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2023年12月6日

【高野龍昭】介護職員の給与水準を全産業平均へ上げるのにいくら必要か 道のりは険しく一歩ずつ

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《 東洋大学 高野龍昭教授 》

◆ 武見厚労相の発言


10月半ば、メディア各社は「武見敬三厚生労働大臣が介護職員の賃上げについて『月額6000円程度が妥当だ』との考えを示した」と報じました。【高野龍昭】

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この報道に対し、介護従事者や介護サービス事業者は、「月6000円だけとは現場を馬鹿にしている」「政府は私たちを見捨てるのか」「全産業平均の賃金まで保障すべき」と一斉に反発の声をあげました。一部のSNSなどでは、介護サービス関係者によるものと思われるコメントでこの報道が「炎上」状態になっていたようです。


武見厚労相の発言は、政府が新たな「総合経済対策」を検討している過程で発せられたもの。その中に「医療・介護・障害福祉分野の人材確保に向けた賃上げに必要な財政措置」を位置付ける見込みである、ということを説明したものです。


この財政措置は、来春の介護報酬改定を待つことなく、物価高騰の局面を踏まえて新たな処遇改善を「臨時的に上積みする」ものであり、2009年度以降に実施されてきた累次の処遇改善策を拡充しようとするものでもあります。


もちろん、従事者・事業者の皆さんにとって処遇改善の金額は多いに越したことはないでしょうが、その多寡はともかく、介護分野の処遇改善のために、補正予算という限定的な財源のなかで、「臨時的な上積み」の財政措置を行うという政府の姿勢そのものは一定の評価ができます。


その意味では、武見厚労相の発言をめぐる各種の報道内容や従事者・事業者の反発は、勇み足が過ぎたという感は拭えません。


◆ 来年2月からの「介護職員処遇改善支援事業等」


実際、総合経済対策は11月2日に閣議決定され、その財政的裏付けとなる今年度の補正予算が11月29日に国会で成立しました。その中で、武見厚労相の発言内容に関する施策は「介護職員処遇改善支援事業等」として位置づけられています。


この施策は総額364億円。今年2月から5月の4ヵ月分の介護職員らの賃金を引き上げるため、既存の「ベースアップ支援加算」に上乗せする形で措置されるものです。補助率は10/10。全額国費の事業です。


これによる賃上げ効果は2%と想定され、次年度の介護報酬改定を迎える前に、早めに賃上げを図ろうとする政府の意向が反映されているように感じます。この措置による金額が、武見厚労相の発言にある「介護職員1人あたり月額6000円」と概算されているわけです。


注目しておくべきなのは、この施策の概要に「賃上げ効果が継続される取り組みを行うことが前提」と示されていることです。来年6月以降も、恐らくは改定される介護報酬(処遇改善加算など)の中で、同様ないしは更なる上積みの処遇改善策が講じられることは確定的だと考えられます。

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◆ 今後の処遇改善


この施策・措置は来年2月から開始されます。詳細な実施要綱などは今後早急に都道府県を経由して発出されることとなるはずですが、事業所・施設はその情報を的確に収集し、申請に備えるべきでしょう。


今回の「介護職員処遇改善支援事業等」は、当初は「月額6000円」という数字だけが注目・批判されたものの、介護従事者・事業者として決してがっかりするような施策ではないと考えられます。実際、介護職員らの処遇改善や人材確保に関する政策は、社会保障分野の中での議論を越え、一般的な経済政策の議論の中でも重要施策として位置付けられており、その見通しがさほど暗いとは思えません。


ただし、中長期的に介護職員の処遇改善策を考えるとすれば、様々なハードルがあることは確かです。たとえば、多くの介護従事者は「全産業平均の給与水準」を期待していると思いますが、そのためには巨額の財政措置が必要となります。


介護労働安定センターによる昨年度の「介護労働実態調査」では、2021年時点で介護職員(常勤・勤続2年以上)の平均年収は約357万円だと報告されています。一方、厚生労働省による2021年の「賃金構造基本統計調査」では、同年の全産業平均の年収は約433万円だと報告されており、その差は約80万円となっています。


この約80万円を介護職員すべて(*)に支給しようとすれば、年額で1兆9360億円が必要という計算になります。消費税は1%分がおよそ2兆2000億円であり、その金額に近い財政規模に相当します。さらに、介護保険の財源でみると総費用額の18%程度に相当します。つまり単純に計算すると、介護報酬の18%のプラス改定が必要となる規模です。

* 2025年時点の介護職員数の予測は約242万人

介護職員に全産業平均の賃金を保証しようとすれば、これほどの財源が恒久的に必要となるわけです。その原資をどのように確保するのか、政府・自治体の厳しい財政状況のなか課題は山積しています。


したがって、その実現可能性は長期的に捉えておかなければなりません。少し残念なことですが、処遇改善は一歩一歩、段階的に行われる他ないという理解も必要でしょう。


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