2023年1月5日

【小濱道博】次の介護保険の見直しは「小幅」ではない 現場は今後の大改革に備えよ

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《 小濱介護経営事務所:小濱道博代表 》

昨年12月20日、社会保障審議会・介護保険部会が2024年度に向けた「介護保険制度の見直しに関する意見」を取りまとめた。【小濱道博】

この中では、自己負担2割の拡大、高所得者の1号保険料の引き上げ、介護老人保健施設などの多床室料の自己負担化といった重要な論点について、結論が今年夏まで先送りされている。


また、軽度者の生活援助などを総合事業へ移管することやケアプランを自己負担化することなどは、結論が3年後まで持ち越された。


これらを踏まえ、「今回は小幅な制度改正に留まった」という経営者の声を聞くことが多い。ただ、私は必ずしもそうは思わない。介護保険部会の意見書を読み込めば分かるが、これは近年に無い大改正と捉えたほうがよいのではないだろうか。


例えば意見書には、介護保険の被保険者・受給者の範囲について、以下のような記載がある。


・将来的には被保険者の範囲を拡大して介護の普遍化を図るべき、現実に40歳未満の若年層でも介護をしている実態がある、などの意見もあった。


・高齢者の就業率の上昇や健康寿命の延伸、要介護認定率の状況なども踏まえ、第1号被保険者の対象年齢を引き上げる議論も必要、との意見もあった。

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介護保険制度では、第2号被保険者を「40歳以上65歳未満」と設定している。これを「30歳以上65歳未満」に引き下げることは、過去の介護保険部会でも繰り返し論点として取り上げられてきており、今回も継続審議となっている。40歳以上から30歳以上へ引き下げる目的を、年々増加していく介護保険料の抑制であると考えている方が多いし、実際それは正しい。


しかし、そもそも何故、介護保険料は40歳以上の負担となっているのか。その理由をご存じだろうか。


介護保険法を構築する過程では、他の社会保険と同様に20歳以上が負担する案と、40歳以上が負担する案の2つがあった。長い議論の結果として、40歳以上の負担に落ち着いた経緯がある。


決め手になったのは、介護保険サービスを65歳以上が利用すること。負担はその子供の世代がすべきという考え方のもと、当時65歳以上を親に持つ子供の多くが40歳台であったため、40歳以上が保険料を負担することとなった。


しかし、制度が始まって20年以上の歳月が流れ、その間に進んだ晩婚化によって、現在65歳以上を親に持つ子供の世代が30歳台となっている。よって、第2号被保険者の範囲を40歳以上から30歳以上に引き下げる理由は明確になった。近い将来この引き下げは実現する、と私は考えている。


もっとも、まずは現行制度の中で給付と負担の見直しを着実に実施することが先決、との意見も根強い。これが今回の意見書でも継続審議となった背景だ。ただ、次回以降はどうなるか全く分からない。より具体的な議論が行われる可能性も十分にある。

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そしてより注目すべきは、「第1号被保険者の対象年齢を引き上げる議論も必要」との意見が明記されたことである。すなわち、介護保険サービスの利用開始年齢を65歳から70歳へ引き上げる検討が近い将来始まると考えるべきだ。


現在、会社員などの定年は60歳であるが、2025年からは65歳となる。また、70歳までの就労機会の確保が努力目標となっている。さらに昨年4月から、公的年金の繰り下げ受給について、受給開始年齢の上限が70歳から75歳へ引き上げられた。日本老年学会は2017年に、「高齢者」の定義を65歳以上から75歳以上にすることを提言している。


これらを踏まえて、介護保険制度でも、サービスの利用開始年齢を引き上げる議論が始まることは疑いの余地もないだろう。


介護保険サービス事業は、行政から許認可を受けて運営を行う“制度ビジネス”である。その制度は3年ごとに改正される。


事業者は今回出された意見書を読み込んで、先を予見しながらしっかりとした戦略を立てなければいけない。重要テーマが先送りされたことだけを見て「小幅改正」と片付けることなく、今後の大改革に今から備えることが求められる。


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