2023年11月15日

【伊藤亜記】上から目線のスピーチロックはやめよう 介護に大切なのは相手を敬い、心の痛みを忘れない姿勢

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《 株式会社ねこの手:伊藤亜記代表取締役 》

「デイサービスの介護職員がお客様に対して、無意識のうちに上から目線になっているように思えます。虐待を疑われるのではと心配していますが、スタッフ指導の際にどのように伝えれば良いでしょうか」


こんなご相談をある施設の施設長様から頂きました。【伊藤亜記】

サービスの提供にあたり、介護職員の姿勢は重要です。職員が人生の先輩であるお客様に対し、「先生」や「指導者」のようになって“指示・命令口調”で場を仕切っている光景を見かけることもあります。一体何をもってお客様に指示をするほどに偉いのか、とも感じる不思議な光景です。


なかには、ミスを繰り返すスタッフを叱りつける人のように声色を荒げ、遠くのお客様に「立たないで」などとスピーチロックをする姿を見て、青ざめます。スピーチロックとは、言葉によって身体的、または精神的な行動を抑制することです。「言葉の拘束」とも言われており、心身に弊害が生じたり、不信や偏見を誘発したりする原因にもなります。


特に、職員が「先生」のような敬われる立場になるのは、お互いに立場の「勘違い」を引き起こし、「支配者」を生む危険な状況です。

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私達サービス業にとって、お客様は数ある競合他社様から我々を選んで頂いた有難い存在です。また、やるべきことは高齢者の尊厳を守ったり自立を後押ししたりする支援であって、決して指示や命令ではありません。


また、介護はご家族にとってもご本人にとっても先の見えない不安であり、その不安を軽減させることも私達の役割だと思います。


私は祖父母の遠距離介護から介護離職、看取りまでしたので経験がありますが、介護の不安はご本人やご家族など当事者にしか分かりません。介護職員はその恐怖を第3者として見ることはあっても、実際に身に降りかかり、体験して味わうことは、その当事者として直面しない限りはありません。


そのような立場であるにも関わらず、介護職員が上から目線になるのは「自分主体の介護」になっているからです。


お客様は、親に育てられ、成長と共に社会に貢献し、子供を育て、頑張って生きて、「やっと自分の幸せのために人生を楽しめる」と思った矢先に、老いや病、そして障害と闘わなければいけなくなりました。


長年のご苦労もされてきた人生の先輩に対して、「〇〇ちゃん」といったあだ名・愛称で呼んだり、「それはだめ!」「言ったでしょ!」「静かにして」などと叱ってスピーチロックをしたりするのは、サービス業としても、また福祉専門職としても、決して許される行為ではありません。

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「デイサービス=老人幼稚園」ではありません。デイサービスとは、老化や病、障害などで心身機能が低下された方に、リハビリや社会参加などを通して、ご自分の望む生活へ快復できるように支援する施設です。例えば、心身に大きな支障がなく生活をされておられる方なら、地域での社会参加は当たり前にできます。その状態へ復活できるように支援する介護サービスがデイサービスなのだと思います。


どんなレクリエーションをやるか以前に、まず人としての心の健康と意欲向上を重んじ、心身のリハビリと自立支援を自分達が責任を持って担っている、という介護職としてのプロ意識と信念が、働く側にとって最も重要なスキルとなります。


そして、何より大切なのは、人生の大先輩として、お客様を尊敬し、敬う心、相手の心の痛みをどんな時も忘れないようにする姿勢ではないでしょうか。まずはそのことを、スタッフのご指導の際はお伝え頂きたいと思います。


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