daiichihoki-2024.10-sp-top-banner01
2023年8月8日

【山口宰】ケアの方針が合わず職員がバラバラに…。介護現場の亀裂を防ぐためにすべきこと

このエントリーをはてなブックマークに追加
《 社会福祉法人光朔会オリンピア・山口宰常務理事 》

チームで仕事をする介護の現場では、ケアの方向性を決定したり、みんなのルールを策定したりするときなどに、意見の対立が起きることも少なくありません。対応の仕方を間違うと、人間関係に亀裂が入ったり、チームがバラバラになったりしてしまう危険性があります。


今回は、チームを前向きに進めるための合意形成のポイントについて考えてみたいと思います。【山口宰】

monakaya-2024.10-sp-02-banner01

◆ 介護現場の意思決定はトレードオフ


介護現場では、日々さまざまな意思決定を行うことが求められます。


利用者さんに積極的に歩いてもらうか、安全のために歩行器や車椅子を使ってもらうか。利用者さんに好きなものを食べてもらうか、栄養のコントロールをより重視するのか。小さなトラブルが起きたとき、その日休みのリーダーに連絡をとるのか、現場での解決を目指すのか。


これらの意思決定は、すぐに答えが出るような簡単なものではありません。一方を選べば何かを得られるが、同時に何かを失ってしまう − 。そんなトレードオフ(Trade-Off)のような選択肢ばかりではないでしょうか。


時には、リーダーが下したちょっとした判断が、利用者さんの健康や安全に関わる問題につながったり、スタッフ間のトラブルや離職につながったりしてしまうこともあります。リーダーのみなさんからも、この責任の重さが大きなプレッシャーになるという声が聞かれます。


このように重要な意思決定をするときに大切なのが、合意形成です。


リーダーが1人で判断・決定したことを一方的にスタッフへ指示しても、その背景や思いまで理解して実行してもらうことは難しいでしょう。特に、近年の介護現場では様々な年齢層が働き、キャリアやバックグラウンドなどの多様性も重視されるようになっています。日々の業務や人間関係を円滑にしてトラブルを未然に防ぐためにも、合意形成は重要なポイントです。

joint-seminar-2024.3-lead-banner01


◆ 多数決は確かに便利。でも…


数年前、あるテーマパークの雑誌広告で、子どもたちが多数決のメリット・デメリットを話し合っている場面を描いたものがありました。「多数決は確かに便利だけど、少数派の意見が反映されないという欠点があるよね」といった内容でした。


介護現場のケースで考えてみましょう。高齢者施設のあるユニットで、利用者Aさんのケアの方針について意見が分かれています。


「Aさんの夢だった旅行を実現するために、もっとリハビリをがんばってもらいましょう!」という意見に対し、「Aさんはもうご高齢で体調も心配。無理をせず、近場へのお出かけにしてもらったらどうでしょう」という意見が出ています。ご家族と話をするために施設側の意見をまとめなければいけないのですが、話し合いは平行線を辿っています。


どうしても決めきれなかったリーダーは、結局、多数決で決めることにしました。結果、旅行は難しいという結論になりました。


ところが、納得がいかないのは旅行を勧めていたスタッフたち。この時に決めたケアの方針に、非協力的な態度を取るようになりました。その後もことあるごとに意見の対立が起こり、だんだんチームはバラバラになってしまいました…。


議会での採決や選挙にも用いられているように、民主主義の基本的な原理となっている多数決は、平等に物事を決める上で便利な手段ではあります。しかし、同時に、メンバー間の知識や情報量の差をどう考えるのか、責任の所在がどうなるのかなど、難しさを抱えていることにも注意しなければなりません。


◆ 合意形成のプロセスとポイント


このように難しい介護現場での意思決定で、大きな力を発揮するのが合意形成です。合意形成とは、全員一致による決定とは異なり、違う考えを持ったメンバーの納得も得てひとつの結論を導き出す方法です。


合意形成のための話し合いでは、ただそれぞれの意見を主張し合うだけではなく、相手の立場になって、反論することなくその意見をしっかりと受け止めます。不明な点や懸念点があれば質問し、その回答を得るというやり取りを繰り返しながら議論を深めていきます。それぞれの持っている情報に差があるために意見が異なる場合には、情報をオープンにして共有することが重要です。


意見の内容だけでなく、その意見に至った相手の気持ちにも理解を示すことによって、「意見を聴いてもらった」という実感が生まれてきます。一方的な意見の応酬では、意見を否定されたことにより、自分自身が否定されてしまったかのように感じ、いつまで経っても結論に至らない場合があります。互いに受容することができるようになったとき、自分の考えを少しずつ変化させて歩み寄ったり、譲歩したりすることによって、ひとつの結論に到達することができるようになります。


また、ひとりひとりの意見を引き出し、議論を進めていくためのファシリテーターの存在も欠かせません。意見が異なる人を説得するのではなく、議論を尽くして全員が納得するという、合意形成のためのプロセスこそが重要なのです。

monakaya-2024.10-sp-02-banner01

◆ 合意形成のトレーニング


合意形成による意思決定を効果的に行うためには、日頃からチームでのコミュニケーションを円滑にしておくことが求められます。また「コンセンサスゲーム」と呼ばれる、合意形成力を向上させるグループワークも非常に効果的です。


「NASAゲーム」に代表される、生還のために大切な物の優先順位をつけるゲームや、「若い女性と水夫」のような登場人物に順位をつける「正解のない」ゲームなど、さまざまなゲームを通じて普段から合意形成のトレーニングをしておくと、実際の機会でスムーズに進めることができます。私も、管理職やリーダーの研修に呼ばれたり、現場スタッフの研修をしたりするときには、グループワークを積極的に取り入れています。


みなさんのチームでも、意見の対立があって議論が進まなくなってしまったときに、多数決で決めてしまうのではなく、合意形成のプロセスを思い出してみてください。きっとチームで前向きに物事を進めることができるようになると思います。


Access Ranking
人気記事
介護ニュースJoint