会保障の主要な財源である消費税を減税し、医療保険・介護保険の保険料を抑制するような政策、すなわち保険給付を現実的にシュリンクさせていく政策方針が示されれば、医療・介護のサービス提供基盤が失われかねない事態を招きます。現下の医療・介護の状況にはその兆候が現れています。
医療保険・介護保険は短期保険(単年度もしくは3年の中期的財政運営期間で収支を司る仕組み)のシステムで運営されていますが、その基盤(医療機関・事業者・施設、人材など)は長期的な制度運営のなかで整備されます。医療・介護の基盤整備は、過去からの政策・経営の積み重ねで段階的に拡大され、持続していくものなのです。
そう考えると、今の現役世代のための消費税減税・社会保険料負担の軽減を行うことは、その世代が医療・介護サービスをより多く必要とする高齢期を迎えたとき、医療・介護サービスの提供基盤を極めて脆弱なものにさせてしまうリスクを生じさせることになります。
つまり、現役世代のための消費税減税・社会保険料抑制の政策は、結果的に現役世代を将来困らせることになる、という認識が必要となるのです。
こうした将来リスクも念頭に置き、国民会議では大衆迎合的な議論が行われないよう期待したいと思います。










