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2023年5月22日

経営者はケアマネに自社サービスを優先させないで 公正中立な自立支援のプラン作りを目指そう=田中紘太

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《 株式会社マロー・サウンズ・カンパニー|田中紘太代表 》

今さら言うまでもないが、介護保険の基本理念は「尊厳の保持」と「自立支援」となっている。自立支援の概念は広く、単にADLや要介護度の改善だけを指すものではないと論じられることが多いが、今回は要介護度の変化に応じて設定されている介護報酬の観点から自立支援を考えたいと思う。【田中紘太】

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◆ 今こそ原点に立ち返ろう


介護報酬上の評価では通所系サービス、入所系サービス、居宅介護支援において、ご利用者様の要介護度が重度化するのに伴い、その分介護負担が大きくなることを考慮し、介護報酬も増える仕組みとなっている。


あわせて、通所系サービスの「中重度ケア加算」、居宅介護支援の「特定事業所加算I」のように、要介護3以上の利用者の割合を要件とする加算もある。これらは、重度者に対して積極的に支援を行う事業所をより手厚く評価する仕組みだ。


こうした報酬体系には一定の合理性があるが、要介護度が改善することで事業所の収入が減少してしまうディスインセンティブが働いている、という問題提起もなされている。


一方で、通所系サービスや入所系サービスには「ADL維持等加算」、「事業所評価加算」といった仕組みがあり、ADL値や要介護度の維持・改善に対してインセンティブが付けられている。


また、東京都では要介護度の維持・改善に寄与した事業者に報奨金を支給する独自の新規事業が今年度から始まる。過去にも品川区や千葉県浦安市で同様の取り組みが設けられていたが、市町村レベルではなく都道府県レベルで報奨金を出すのはこれが初めてだ。


介護サービス事業所はこうしたインセンティブも活用しつつ、介護保険の基本理念の通り自立支援の取り組みでADLや要介護度などの改善を目指すべきである。実際、ほとんどの事業者は自立支援を念頭に置いた支援を行っていると感じる。


しかし一方で、要介護度が重度化すればその分だけ事業所に入る収入が増えることも事実である。財務省の審議会などでは以前から、本来の趣旨にそぐわない運営をしている居宅介護支援事業所が一定数あると指摘されてきており、ここは業界として自律的に是正していくべき問題だと考える。今こそ自立支援・重度化防止の原点に立ち返ったケアマネジメントの推進が必要ではないか。


◆ 上司に指示されたら簡単には断れない


ケアマネジャー自身が職業上の高い倫理観を持ち、自立支援、要介護度の改善、不必要なサービスを位置付けないことを念頭に置いたケアマネジメントを行うことは大前提だ。あわせて、ケアマネジャーではない経営者・上司なども、ケアマネジャーに対して自法人のサービスをケアプランに位置付ける指示を出さないよう、改めて徹底して頂きたいと思う。


新人ケアマネジャーが新たに入社した場合を想定すると、経営者や上司から自社のサービスをケアプランに位置付けるよう指示が出てしまった場合、または口頭で言わないまでもそうした雰囲気が職場にあった場合は、なかなか断りづらいことは容易に想像がつくだろう。


介護サービス事業を経営している方の思考プロセスとして、集客や事業拡大を考える際に、居宅介護支援事業所を併設して自社の集客を強めようと考えるのは、当然と言えば当然である。


だが、自社のケアマネジャーなら全て併設サービスを紹介することが当然だ、とは思わないで頂きたい。ご利用者様のことを第一に考え、他事業者の介護サービスがその方にとってより適切だと考えた場合、そこに相談することは至極当然である。


実際に他事業者を紹介するな、自社へ紹介しろと指示を出すことは運営基準で禁止されているが、例えば自社に紹介することで手当てが付くような給与設定をしている会社もある。また、口頭では言わなくても自然と自社紹介を増やす雰囲気や動線を敷いている会社もある。


「特定事業所集中減算」の紹介率(80%)を常に意識し、その計算をしながら日々の業務をしているような居宅介護支援事業所やケアマネジャーがいるのであれば、それはおかしな状況だと理解して欲しい。


◆ 問題視されるサ高住への給付


また、サービス付き高齢者向け住宅のケアマネジメントに対する指摘も多々ある。例えば、併設の事業所でなくてもサ高住など施設側からの指示により、いわゆる“言いなりケアプラン”を作成している事例などがあげられる。


今月11日に開催された財務省の審議会では、こうしたケースなどを想定して居宅介護支援に「同一建物減算」を導入することが提言された。


ケアマネジャーとしては移動時間が短く、施設内のサポートにより概ね支援が完結するため、その業務負担が個人宅と比べて明らかに少ないことは容易に想像できる。これは一昨年度の国の調査でも明らかにされており、財務省の提言には一定の合理性があるのではないか。


サ高住と居宅介護支援事業所、またはケアマネジャー自身が同一法人にいないケースでも、両者がwin-winの関係となってしまっていることで、“いいなりケアプラン”が量産されてしまっている現状がある。


ご利用者様がサ高住などに入所していたとしても、ケアマネジメントプロセスを通常通りに実施することは当然であり、アセスメント・課題分析をしっかりと行って、その結果を踏まえて自立支援に必要な支援を行うことが基本だ。施設側に忖度し、区分支給限度基準額いっぱいまでのサービスをケアプランに無理やり盛り込むことがケアマネジャーの業務ではない、ということを改めて再認識して頂きたい。


今もこうした運用を取り締まるための仕組みはあるが、実際にはサ高住などのケアマネジメントを多く担っていても、すり抜けられている事業所も少なくないのが現状で、必ずしも抑止力になっているとは言い難い。ケアプラン点検も実施数が少なく、点検によりサービスの見直しにつながった例は多くない状況だと指摘されている。


サ高住と関連のある居宅介護支援事業所、介護サービス事業所と併設の居宅介護支援事業所などに所属しているケアマネジャーであっても、可能な限りしがらみなく、真に利用者のことだけを純粋に考えて、自立支援・重度化防止、公正中立なケアマネジメントを推進できる環境が整うことを切に望む。


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