【高野龍昭】変わりゆく要介護の原因 これからの「自立支援・重度化防止」のターゲット
1.国民生活基礎調査とは
私が注目している政府の統計調査のひとつに、厚生労働省の「国民生活基礎調査」があります。この最新の結果が7月に発表されました。【高野龍昭】
この調査は、厚生労働省が保健医療・福祉(介護)・年金・労働などの施策を実施・立案するために、国民の生活の実態を捉える基礎データを幅広く集めることを目的としたものです。政府の「基幹統計」のひとつで、調査結果などはオープン・データ化されています。
調査と結果の公表は毎年1回ですが、3年に1回は大規模調査として実施され、収集データの範囲が拡大されます。今回発表された2025年分は、その大規模調査にあたります。
2.「介護が必要となった主な原因の構成割合」の変化
この大規模調査の年次には、要介護高齢者の生活実態を把握するためのひとつのデータとして、「現在の要介護度別にみた介護が必要となった主な原因」が発表されます。
そのデータの「総数」(要介護・要支援認定を受けた人の全体)に関する「原因」の上位5項目について、介護保険法が公布(1997年12月)されて以降のものを私が確認し、図のように示してみました。
なお、調査の方法から考えると、縦断調査などではない調査データを経時的に折れ線グラフで示すのは、統計学的には決して正しい図示のしかたではありませんが、変化をわかりやすく視覚的に表すためにこの形式を用いてみました。

まず、私が驚いたのは、1998年以降、一貫して上位5つは、
● 認知症
● 高齢による衰弱
● 脳血管疾患
● 骨折・転倒
● 関節疾患
で変化がないことです。
そして、私が次に着目したのは、「『データが表す転換点』が2ヵ所ある」のではないか、ということです。
① 2016年以降は「認知症」がトップに
そのひとつは2016年の調査結果です。それまでずっと第1位であった「脳血管疾患」が第2位となり、代わって「認知症」がトップになった年です。
私は1986年から医療福祉・介護の分野に身を置いていますが、その頃から老人保健法で「脳卒中後の廃用症候群を避ける『寝たきり老人ゼロ作戦』」のような課題を主要ターゲットとした3次予防を念頭に置いた施策が展開されていました。
その後、2次予防にもシフトしつつ介護予防施策が重要視されてきた経過があります。それは介護保険制度施行以降も続きます。
そうしたなか、2013年度からは「オレンジ・プラン(認知症施策推進5ヵ年計画)」が施策化され、それ以降、高齢者介護の施策は認知症を主要ターゲットとしたものに変化していきました。
介護予防施策に関しても、BPSDの軽減策の標準化や「通いの場」の重視という流れが現れ、1次予防から3次予防までを包含した対応へと発展していきました。そこに「ゼロ次予防」(「つながり」や「共生社会」の重視)を包含する形で、2023年公布の「認知症基本法」へと至っています。
こうした施策の展開の経過については、そのバックボーンのひとつとして、「介護が必要になった主な原因として『認知症』が増えている」「2016年の調査では、そのトップがついに『認知症』になった」という、この調査結果の変化があると考えて良いのではないでしょうか。
② 2025年には「脳血管疾患」がトップ3の圏外に
もうひとつの転換点は、今回発表の2025年の調査結果です。今回の調査では「脳血管疾患」がついにトップ3から消え、第4位となりました。指数(%)も低落が続いています。
かつては、その原因として圧倒的多数であった「脳血管疾患」が減ったのは、2000年代半ばに脳梗塞に対するt-PA療法(アルテプラーゼ静注療法)が医療保険適用となって、画期的な治療効果をみせるようになったり、回復期医療の病床が整備されて医学的リハビリテーションが質・量の両面で拡大したりした点があると考えられます。
医学・公衆衛生学分野での複数の研究で、わが国で「高齢者が同年齢で脳卒中を起こす発症率は、近年大きく下がっている」ということも報告されていますから、そうしたことも影響しているはずです。
さらには、従前からのいわゆる介護予防・疾病予防の取り組みや、現行の自立支援・重度化防止の施策が効果をあげていることも考えられます。
おそらく、このことは近年の高齢者介護・医療の予防的施策の展開が、「脳血管疾患モデル」「認知症モデル」だけでなく、「フレイル対策」「ロコモ対策」「運動・栄養・口腔の複合的対策」に拡大してきたことと一致しています。
3.今後の「自立支援・重度化防止」施策のターゲット
国民生活基礎調査の結果からは、介護が必要になった主な原因はダイナミックに変化しており、それが施策の動きにも一定の影響を及ぼしていることがわかります。
主な5つの原因の疾患にそれぞれ共通に関連していることとして付け加えると、近年の公衆衛生分野での研究では「『ソーシャル・キャピタル』の豊富な地域で、高齢者の疾病リスクと要介護リスクが関連している」ということが次々と報告されています。
この「ソーシャル・キャピタル」とは「社会関係資本」と訳されていますが、簡潔に言えば「社会的つながり」のことで、信頼関係・互酬的な関係・それらのネットワークの多様性を指す社会学分野の概念です。このことは、近年の高齢者介護・高齢者福祉の施策の方向性にも大きな影響を与えています。
そうした動向を踏まえつつ今回の調査結果をレビューしてみると、今後の自立支援・重度化防止の施策は、「地域で『つながる』」ことを重要視したものになっていくのではないか、と考えられます。
このことは、WHOが2008年に発表し、2010年代後半以降にその意識が国際的に拡大している「健康の社会的決定要因」、すなわち「健康は単なる医療や個人の生活習慣(禁煙・食事・運動等)に関連する問題ではなく、社会的・経済的な環境に強く影響されるものである」という考え方とも一致していると言ってよいでしょう。
私は、今回の国民生活基礎調査の最新データから、そのようなイメージを膨らませています。











