daiichihoki-2024-6-sp-top-banner01
2023年12月29日

【高野龍昭】広がる課題の地域差 「地域別将来推計人口」から考える介護保険制度の危機的未来

このエントリーをはてなブックマークに追加
《 東洋大学 高野龍昭教授 》

1.新しい都道府県別・市町村別の詳細な人口推計データ


12月22日、国立社会保障・人口問題研究所から「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」が公表されました。【高野龍昭】

nttdata-2024.6-sp-02-banner01

これは5年ごとに推計・公表されるもので、官民を問わず多くの分野で様々に活用されるデータです。


今回公表されたのは、すべての都道府県・市町村について、2020年の国勢調査の確定数(実人口)を出発点として、2050年までの人口を詳細に推計したものです。なお、全国分の同じ推計データは今年4月に発表されています。それについては、今年5月のこの連載で考察しています


私自身、介護保険などの制度・政策のあり方を検討するにあたって、この推計データを最も重要視しています。今回は、この最新の推計データから、後期高齢者人口の増減に焦点を当てて、未来の介護保険制度のあり方について考えてみたいと思います。


2.都道府県別にみた後期高齢者人口の動向


都道府県ごとに後期高齢者人口の増加率(2020年を100とした2050年の推計指数)をみてみると、伸びが著しいのは、① 沖縄県(179.3)、② 神奈川県(152.9)、③ 滋賀県(150.2)、④ 東京都(148.6)、⑤ 埼玉県(147.1)の順となっています。


逆に伸びが鈍い、もしくは減少に転じるのは、下位から順に① 秋田県(94.7)、② 島根県(100.1)、③ 高知県(101.1)、④ 山口県(101.8)、⑤ 山形県(104.3)となっています。

増加率が突出しているのは沖縄県で、約30年後には後期高齢者がおよそ8割増加すると推計されています。その他の上位の都県でも、およそ5割の増加が見込まれます。


また、5年前の同じ推計(2015年の人口を100とした2045年の推計指数)では、東京都は6位、滋賀県は7位でしたから、この両都県は順位を上げた形となりました。これらの地域は住民の平均年齢が若い地域として知られていましたが、人口の高齢化が急速に押し寄せてくることとなります。


一方、増加のスピードが鈍い都道府県については、5年前の同じ推計と大きな変化はありません。


1960年代、70年代から過疎と高齢化が進んでいたこうした地域は、これ以上の高齢化はさほどに進まないことを示しています。実際、後期高齢者人口はおおむね横ばいで推移するとともに、2030年頃以降は減少傾向へ向かいます。特に、秋田県などで減少の度合いが大きくなっていきます。

doctormate-short_article-2024.3-sp-lead-banner01

3.市区町村別にみた後期高齢者人口の動向


次に、後期高齢者人口の動向について、市区町村別の推計データをみてみましょう。


伸びが著しいのは① 東京都中央区(236.2)、② 横浜市都筑区(233.0)、③ 沖縄県中城村(228.7)、④ 千葉県印西市(225.2)、⑤ 愛知県長久手市(223.8)です。


増減率がマイナス、つまり減少が著しくなると推計されているのは、下位から順に① 群馬県南牧村(31.9)、② 長野県天龍村(33.1)・③ 奈良県野迫川村(33.9)・④ 北海道音威子府村(35.7)、⑤ 奈良県川上村(36.5)となっています。

増加率が顕著となる市区町村は、5年前の推計では、大都市のベッドタウンが上位を占めていました。横浜市都筑区や愛知県長久手市など、今回も同様の傾向にはあるものの、今回の推計データで増加率のトップが東京都中央区という「The 都心」と言える地域となったのは、とても象徴的なことです。


中央区だけでなく、東京都区部の中心地域も同様の傾向にあるほか、札幌市中央区も上位に位置しています。このことは、バブル期以降に人口の「都心回帰」が進んだことの反映と考えられ、そうした地域では2040年前後から後期高齢者が急増することが予測されています。


一方、後期高齢者人口の減少が激しくなる地域は、いずれも過疎と高齢化が元々進んでいた山間部という共通の特徴があります。これらの地域では、以前から要介護高齢者の減少が始まっていることが報告されており、介護サービスの維持が困難となっている状況も散見されています。

joint-seminar-2024.3-lead-banner01

4.介護保険制度の行方

このように推計データをみてみると、後期高齢者人口の増減は「地域差が著しくなる」という言葉に集約できるでしょう。


大都市のベッドタウンだけでなく、都心で後期高齢者が激増する時期はそう遠くありません。一方、過疎と高齢化が進んだ山間部では、後期高齢者人口が急速に縮小していきます。


そうなってくると、現行の全国一律の社会保険制度としての介護保険制度は、姿を変えていかざるを得ないと考えられます。たとえば、介護予防・日常生活支援総合事業のように、市町村ごとに仕組みを考えて施策化するようなシステムの方が、将来的には効果をあげるのかも知れません。


それ以上に私が懸念しているのは、介護サービスの提供自体が困難になるのではないかという点です。


後期高齢者人口が急増する多くの地域では、総人口や生産年齢人口の減少は限定的であり、増加が予測されている地域もあります。これらの地域の場合、介護人材の確保については、処遇改善策などの政策の見直しや経営の工夫で一定程度を見込むことができますが、それをはるかに上回る要介護高齢者の増加が予測されます。このままでは介護ニーズに対応できなくなる懸念が生じます。


その一方、後期高齢者人口が激減するほとんどの地域は、総人口や生産年齢人口も激減します。これらの地域では、介護人材の確保そのものが困難になるとともに、広大な地域に要介護高齢者が散在することになり、居宅サービスを中心として効率的なサービス提供が困難になるはずです。そうなると、介護サービス事業自体が成り立たなくなる懸念が生じます。


つまり、いずれの地域でも介護人材確保が喫緊の課題となるわけです。しかし、それに対する「打つ手」は限られます。


これは、介護職員の処遇改善だけで対応できるものでもないでしょう。介護・医療などの社会保障分野で従事する人びとは、「所得の再分配」の枠の中で生業を得るわけですから、社会システムのうえでその人材を無尽蔵に増やせるわけではなく、そこには一定の限界があります。


したがって、外国人介護人材への期待とともに、介護サービスの生産性向上・DX推進などは、その賛否は別として、何としてでも進めなければならない課題となります。


ricoh-2024.6-pc-side2-banner01
ricoh-2024.6-pc-side2-banner01
Access Ranking
人気記事
介護ニュースJoint