【田中紘太】カスハラ対策、録音の是非と「正当な理由」の明確化を 訪問する介護職を守るために
10月1日に改正労働施策総合推進法が施行され、介護事業者にもカスタマーハラスメントへの対策が義務付けられました。職員を守る方針の明確化や相談体制の整備、事案が起きた際の迅速な対応などが求められます。【田中紘太】
介護事業者が実施すべきことについては、既に記事でまとめられています。
ここでまず確認したいことは、今回の義務化は全産業の事業者を対象とする措置であり、介護報酬上のルールとは異なるという点です。対策が未整備だからといって、直ちにサービスを提供できなくなったり報酬が減算されたりするものではありません。
もちろん、だからといって対応を後回しにしてよいというわけではありません。ケアマネジャーが訪問先で殺害されるような痛ましい事件も起きています。大切なのは、制度の位置付けを正しく理解したうえで、職員を守る実効性ある仕組みを整えることです。
◆ 録音を安心して活用できる環境を
カスハラ対策で重要なことは何か。そのひとつとして、事実をしっかり残すことがあげられるでしょう。
例えば、利用者・家族から暴言を受けて行政に相談するケース。ここで証拠がないと、相手がカスハラを否定して「言った・言わない」の論争になってしまいます。
有効な手段は録音です。何が起きたかを正確に伝えられ、職員を守るための毅然とした対応に正当性を持たせることができます。
録音は本来、必ず利用者の同意を得たうえで実施すべきものです。ただ、カスハラの相手から同意を得ることは困難を極めます。急にカスハラをやめる人がいるほか、申し出によって激高させてしまうリスクも想定されます。
それでは、本人に知らせずに行う秘密録音は、介護現場でどこまで認められるのでしょうか。取り扱いが難しい問題で、現場レベルではなかなか判断ができません。
事業所が職員を守る措置を安心して取れるよう、行政に考え方の整理や分かりやすい判断基準の共有などを期待します。
◆ 危険な訪問を避ける「正当な理由」を明確に
事実を記録することに加え、危険があるときにどう対応できるかも重要です。私が特に求めたいのは、サービスの提供を拒否できる「正当な理由」の該当事例を、国が分かりやすく示すことです。
居宅介護支援などの運営基準では、「正当な理由」なくサービスの提供を拒んではならないと定められています。しかし、その解釈は必ずしも明確ではありません。危険を感じても訪問を続けるべきか、現場は判断に迷います。
厚生労働省は8月末の審議会(社会保障審議会・介護給付費分科会)で、こうしたルールの見直しの是非を論点として提示しました。「正当な理由」の明確化を求める声がある一方で、利用者・家族への影響を懸念した慎重論も出ているようです。
言うまでもなく、利用者への支援を続けることは非常に重要です。だからこそ、ケアマネジャーらが無理に訪問して身の危険に晒されてしまう状況を、制度的に変える必要があるのではないでしょうか。
私も以前、訪問のたびにひどい暴言を浴びせられるケースを担当したことがあります。行政に相談したところ、その時は「もう無理に訪問しなくてよい」という判断をしていただきました。距離感をうまく取れるようになったからこそ、その後も長く担当を続けることができました。
既に実態として、カスハラが「正当な理由」として扱われているケースがあります。現場の臨機応変な判断を支えるため、国としても危険なサービスの提供を回避できる「正当な理由」を明確にしてほしいと思います。
例えば電話でのモニタリングなど、対応方法に選択肢があれば善後策を検討しやすくなります。職員の安全を確保しながら、必要な支援をなるべく続けられる環境の整備を求めます。
◆ 職員に抱え込ませない体制を
こうした制度上の整備を求めるとともに、事業所内の体制づくりも欠かせません。
私たちの事業所では、以前から、問題があれば主任ケアマネジャーや管理者に相談できる体制を整えています。事業所だけで解決できない場合は、地域包括支援センターや行政にも連絡し、共に対応策を考えています。
ハラスメントがあった場合の契約解除についても、あらかじめ契約書に記載して十分に説明しています。職員を守る姿勢を明確に示し、組織として対処するための備えです。
相談先を決め、対応方針を共有し、外部の関係機関ともつながっておく。職員個人に抱え込ませないことが基本です。
誰もが安心して働ける環境は、利用者への支援を続けていくための土台でもあります。それぞれの事業者が現場の状況に応じた対策を講じ、職員の安全を確保することが重要です。









