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2025年6月19日

【市川亨】ホスピス型住宅、不正の実態とは 内部資料を入手 職員・入居者の驚きの証言

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《 共同通信社 特別報道室 市川亨編集委員 》

末期がんや難病の人を対象にした有料老人ホームや高齢者住宅が増えている。「ホスピス型住宅」「ナーシングホーム」など呼称はいろいろだが、入居者向けの訪問看護・介護で不正や過剰な報酬請求が横行している疑いがある。私は昨年からこの問題について報じてきた。今回から8月まで、月1回(計3回)で実態や問題の背景をお伝えしたい。【市川亨】

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まずは、取材で入手した内部資料や、現・元スタッフ、入居者の証言から不正の実態を見ていこう。


ホスピス型住宅の最大手「Aホーム」に勤めていた看護師はこう話す。


「毎日シフト表が組まれていて、必要性に関係なく、最初から入居者全員1日3回、30分ずつ訪問することになっていた。でも、実際には30分なんていません」


「複数名での訪問もしたことになっていたけど、やったことは一度もないし、見たこともない」


「私が出勤する前の時間なのに、訪問した記録が作られていました」


「Aホーム」は全国に約120ヵ所あり、定員数は約6000人。運営するA社はここ数年で急成長し、親会社は東証プライムに上場している。


これまで私は「Aホーム」に勤務経験がある看護師や介護士約10人に話を聞いたが、全員が冒頭の看護師と同様の証言をした。入手した訪問看護記録のひな形には、「実際の訪問時間の入力不要」と添え書きがされていた。

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◆ 会社ぐるみの疑いも


不正・過剰な請求は会社ぐるみだった疑いもある。


私は昨年6月、特定の会社名をあげずにホスピス型住宅の不正について報じたが、その後の昨年夏、A社はエリアごとにオンライン会議を開催。運営部の社員が各拠点に「法令との整合性を取るため、看護・介護の体制を大きく変更する」と説明していた。違法な状態であると認識していたことになる。さらに、この段階になっても訪問看護の回数について「今まで通り、原則(1日)3回行っていただく」と指示していた。


A社は弁護士らでつくる調査委員会を設置。取材に対し「現在、委員会による調査が行われているため、回答致しかねる」としている。


パーキンソン病専門の有料老人ホーム「Bホーム」を各地で運営するB社でも、訪問看護で不正・過剰な診療報酬の請求が行われていた。そう報じたことを受け設置された同社の調査委員会は、今年2月に調査報告書を発表。約40ヵ所あるホームのほぼ全てで不正が確認され、その額は少なくとも約28億円に上った。


関西の有料老人ホーム大手C社では、入居者への訪問看護を100%、複数名での訪問にするよう、役員が全社的に指示していた。2024年1月の会議の議事録にそう記されていた。会社側は取材に「必要な入居者全てに対応できるようにするためで、過剰な報酬請求には当たらない」と答えたが、厚生労働省は「あくまで患者の状態に応じて判断すべきで、一律に割合を指示するのは不適切」としている。

※ 共同通信社 市川亨編集委員は同社の配信記事において、A〜C社(ホーム)をすべて実名で報道している。【Joint編集部】

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◆ 各社の共通点は


各社に共通する手法は次の通りだ。

(1)必要ない人にまで1日3回や複数名での訪問看護を実施。加算報酬を取るため、早朝・夜間・深夜の訪問を設定


(2)原則30分間は訪問しなければいけないのに、数秒~数分の訪問でも30分いたことにして、報酬を請求


(3)看護師1人の場合でも複数名で訪問したことにしたり、早朝・夜間に行ったという虚偽の記録を作ったりして、加算報酬を請求

これらの方法を取ることで、入居者1人あたり1ヵ月で50万~90万円の診療報酬を得ることができる。訪問介護と合わせれば、70万~100万円強になる。


各社の共通点はもう1つある。現・元社員たちの証言によれば、会社は表面上は「コンプライアンス」をうたい、社員向けの「相談・通報窓口」を設置。だが、異を唱えたスタッフは異動や退職にもっていかれる。パワハラ被害を訴える人も多かった。

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◆ 自由のない生活を送る生活保護の男性


入居者はどんな暮らしをしているのか。ある大手のホスピス型住宅に住む69歳の男性に話を聞くことができた。この男性は「末期がん」ということになっているが、約3年生きていて、元気だ。約3年の間、がんの検査は一度も受けていない。


訪問診療をしている医師はこう話す。「入院していた病院とホスピス型住宅から『末期がん』として診療を依頼されたが、末期の状態ではない」。医療保険で訪問看護を実施できるよう、「末期がん」ということにしている疑いがある。


男性は散歩や買い物に行きたいが、スタッフから「なるべく部屋から出ないように」と言われ、自由に外出はできない。毎日、テレビを見たり数字パズルや折り紙をしたりして、時間をつぶす。男性は生活保護。訪問看護・介護や住宅扶助などで年間約800万円の税金が、本人が望まない質の低い生活に投じられていた。


男性には外部のケアマネが付いている。「退屈でしょうがないので、アパートや他の老人ホームに転居したい」と訴えたが、ケアマネは運営会社の意向を気にしてか、動いてくれないという。


男性はスマホを持っていないため、自分で転居先を探すことができない。家族はおらず、身元引受人の親族は非協力的。業を煮やした訪問診療医が転居先を探し始めた矢先、運営会社から「医師を代えるか、1週間後に退去してほしい」と言われ、やむなく医師を代えることにした。自由のない生活が今後も続くことになる。


→ 7月の第2回に続く


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