【結城康博】だから介護業界は軽んじられる 最大1.9万円の賃上げを喜ぶ気が知れない
政府は昨年末、来年度の臨時改定で介護報酬を2.03%引き上げる方針を決定した。
マスコミ報道では、「稀に見る高水準の引き上げ」といった論調が見受けられる。一部、業界団体の関係者からも「よかった!かなりのプラス改定だ」といった歓迎の声を耳にする。
しかし、私は正直こうした反応を見て「残念だ!」と思った。むしろ、業界の皆さんに「お人良し過ぎる」という危機感を感じる。【結城康博】
◆「焼け石に水」の給与アップ
冷静に考えてほしい。毎月の賃金が1万円から最大で1.9万円上がったとして、介護現場に明るい兆しを見出せると思っている関係者はいるのだろうか。「もらえないよりは良かった」という程度の方が多いのではないか。
本来、最低でも毎月5万円の賃上げが実施されなければ労働市場へのインパクトは弱い。最大1.9万円では、依然として「介護業界は低賃金」というレッテルは変わらないままだ。
昨今の物価高で介護職の家計は厳しく、40歳未満であれば他業界への転職を決断する人もいる。私の大学の卒業生からも、ここ2年間で介護職を辞めて他業界へ移ったという知らせを聞くようになった。例えば、「やりがいはあるが人手不足で労働環境が悪化している」「他業界へ転職したほうが給与が上がる」といった話だ。
これはまだ報道ベースだが、今年の春闘をめぐっては5%を超える賃上げを目指す動きが活性化している。経済団体も前向きな構えを見せており、これから大きな状況の悪化がなければ実現する公算が大きい。
介護職の最大1.9万円の賃上げが実施されても、他産業との給与格差はさらに拡大するだろう。もし、政府が介護現場の人材不足を本気で改善する気があるのであれば、春闘の5%の賃上げを見込んでより多くの予算を配分すべきではないだろうか。
◆ 交渉関係者には頭が下がる
ここで伝えておかなければならないのは、業界団体の関係者の献身だ。そのボランティア的なロビー活動には頭が下がる。身を粉にした粘り強い働きかけがあったからこそ、今回の賃上げが実現されたことは十分に承知しており、私からも深く感謝申し上げたい。最大1.9万円という水準についても、実際に厳しい交渉をしている方々にしてみれば「これが限界」というのが本音だろう。
しかし、介護現場が置かれている状況は非常に厳しい。業界全体を俯瞰して見れば、問題解決の糸口さえ全く見えない改定率になったと言わざるを得ない。
繰り返すが、介護関係者は「人が良過ぎる」と思う。報酬改定などの予算の獲得は、他産業との熾烈な闘いである。今回、診療報酬の本体は3.09%も引き上げられることになった。医療も介護も経営難・人材不足の深刻さは同じだ。介護報酬も同様の水準まで引き上げるべきで、政府の判断は不十分だと言っていかなければならない。
必要なのは賃上げだけではない。例えば、訪問介護の基本報酬の引き上げは不可欠だ。最低でも、まずは2024年度の報酬改定以前の水準に早急に戻すべきではないか。
介護施設の食費の基準額も、引き上げ幅が1日当たり100円にとどまった。現下の給食コストの増大を考慮すると、これは少額すぎると言わざるを得ない。入所者への価格転嫁が難しい実情を踏まえ、政府は基準額をもっと引き上げるべきではないか。
唯一、明るい話題はケアマネジャーの賃上げの予算が確保されたことだろう。しかし、ようやく月1万円上がるのみで十分とはとても言えない。こうした様々な状況を勘案すると、やはり全く喜んでいる場合ではないと言わざるを得ない。
◆ 介護現場にも責任がある
1年後には2027年度の報酬改定も控えている。業界全体で危機感を訴え、今度こそ真の大幅な報酬引き上げを実現するために、皆で一丸となって活動を展開していかなければ、いつまでも幾ばくかの予算しか獲得できないままだろう。
これは我々自身の問題だ。現場の皆さんも、今後はさらに政局やロビー活動に関心を持っていただきたい。自分たちの賃上げを自ら求めていく気運を、業界として一段と高めていくことが重要である。










