【小濱道博】ついに国会へ 介護保険法改正案が示す制度の未来と現場への影響
4月3日、「社会福祉法等の一部を改正する法律案」が国会に提出された。社会福祉法、介護保険法、老人福祉法、障害者総合支援法、児童福祉法、生活保護法など、複数の法律が一括して改正される。【小濱道博】
超高齢社会と急速な人口減少という構造的課題に直面した政府が、持続可能性の確保という名のもとに制度の枠組みそのものを再設計する重大な転換点である。
施行は原則として令和9年4月1日とされているが、一部の改正事項は公布後2年、または3年以内の政令で定める日とされており、段階的な施行が予定されている。
1. ケアマネジャー更新制の廃止
最も注目すべき改正のひとつが、介護支援専門員証の有効期間制度と更新研修の廃止である。
これまでケアマネジャーは有効期間の更新ごとに研修受講が義務づけられており、頻繁に行われる複雑な制度改正への対応と、高度なアセスメント技術の維持が制度的に担保されてきた。今回の改正ではこの更新の仕組みが廃止され、都道府県知事が行う研修の受講を義務とする形に再設計される。
これは単純な規制緩和ではない。法案では、正当な理由なく研修を受けていないケアマネジャーに対して、都道府県知事が研修受講を命令できる規定が新設される。さらにその命令に従わない場合には、1年以内の期間を定めて業務禁止処分を科すことができるとされた。管理の仕組みを事前の更新制から事後の監督制へと転換するもので、その実効性の確保が課題となる。
あわせて事業者には、ケアマネジャーの研修受講機会を確保するための措置を講じる義務が明示的に課される。その措置を怠った場合、都道府県知事による勧告・公表・命令・指定取り消しといった段階的な行政処分の対象となり得る。更新制廃止によって「研修管理が楽になる」と安易に考えることはできない。
2.「特定地域サービス」の創設
中山間地域や人口減少地域を対象とした特例的サービス類型「特定地域サービス」の新設は、介護保険制度の根幹に関わる大きな構造変化である。都道府県が条例によって人員配置基準や設備・運営基準を柔軟に定めることができるこの仕組みは、民間事業者が経営難から撤退した地域においてもサービス供給体制を維持することを目的としている。
さらに、特定地域に所在する市町村が、事業として訪問介護・訪問入浴介護・通所介護・短期入所生活介護などの居宅サービスを直接実施できる「特定地域居宅サービス等事業」も創設される。市町村が直接サービスの担い手になるという、介護保険制度の歴史上きわめて異例の仕組みである。
費用負担の構造は介護予防・日常生活支援総合事業に準じるとされており、財政的な裏付けの枠組みも整備される。
注目すべきは、特定地域居宅サービスに係る給付額について、通常の居宅介護サービス費に対して9割相当額を基準として市町村が定めるとされている点である。基準の柔軟化に伴う報酬設定の不透明さは、中山間地域で事業を継続しようとする事業者にとって経営予測を困難にする要因となる。
3. 夜間対応型訪問介護の廃止
法案には、夜間対応型訪問介護を介護保険制度上の類型から完全に廃止する規定が盛り込まれた。定期巡回・随時対応型訪問介護看護など、より包括的なサービスへの集約が目的であるが、この廃止が現場に与える影響は過小評価できない。
夜間対応型訪問介護は、要介護度の高い利用者が住み慣れた自宅で安心して生活を続けるための夜間帯の安全網として機能してきた。廃止に際して、代替サービスへの移行が地域の実態に即した形でスムーズに進む保証はない。とりわけ人材不足が慢性化している地域では、廃止を機に夜間帯のサービス提供体制が地域から消滅するリスクがある。
在宅介護の継続を支援してきた事業者は、担当利用者の夜間サービス体制を早期に見直し、代替手段の確保に向けた具体的な行動に着手する必要がある。
4. 有料老人ホーム登録制度と新類型の創設
中重度の要介護者らを入居させる有料老人ホームに対して、都道府県などへの登録制度が新設される。5年ごとの更新制であり、登録に際しては事業計画書や入居契約に係る約款などの提出が求められる。都道府県知事は要件を充足していると認めた場合に登録を行い、登録簿は一般の閲覧に供される。
この登録制度の創設と連動して、「登録施設介護支援」「登録施設介護予防支援」という新たなサービス類型が介護給付・予防給付に追加される。登録施設に入居する要介護者・要支援者を対象に、居宅介護支援に準じた計画作成や連絡調整を行うものであり、介護保険給付費として支給される。給付額は他のサービスと同様に9割相当額が基準とされる。
これまで、特定施設の指定を受けていない有料老人ホームに入居する要介護者のケアプラン管理は、制度上の隙間として長年審議されてきた。今回の登録制度はその隙間を埋めることを目的としているが、新たな利用者負担が生じる仕組みであることから、入居者への丁寧な説明と、事業者内部の運営体制の整備が求められる。施行は公布後3年以内の政令で定める日とされており、準備期間は限られている。
5. 経営者として今すぐ取るべき行動
法案の内容は多岐にわたり、その影響も複合的に生じる。施行スケジュールを正確に把握した上で、登録制度への対応要否、夜間サービス体制の再点検、ケアマネジャーの研修管理体制の見直しという3点を、今から優先的に着手すべき課題として位置づけることが必要だ。国会審議の動向を継続的に注視しながら、情報収集と準備を並行して進めることが重要である。







