2022年12月21日

【高野龍昭】次の介護保険改正、極めて異例の展開に 結論先送りに内閣支持率や統一地方選も影響か

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《 東洋大学 高野龍昭准教授 》

◆ 議論は来年夏まで続く


去る12月19日、社会保障審議会・介護保険部会で、2024年度に向けた「介護保険制度の見直しに関する意見」が“一応の決着”に至りました。【高野龍昭】

通常であれば、この「意見」をもとに厚生労働省内で改正法案が検討され、来年1月に開会される通常国会にその法案を提出、来年6月頃の会期末までには法案成立・公布となります。その後、法改正の細則を定める政省令・通知が発出され、再来年(2024年)4月の施行を迎えるはずです。


しかし、今回の「意見」をみると、見直しの重要な論点について、両論併記や「引き続き検討」といった記述が非常に多く見られます。これは、いずれも「(今回は)見直しをしない」ことを示す表現です。


また、注目されるのは、これまでなかった「次期計画(2024年度から)に向けて結論を得ることが適当」という表現がいくつかあることです。このことは、部会で「次期計画」に向けた見直しの議論をしてきたにも関わらず、その結論がまだ出ていないことを示しています。


厚労省は「意見」に、利用者負担の引き上げなどの重要案件について、「遅くとも来年夏までに結論を得る」と明記しました。本文の冒頭に“一応の決着”と記したのは、大きなテーマの先送りがこうして決められたためです。


◆ 懸念される現場の混乱


社会保障審議会については、介護保険法の様々な条文の中に、厚生労働大臣が重要な制度改正を決める際に「意見を聴く」ことが義務付けられています。したがって、厚労省から国会に介護保険法の改正案を提出したり、政省令を改めたりする際には、部会の意見が決着していなければなりません。


図1に示すとおり、過去の介護保険法改正にあたっては、いずれも改正法施行の1年3ヵ月ほど前に「意見」が示されています。国会への法案提出→審議→成立・公布→関連する政省令発出や介護報酬改定→施行といったスケジュールを考えると、この時期がギリギリの期限とも言えます。

この「意見」の最終的な決着が、目指すべき改正法施行の7ヵ月前になるということは、極めて異例の事態です。最も懸念されるのは、政省令の発出が遅れることにより、高齢者や介護実践現場、保険者などで混乱が生じることです。


◆ 目前に迫る「危険水域」と統一地方選挙


このような異例の事態となった理由は、公には何も示されていません。これについて推測すると、「今、このタイミングで介護保険制度の給付の縮小、国民(利用者)負担の増大などの方針を示すと『政局』になる」といった政治的判断が働いたため、と考えるのが自然でしょう。


図2に岸田政権発足以降の内閣支持率を示しました(朝日新聞社の世論調査による)。これを見ると、いわゆる旧統一教会問題が明らかになって以降、内閣支持率は急落し、12月の最新調査では31%に落ち込んでいます。

政治の世界では、「内閣支持率が30%を切ると政権の『危険水域』」とされていますから、岸田政権としてはこれ以上の支持率低下は何としても避けたいはずです。


今年10月には後期高齢者医療制度の見直しによって高齢者の負担増(2割負担導入)が実施され、12月には防衛費増額のための増税も俎上に上ってきました。ここに介護に関する「国民の痛み」を伴う見直しの方針が明示されれば、「危険水域」に突入することも容易に推測できます。


私は、こうしたことのために、部会の議論も来年夏までに結論を先送りするという方向にせざるを得なかった、と考えています。


さらに、来年4月には統一地方選挙が実施されます。つまり、この全国規模の選挙が終わるまでは部会の議論を「塩漬け」にしておき、選挙結果で政権与党が不利にならないようにしておこう、ということなのだと類推しています。統一地方選挙の結果は、内閣の存続にも影響します。

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◆ 現実味を帯びる総合事業の改革


今回の「意見」の「給付と負担」に関する記載のなかで、過去の部会の「意見」にはなかった書き方で示されているものがあります。私はこれが大変気になりました。


それは、


○ ケアマネジメントに関する給付の在り方(居宅介護支援のケアマネジメントへの利用者負担導入)


○ 軽度者への生活援助サービスなどに関する給付の在り方(要介護1と2の訪問介護、通所介護などの総合事業への移行)


についてであり、いずれも「包括的に検討を行い、第10期計画期間の開始(2027年度から)までの間に結論を出す」と示されました。


単純に言えば、この2点は2024年度には実施しないということです。しかし、同時にこの記述は、2027年度の制度改正に向かう部会の議論、すなわち2025年の部会で結論を出すことを示しています。


私の調べた範囲では、過去の部会の「意見」では、次期計画期間の見直しの方針しか示されていません。しかし、この書き方は「次の次」の見直しの方向性を示すという前例のないものとなっています。


私は、これは厚労省による財務省・財政制度等審議会への一種の「手形」だと読み取っています。


つまり、上記2点の実現を2015年頃から継続して強く迫っている財政サイドに対し、厚労省サイドが「2024年度改正では実施しないが、2027年度改正ではしっかりと議論する」というメッセージを送っている、ということです。


この「手形」により、上記の2点については2027年度改正での実施が逆に現実味を帯びたようにも感じられます。


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