【小濱道博】介護は「利益率が高い」の衝撃 大誤解を生むデータの歪みと報酬改定の行方
4月末に開催された財務省の審議会で、介護サービスは相対的に「利益率が高い」との認識が示された。財務省は特に、訪問介護や居宅介護支援などの利益率が他産業と比較して高いと説明し、「報酬の適正化が必要」と厳しく指摘した。【小濱道博】
しかし、この評価は現場の実感と大きく異なる。慢性的な人材不足、離職の増加、賃金水準の低さといった課題を抱える現場において、「儲かっている」という認識はほとんど存在しない。
この乖離こそが、今回の議論の本質である。数字上の評価と現場感覚が一致していない以上、そのまま反映されれば間違った報酬改定となるリスクがある。
◆ 見えてきた次期改定のポイント
この乖離の原因は、平均値の中に含まれる構造的なデータの歪みにある。
訪問介護や居宅介護支援の中でも、特に収益性が高いのは住宅型有料老人ホームなどに併設された事業所である。同一建物内でサービスの提供が完結するため、こうした事業所では長い移動時間がほとんど発生せず、短時間で複数の利用者に対応できる。その結果、労働投入時間あたりの報酬効率が極めて高くなる。
一方で、主に一般的な在宅を対象とする事業所は、利用者宅を一軒ずつ訪問する必要があるため、移動時間や待機時間の負担が大きい。人材不足の中で稼働効率は上がらず、収益性は低下してしまう。
このように、同じ「訪問介護」であっても実態は全く異なる。にもかかわらず、制度上は同一のカテゴリとして扱われている。この構造が平均値を押し上げ、「全体として儲かっている」という誤解を生んでいる。
こうした問題を踏まえ、2027年度改定ではサービス提供の実態に応じた報酬の見直しが進む可能性が高い。
特に焦点となるのが同一建物減算である。現在は一定の減算が設けられているものの、その水準は実態に比して低いとされている。併設型事業所の高収益構造を是正するためには、減算率の引き上げが避けられないとの見方が強まっている。
さらに重要なのは、併設型と在宅型を分離して議論する方向性である。これまで一括りにされてきた訪問介護・居宅介護支援が、提供形態ごとに異なる報酬体系となる可能性がある。
これは単なる減算強化ではなく、報酬体系そのものの見直しを意味する。併設型モデルに依存してきた事業者にとっては、収益前提が崩れる転換点となる。
◆ いま最も重要なこと
もうひとつ、あえて触れておきたい重要なテーマがAI・ICTの活用である。医療分野での改定を背景に、介護分野でも生産性向上を前提とした仕組みが急速に整備されていくだろう。
これまで任意とされてきたICTの導入は、今後は加算取得の前提条件として位置付けられる可能性が高い。介護記録ソフト、データ連携、各種ツールの導入は、単なる業務効率化の手段ではなく、賃上げや人材確保と直結する政策手段となっていく。
導入していない事業所は加算機会を失い、結果として人材確保でも不利になる。この流れは不可逆であり、対応の遅れはそのまま競争力の低下につながる。
今回の議論の本質は、「平均値による制度設計」と「現場の実態」との乖離にある。財政側は全体の効率化と負担の公平性を重視するが、その前提となるデータは必ずしも現場の実情を反映していない。
このまま議論が進めば、最も影響を受けるのは、効率化が難しい在宅型のサービスを担う事業者である。したがっていま最も重要なのは、制度の是非を論じることだけでなく、こうした方向性を前提に経営を再設計することである。どの領域が圧縮され、どこに資源を集中すべきかを見極める必要がある。
2027年度改定は、併設型モデルの収益構造の是正、ICT導入の必須化が同時に進む構造転換になるだろう。訪問介護・居宅介護支援は「利益率が高い」という評価のもとで再編の対象となり、従来の経営モデルは通用しなくなる。
現状維持は最大のリスク。制度変化を前提とした戦略的な再構築が不可欠である。







