2023年5月1日

【山口宰】介護現場もビジョンを持って伝えよう でも掲げるだけでは意味がない

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《 社会福祉法人光朔会オリンピア・山口宰常務理事 》

新年度がスタートし、ひと月が過ぎました。ユニットリーダーや管理職に就任し、新たな仕事に奮闘している方もおられることでしょう。


チームを率いる存在になったとき、まず大切なのは「ビジョンを描く」ということ。そこで今回は、介護の現場で「ビジョン」をどう作り、どうメンバーに伝えていくべきか、考えてみたいと思います。【山口宰】

◆ リーダーがまず取り組むこと


私が、施設や事業所のリーダー・管理職の研修やセミナーでお話しをするとき、必ず最初にお伝えするのは「ビジョンを持ちましょう」ということ。理想のユニットや事業所を作り上げるために、ビジョンは不可欠な要素だからです。


最近では、ビジネスの世界だけでなく、介護の現場でもビジョンの重要性がよく語られるようになってきました。では、ビジョンとはいったい何なのでしょうか。


リーダーや管理職となったみなさんを、チームのメンバーとともに航海へ出る船長に例えてみましょう。


天候もよく、準備も万端、港には見送りの人がたくさん集まっています。期待に胸を膨らませ、さあ大海原へ漕ぎ出そうというそのとき、1人の乗組員から疑問の声が上がりました。


「船長、いまからどこに向かって船を進めればいいんですか?」。それを示すものが「ビジョン」なのです。

「ビジョンとは、自分が何者で、何を目指し、何を基準にして進んでいくのかを理解することである(*)」


*「ザ・ビジョン」|K.ブランチャード&J.ストナー(2004)|ダイヤモンド社


世界のビジネスリーダーたちに最も大きな影響を与えた本の1つである「1分間マネジャー」の著者、K.ブランチャードはこのように定義しています。


「こんな施設を作りたい」「こんなユニットにしたい」。みなさんは毎日、そんな理想を思い描きながら現場でケアを行っていることでしょう。


でも、その思いを心の中に秘めていては、なかなか人には伝わりません。みなさんが描く、自身のチームやユニットが目指す「理想の姿」「ありたい姿」を目に見える形にすること。これこそが、福祉の世界で求められるビジョンなのです。


◆「レンガを積む男」


1666年、ロンドン大火で焼失したセント・ポール大聖堂の再建にまつわる有名な寓話があります。

イギリスのとある町の建築現場。3人の男がレンガを積んでいた。そこを通りかかった人が、男たちに「何をしているのか?」とたずねた。


1人目の男は「レンガを積んでいるんだ」と答えた。2人目の男は「食うために働いているのさ」と言った。


3人目の男は明るく顔を上げてこう答えた。「後世に残る町の大聖堂を造っているんだ!」と。


3人の職人が行っていたのは、全く同じ「レンガを積む」という作業です。でも、その先にビジョンが見えているかどうかによって、その仕事の持つ意味は大きく異なるのではないでしょうか。


これは介護の現場でも同じことが言えます。利用者さんへの声かけ、身体介助、配膳、記録、清掃、消毒…。スタッフが行うべきことは、数え切れないほどあります。


しかし、「決められた業務だから」「上司に指示されたから」行うのと、「利用者さんがこれまで通りの生活を続けられるように」「理想のユニットをつくるために」行うのでは、その仕事はまったく違ったものになるでしょう。

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◆ ビジョンの作り方


ビジョンを作るときには、リーダーが1人で考えるのではなく、スタッフを巻き込んで一緒に作り上げることが大切です。どんなチームにしたいか、どんなユニットにしたいかを話し合う機会をぜひ持ってください。


模造紙と大きな付箋を用意して、ブレイン・ストーミングでひとりひとりの思いを書き出し、KJ法を使って整理していくのもよい方法です。会議でなかなか意見が出ない場合は、事前にアンケートを取ってみるのもよいでしょう。


ビジョンを作り上げるプロセスに携わることによって、ビジョンは「自分たちのもの」になっていきます。組織や上司から与えられるとどこか他人事になってしまいますが、自分たちで作ったビジョンには責任が生まれてきます。ビジョンはその内容と同じように、実際に作り上げていくプロセスが重要なのです。


ビジョンは、カッコいい言葉や専門用語で書く必要はありません。自分たちの言葉で、誰にでも分かりやすいものにすることが大切です。みんなで言ってみて、人に伝えてみて、毎日がワクワクするようなビジョンを作っていきましょう。


◆ ビジョンを実践するために


ビジョンは「作って終わり」ではありません。日々のケアや業務の中で、ビジョンにもとづいて仕事をして初めて生きたものになるのです。


チームのメンバーとともに一生懸命作り上げてきたビジョンを、「綺麗にデザインして額に入れて飾っておく」だけでは意味がありません。


定期的に、ビジョンについて話し合う機会を持ってみてください。メンバーひとりひとりがビジョンについてどう考え、日々の仕事の中でどう捉えているのか、ビジョンを作ったときのように意見を出し合ってみましょう。


時には、理想と現実のギャップにがっかりしてしまうこともあるかもしれません。でも、チームのメンバーで議論を重ねれば、きっとそのギャップを埋めていく方法が見つかるのではないでしょうか。


ビジョンがどれだけ浸透しているかチェックする、簡単な方法があります。


それは、そのチームで一番新しいスタッフにビジョンを聞いてみること。ちゃんと答えられれば、チーム全体にビジョンが伝わっているという証拠になります。ぜひ、みなさんのチームでも試してみてください。


ビジョンに向かって順調に航海が進められていると感じるときは、ビジョンをより遠くの目標に向けて修正することも可能です。定期的にいまの状況を見直し、よりよいビジョンを作り上げていくことによって、みなさんの理想の施設やユニットに近づけていきましょう!


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