【深層対談】介護AIに何を任すか 問われる人の役割と責任 NDソフト×BOS|前編
介護現場はかつて、テクノロジーの活用や生産性向上への関心が薄いと言われていた。もはや時代が変わったというほかない。【Joint編集部】
深刻な人手不足と膨らむ業務負担などを背景に、AIに対する期待がかつてなく高まっている。活用の余地が大きいことは確かで、記録や議事録、シフト、ケアプランの作成などは一例に過ぎない。
こうした過渡期の只中で、介護ソフト業界を牽引するエヌ・デーソフトウェアの松山庸哉社長と、ブルーオーシャンシステムの寺岡正人社長の対談が実現した。
介護職員から経営者になった松山氏と、エンジニアとして第一線を歩んできた寺岡氏。異なる視座を持ち、本来はしのぎを削る競合関係にある2人が膝を突き合わせて語り合った。AIをなぜ使うのか、どう活かすのか、人は何を担うのか。
【PROFILE】

エヌ・デーソフトウェア株式会社 松山庸哉代表取締役社長。介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員の資格を持ち、介護職員、現場リーダー、施設長、エリア本部長、介護サービス法人役員を歴任。現場から経営まで一貫して介護に携わり、介護現場の課題解決、人材育成、DX推進を通じて、介護・福祉業界の発展に挑戦している。

株式会社ブルーオーシャンシステム 寺岡正人代表取締役。1991年より介護・障がい福祉分野の研究開発に従事し、厚生省研究事業に多数参画。ニューメディア開発協会主催メロー・ソサイアティーグランプリ受賞、AI分野の特許を先駆けて取得。1993年以降は特養のOA化研究事業に携わり、記録システムの開発で業界を牽引。1995年に富士ロジテックデータシステム(現ケアコネクトジャパン)へ転籍後、取締役開発部長、統括部長を歴任して業界の基盤構築に貢献。2010年に株式会社ブルーオーシャンシステムを設立し、介護現場に根ざした技術革新を推進。
◆ AIは介護現場をどう変えるか

寺岡:私はもともとエンジニアですので、既に日々の仕事でAIを頻繁に使っています。実際に触れていると、その力は非常に大きいと感じます。
今後、介護現場でも広く使われていくでしょう。松山社長は介護現場に実際に従事された経験をお持ちですが、AIの可能性をどう見ていますか。
松山:寺岡社長とは歩んできたキャリアが異なりますが、私も同様にAIのポテンシャルは非常に大きいと思っています。介護現場は人手不足が深刻です。職員を支え、生産性向上につながる技術は非常に重要でしょう。
寺岡:弊社でも早くから音声入力や多言語翻訳などの実装を進めてきましたが、生成AIの登場で可能性はさらに大きく広がりました。
松山:生成AIが出てきて、特に「言葉」を扱う力が大きく高まったと思います。介護現場には多くの事務作業があるので、この力をうまく活用できればインパクトは非常に大きいでしょう。
◆ 大切なのは「何のために使うか」

寺岡:気をつけなければならないのは、AIを導入すること自体が目的になってはいけないということです。
介護業界が向き合うべきは、人手不足の解消やケアの質の向上、利用者さんの生活の質をどう高めるかというテーマです。AIはこうした課題に対応する手段にほかなりません。
弊社では以前から、「気づく・学ぶ・つなぐ」というコンセプトをベースに製品を開発してきました。AIは、介護現場のそうした力をさらに広げてくれる技術だと捉えています。
松山:AIを活用する最大の利点は、職員が利用者さんと向き合う時間を増やせることですよね。人をAIに置き換えるのではなく、AIが人をサポートする。100の仕事をしていた職員が、AIの力を借りて150の力を発揮できるようなイメージを持っています。
寺岡:共感します。例えばスマートフォンのように、AIを使っているということを特別に意識しないまま、誰もが自然に使えるようになることも重要ですよね。置いてけぼりを出さず、介護現場に広く普及・浸透させる工夫が求められるでしょう。
松山:そうした変革の渦中で、どうしても避けられない論点が浮上します。何をAIに任せ、何を人が担うのか。ベンダーの我々が主体的に、介護現場を支える皆さんと共に考えていかなければいけません。
◆ 常に人が責任を持つ

松山:AIは優秀なパートナーですが、やはり責任主体にはなれません。常に人が確認して、人が判断して、人が責任を持つ。この原則は今後も変わりません。
例えば記録やケアプランなどは、AIに下書きを作ってもらうことができるでしょう。ただし、最終的に「これでいく」と決定するのは事業所、管理者、専門職です。
寺岡:大原則ですね。AIは間違うことがあり、入力内容によって全く違う答えが返ってくるものです。これを前提に人が責任を持つことが、まずは基本になるでしょう。
松山:例えばケアプランで言えば、AIがさらっと「答え」を書き上げてくれたとしても、それをそのまま採用してはいけません。「なぜその結論に至ったか」という根拠が非常に重要です。
利用者さんの状態や生活環境、意向などを踏まえて、本当に最も良い計画になっているのか。そこを考え、判断するのは常に人です。AIには、その判断を支えるパートナーであってほしいと思っています。

寺岡:「なぜその結論に至ったか」をクリアにする根拠として、例えば関連する介護記録が明示されるなど、システムに人がチェックするための機能が備わっていること、また、見つかったAIの間違いを人が簡単に修正できる機能が備わっていることが重要になります。
今後はもう一歩進んで、誰がどの段階で、どのようにチェックするかまで検討する必要があるでしょう。
議事録の場合、ケアプランの場合、事故報告書の場合など、それぞれ人がどう介入するのがベストなのか。そうした手順自体を設計することが重要になっていきます。
松山:そうですね。何をAIに任せ、どこから人が責任を持つべきか。私たちベンダーが正しく伝えることも大切になっていきますね。
▶ 後編では、AIへの過度な期待を煽らない情報発信のあり方と、ベンダーの競争・協調に迫る。











