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2022年10月27日

【高野龍昭】厚労省は介護の人手不足にどう対応しようとしているか 処遇改善は継続 ICT活用は不可欠に

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《 東洋大学 高野龍昭准教授 》

◆ 厚生労働白書から読み解く


「厚生労働白書」は、厚労行政の現状や今後の見通しなどを広く国民に伝えることを目的に発刊される厚労省の年次報告書で、毎年夏頃に発表されるものです。前身の「厚生白書」に遡ると1956年から続いているもので、歴史的な価値のある史料です。【高野龍昭】

厚生労働白書には、その年・その時代の社会保障施策の概況が取りまとめられているとともに、各施策についての今後の見通しに関する厚労省の問題意識などが示されており、近年は、その年ごとのテーマを設定している第1部が注目される傾向にあります。


今年度の白書も今年9月に発表され、その第1部のテーマは「社会保障を支える人材の確保」でした。


◆ 介護人材確保の「課題感」
 
2024年度の介護保険制度の見直しに向けた議論が進む真っただ中で提示されたこのテーマは、間違いなくそこに大きな影響を及ぼすはずです。


私は、ここ数ヵ月の間に、複数の党派の国会議員や複数の府省のキャリア官僚と個別に話をする機会が幾度となくありましたが、彼らが異口同音に言っていたことは「今後の介護保険制度は、財源の問題よりも人材確保の問題が深刻さを増す」「人材確保対策こそが介護保険制度の見直しの1丁目1番地」ということでした。そのこととも、この白書のテーマは符合します。


もちろん、白書で触れられている人材確保については医療・福祉の多様な専門職にわたっています。


それをみると、医師については「2029年頃に需給が均衡すると推計されている」とやや楽観的な見通しが示されつつ、「地域別偏在・診療科別偏在についての対応が必要」とされている程度にとどまるものの、看護職員については「訪問看護の需要増への対応が必要」と記されています。


一方、保育人材・介護職員については「累次の処遇改善の取り組みにより、給与アップの処遇改善を実施」「離職率は低下」、しかし「有効求人倍率は依然として高く推移」などと記され、これまでの取り組みの評価を行う一方、継続的な危機感を示しています。


◆ 示された5つのポイント


今後の方向性については、白書でどのように示されているのでしょうか。


それについて紐解くと、看護、保育、そして介護の人材確保に注力する姿勢は強調されているものの、「イノベーションの導入を推進」という文言も併記されています。そのうえで、下記の5つのポイントが示されています。


○ 健康寿命の延伸
○ 医療・福祉サービス改革
○ 地域の実情に応じた取り組み
○ 処遇改善
○ 多様な人材の参入促進


このうち、「健康寿命の延伸」「処遇改善」「多様な人材の参入促進」は従来から強調されてきたことで、これまでの取り組みを続ける・拡大する、という方向性が示されていると思ってよいでしょう。


かみ砕いて言えば、介護分野では自立支援・重度化防止に関連する施策は強調され続けることになる、ということです。処遇改善についても、少なくとも厚労省サイドとしてはまだまだ継続・拡大しようと考えているということだと思います。


また、多様な人材の確保策として、外国人人材の参入を求める方策はコロナ禍の縮小に合わせてリ・スタートするでしょうし、タスク・シフトによる介護業務の仕分け(たとえば介護助手などの検討・導入など)も進めたいという意志表明だとも受け取れます。


一方、「地域の実情に応じた取り組み」は数年前から課題として示されていたもので、社会福祉連携推進法人制度の拡大を期待したり、法人間連携を推進するとともに、事業者の吸収・合併などを推進させようとする意志のようにも読み取れます。実際、都市部では事業の大規模化が進むでしょうし、私の地元の島根県のような過疎地域では、高齢者人口の減少による介護事業の衰退を、人材確保も含めて大規模化で対応せざるを得ないということを意味しているのかも知れません。


そして、比較的新しい文言とも言える「医療・福祉サービス改革」については、ICT技術・データヘルス改革を進めなければならないという厚労省の決意のようにも受け取れます。


2019年には、厚労省内に設置された「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」により「医療・福祉サービス改革プラン」が発表されています。そこには「ロボット・AI・ICT等の実用化推進、データヘルス改革、タスクシフティング、シニア人材の活用推進」などによって、「2040年時点において、医療・福祉分野の単位時間サービス提供量について5%(医師については7%)以上の改善を目指す」ことが示されていました。つまり、ICT化などによって、今後20年ほどの間に、介護や医療の労働生産性を5%から7%程度は改善させる必要性と数値目標が示されているのです。


ただし、この程度の生産性改善では「2040年問題」への対応としては「焼け石に水」です。

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◆ ICT/DX化の推進策は拡大


加速度的な高齢化・生産年齢人口の減少という2040年問題への対応が迫られるなか、介護人材確保策は政策的な「打つ手」が限られます。


そうした実態を踏まえても、そして、厚生労働白書や厚労省内の様々な報告書をみても、人材確保の問題にICT/DX化やデータヘルス改革で対応していくことが基本になる、ということは自明のことと言ってよいでしょう。


賛否は別として、現実的な人材確保難の打開策のひとつとして、事業者・介護従事者ともに、こうした動向に対応することは不可欠となるはずです。


そして、2024年度の介護保険制度改正も、こうしたグランド・デザインのなかで進められていくこととなります。


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